第28話 デイモンの弟の薫君はいじわるです

「ただいまです!」

お昼に飛んで帰ると、いつものようにデイモンが抱き留めてくれた。

「どうしましたか?」

ダイニングの方がいつもより騒がしい。

「僕の弟のかおるくんが来ているんですよ、エンマは初めてですよね。」

ダイニングには20歳くらいの黒髪の美しい青年がいた。

「エマちゃん!紹介するわ、孫のかおタンよ。」

「モンたんの3歳下の弟だから今年、二十歳になるのじゃよ。」

「かおタンの名前はカールから取ったのよね?」

「婿殿が名付けてくれたのじゃー。婿殿の光(ヒカル)と儂のカールが由来じゃ。」

カールとダイアナがデレデレだ。

かおる君は父さん似で淫魔族なので僕よりも成長が早くて、実年齢通りなのですよ。」

デイモンより大人っぽいのは種族が違うかららしい。

「こんにちは、エンマです。」

「・・・・。」

ぷいっと顔を背けられた。

「こらこら、もう子供じゃないのじゃから人見知りは卒業しないとな!」

カールがフォローする。

「エンマ!今日はエビグラタンですよ。」

エビグラタンはエマの大好物だ。デイモンにつられて笑顔になる。




午後はヒースと一緒に収穫したレモンを持って唄子さんを訪ねた。

一緒にレモネードを作るのだ。

「唄子さん!レモンです!!」

「ずいぶん立派なレモンができたね!」

エマからレモンを受け取った唄子さんが嬉しそうだ。

えへへ、エンマ頑張りましたよ。毎日通いましたからね!

「ピンクグレープフルーツの果汁を足してピンク色のレモネードにしてみようか?」

それ絶対に美味しいです!!

「ピンクにします!」

「蓋つきの瓶にレモンの輪切りとはちみつを入れて一日以上置くんだけど・・・魔法をかけて・・・出来上がり!」

「わあ、一瞬でレモンがしっとりしてシロップがタプタプです!」

「一晩とか一日置いて美味しくなるレシピをすぐに完成させたくてね、醸造魔法や発酵魔法を改良したのさ。このシロップをピンクグレープフルーツの果汁で割って氷を入れて、飾り用に取っておいたレモンの輪切りを浮かべて出来上がり!さあ、どうぞ。」

ピンク色とはちみつ色が混ざって美味しそうです・・・ごくり。

「美味しいです!」

「うん、美味しいよ唄ちゃん。」

「新鮮なレモンで作ると美味しいねえ。」

カールたちにも差し入れることになり、ピッチャーとグラスを持って3人で中庭へ向かう。

「今日は薫君が来ているから午後の業務はゆるゆるにしているらしいねえ。」

「久しぶりだからねえ、あたしもキースに会いたいよ。」

キース?人の名前ですよね、誰でしょうか。

「エマちゃん、キース君は僕たちの孫なんだ。僕たちの娘のちよ子ちゃんが淫魔族の朱雀君と結婚して生まれたんだよ。」

「ちよ子は熊耳と尻尾があるんだけどキースはエルフと淫魔の血が濃いみたいでね。」

「ちよ子ちゃんは、お顔は僕に似たんだけどお耳と尻尾が唄子ちゃん似で可愛いんだよ。あ、いたいた。へいかー!」


中庭のテーブルでカールとモテないトリオとデイモンが通常通り仕事をしている横でダイアナとかおるがお喋りしていた。全然緩くなかった。モテないトリオが超厳しい。

「へいかー!レモネードですよ。エマちゃんの育てたレモンと僕のピンクグレープフルーツで唄子ちゃんがピンクレモネードを作ってくれたんですよー。」

あの雰囲気に切り込んでいけるとは・・・ヒース君てすごいですね。


「暖かい日にお日様の下で飲むレモネードは美味いな!」

仕事をサボれてご機嫌なカールが、バッサバッサと尻尾を振る。


小さめのピッチャーを傾けてレモネードを注ぐ。

「ありがとうエマ。」

シスコンのモレクが普段よりも優しい。

「酸味の強いものは苦手なのですが、蜂蜜が効いていて飲みやすいですね。」

鬼畜眼鏡のイブリースにも好評だ。


「美味しいですねえ。」

ピンと耳を立て、尻尾を振り回して喜ぶデイモンを見て、かおるがエマを睨む。

「・・・別に普通じゃない。特別に美味しいってことないよ。」

エマの眉間にシワが寄る。

「小さいってだけで特別に扱われる意味がわからないし。」

エマがへの字口になる。

「ちやほやされているようだけど、子供ってそこまで珍しい訳じゃないし!子供だから何してもお上手でちゅねーなんて言われて喜んでるなんて馬鹿みたいだし!天使族が珍しいのは、ここが魔界ランドだからであって、天界に行けば普通だし?石を投げれば天使にあたる訳だし?」

エマがプルプルと震えだした。

「言ってもそこまで可愛い訳じゃないし!淫魔族やエルフの方が優美で美しいし!」

「こら!カオたん!」

「・・・何さ、小さい子だから言葉を飾れというの?そういうのチビの教育にはよくないんじゃない?現実と向き合うのって大事なんじゃないの?そのチビは普通だよ!」

「エンマちびじゃないもん!」

「・・・はあ?目も頭も悪いの?どう見てもちびじゃない?」

「エンマおっぎぐなりゅもん!」

ボロボロと涙をこぼし、活舌が整わない。


「はあー、泣けば優しくしてもらえると勘違いしてる子供って本当めんどくさい!」

はー!とわざとらしくため息を吐くかおる

「エンマぜんぜん泣いてばせんがらー!」

ポロポロと涙を零しながら泣いていないと言い張るエマに言葉を失うかおる

「ボロ泣きなのに泣いていないと言い張る理不尽・・・これが子供か!」


デイモンが泣きじゃくるエマを抱き上げると薫の怒りが爆発した。

「兄さんは甘やかし過ぎだよ!その子のせいで家にも全然居つかなかったし、僕ら家族のことをないがしろにし過ぎだろう!」

エマが寝込んでからデイモンがほとんどの時間をエマの側で過ごしたため、かおるは一人っ子のように育たねばならなかった。


かおる君、エマの側で過ごすと決めたのは僕だよ。だからかおる君に責められるのはエンマじゃなくて僕だよ。淋しい思いをさせていると知っていたけど、それでもエンマの側にいたかったんだ。ごめんね。」

ポンポンとエマの背中をたたきながらかおるに謝るデイモンの耳と尻尾はだらりと下を向いていた。

「ううっ、うぐっ・・・うぇぇえっ。」

泣きじゃくるエマから神力が溢れ、バチバチと火花を散らし、デイモンの服や毛先が焦げていた。


「エマちゃん、力が籠って苦しかろう。あの小屋は無人だから破壊しても良いぞ。」

ひっくひっくとしゃくり上げながら、掲げた両手の間に出来上がった大きな神力玉をカールが指差した東屋に向けて投げつけると、東屋が爆散した。


・・・・・ふーう・・ふーう。

泣きながら深呼吸するエマの周りに、もう火花はなかった。

沢山泣いて、一度に力を放出したエマがデイモンの腕の中でぐったりする。

「エマちゃんはお眠じゃな、モンたん、お昼寝させてあげなさい。」


エマが退場した後、カールやダイアナたちが必死で謝ってきた。てっきり叱りつけてくると思っていた薫の心構えが台無しだった。

エマを寝かしつけたデイモンからも謝罪されまくって調子が狂う。

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