第42話 注射はフェンリルの天敵
「ダイちゃん、やめて・・・お願い・・・・お願い・・・・・。」
涙目でガクブルと震える魔王様。
「ダメよ!予防接種は国民の権利と義務だって決めたのはカールでしょう!魔界ランドの住民は全員無償で魔界インフルエンザの予防接種を受けるの!カールも受けるの!」
「わ、わしは魔王だし!強いし!強いから予防接種いらないし!」
涙目で強がる魔王様。
「仕方ないわね・・・ガブッ!」
ダイアナがカールの首に噛り付いた。
「ちゅうー!」
ぐずりながら暴れていた魔王様が貧血で大人しくなった。
魔王様の愛する奥さんは吸血鬼族だが、最近ではカールがぐずった時くらいしか血を吸うことがない。
「じゃ、お願いします。」
カールの血を吸ったダイアナが美しい笑顔で振り返ると、無表情の医師が現れた。
「あわわわわ・・・・・。」
医師の手の注射器が無慈悲に光る。
「きゃあーーーーーーーーーーーー!」
魔王様の叫び声が宮殿に響き渡る。
めそめそめそめそ・・・・・
リビングのクッションに埋もれて魔王様が泣いていた。
「じいじ・・・。」
すすり泣くカールの背をエマが優しく撫でる。
「甘やかすことないのよ、カールは大袈裟なんだから!」
もう!っとダイアナが呆れ顔だ。
しかし、こんなに弱ったカールを見たことのないエマは心配でならない。
暖かい光がカールの身体を包む
「じいじ、癒しの魔法です。まだ痛いですか?」
癒しは天使族のエマにとって得意な魔法でもある。
「エマちゃん・・・じいじ、もう痛くないぞ。」
痛くないと言いながら耳も尻尾も垂れたままだ。
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
デイモンの叫び声だった。
「ダモ!じいじ!ダモが!ダイちゃん!ダモの声です!」
「大丈夫よ、モンたんもたかが注射で大袈裟なんだから・・・。」
まったく心配そうでないダイアナは呆れ顔だ。
よろり・・・・。
耳と尻尾を垂らした瀕死(の、ように見える)フェンリルが現れた。
「ダモッ!」
エマが駆け寄る。
「ピスピスピス・・・・。」
泣きながら甘えるようにデイモンが鼻を鳴らす。
ぐったりと弱弱しいデイモンにも癒しの魔法をかけ、小さな手で背を撫でた。
「そう、陛下たちは注射が苦手なのねえ。」
「私たちは今日よ。」
なんですと?今日?今日何があるのですか?
カールたちの翌日が魔女たちの順番だった。
使い魔たちも列を作って大人しく受けている。
「さ、次はエマちゃんよ。」
あれほど怯える様子を見せられて怯えない訳がない。
「え、エンマはいいです。」
「だめよ。」
「いいです!やめてください!」
ぶすっ!
幼女の抵抗など魔族にとって微風のようなものだった。
「おいおいおいおい・・・・・エンマ、やめてくださいって・・・いいまじたー・・・・・おいおいおい・・・・。」
ダイアナにしがみついてエマが泣いていた。
ダイアナの足元には三つ指ついて耳と尻尾を垂れたフェンリルが二頭。
「あなたたちが大騒ぎするから!」
ダイアナが怖い。
「あんな姿を見せつけて、エマちゃんが怯えない訳ないでしょう!」
うな垂れる二頭のフェンリル。
「二人とも、次の予防接種までに痛くなくて怖くない注射を開発しなさい。」
え!無理っす!と言わんばかりの表情でダイアナを見上げる二頭のフェンリル。
そんなフェンリルたちを睨み据えるダイアナ。
カールとデイモンが催眠術の勉強を始めるきっかけとなる事件だった。
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