第25話 うなぎのゼリー寄せ

土日祝日は唄子さんの賄いがお休みのため、ダイアナやデイモンが食事を用意してくれる。エマは尻尾を振りながらお座りしているカールの背中に座り、カールの頭に顎を乗せてダイアナとデイモンの調理風景を眺めている。エマがいるとカールが「もっと肉を入れて!」とわがままを言わないのでエマの見学は大歓迎だ。

今日の昼は二人が手際よく包んだ餃子ランチだった。変わり種のカレー餃子やチーズ入り、手羽先餃子などをテーブル上のホットプレートで焼いてもらうのは美味しくて楽しかった。


夕食近くにダイアナがエマに言った。

「エマちゃん、今日の夜は出前にしましょうね。」

「出前って何ですか?」

エマはデリバリーを知らなかった。

「お店が料理を配達してくれるのよ。」

「今日は鰻だぞ!」

よほど鰻が嬉しいのだろう、ほくほく顔のカールとデイモンが「鰻!鰻!」と、フェンリル姿で尻尾を振りながらグルグルと回っている。

対照的にエマの顔色は真っ青だ。


「・・・あのね、エンマね、晩御飯いらない。」

「どうしたの?具合でも悪いの?鑑定してみましょうね。鑑定!・・・体調は良好ね。」

仮病でやり過ごそうとしたら鑑定されてしまった。


ピンポーン!

「ダイちゃん!出前がきたぞ!儂らが受け取っておくから!!」

「あら、じゃあ私は副菜を準備するわね。」


カールとデイモンが鰻を受け取りに行ってしまい、ダイアナが食卓の準備を始めたため、エマはその場に取り残された。動けなかったとも言う。

顔色は真っ青でブルブルと震えている。

「ダメです・・・ウナギはダメなんです・・・ウナギはいけません・・・・・。」

ガクブルと震えていると「お、エマちゃん、こんなところにいたのか!冷めてしまうぞ!」と、浮かれたカールに捕獲され、食卓に運ばれてしまった。


「あ、あのね!エンマは晩御飯なしでいいです!!」

「だめよ、育ち盛りなんだから!」

逃亡しようとしたがダイアナに確保されてしまった。


「エンマ、あーん。」

涙目でガクブルしていると秋刀魚の蒲焼のようなものをデイモンが差し出してきた。これは美味しそうです。

あーん、ぱくり。もぐもぐもぐ。

甘辛いタレが絡んだフワフワの身は脂が乗ってホコホコしてます。炭火で焼いたのか香ばしい風味も感じられて美味しいですね。

「・・・・美味しいです。これは魚ですか?」

「鰻ですよ。」


エマの目がまん丸に見開かれた。

目の前のお重の蓋を開けると、先ほどの蒲焼のようなものが敷き詰められていた。

「・・・いただきます。」

ぱくり・・・・先ほど食べさせてもらった蒲焼と同じ味がした。

「美味しかったですー。」

肝吸いまで完食して満足のため息を吐いた。


「見た目が長い魚は苦手だったようですが今日から好きになりましたか?」

「エンマ、見た目は嫌いじゃないです・・・・・・ただ、ウナギのゼリー寄せが苦手なだけです。」

真剣にトラウマを告白した。

「ぷっ!」

ぷ?

「いやですよ、エンマったら!」

「そうじゃぞ、エマちゃん!いくらなんでもゼリーとは・・・うぷぷう!」

デイモンとカールがこらえ切れず笑い出した。

・・・・ひどい!エンマ真剣なのに!

「本当だもん!」

「いやいやいや!いくらなんでも!」


信じてもらえなさに怒りながらタブレットで検索し『Jellied eels』の画像検索結果を差し出した。



「ぶっふぉおおおおお!」

タブレットを受け取ったカールたちがさらに笑いだした。

「ぶ!ぶつ切り!」

「くっそマズそうですね!」

勝手なことを言いながら笑っている。

エマはブルブルと震えていた・・・・・・怒りで。


ブルブルと震えるエマの身体からゆらゆらと神力が溢れる。小さな両手を頭の上に掲げると両手の間に巨大な神力玉が出来上がった。怒りの波動が込められた神力玉がバチバチと音を立てる。


「エンマ嘘ついてないもん!」

どすっ!どすっ!

「鰻のゼリー寄せは本当にあるもん!」

ぼかっ!ぼかっ!

「そんなに笑うなんてひどいっ!」

がっつん!がっつん!

神力玉でタコ殴りにしてやった。

フェンリルが2頭、足を痙攣させ、ピクピクと横たわっている。


どっかん!

殴り疲れ、神力玉を投げつけてやると爆発した。

「ふーうっ、ふーうっ・・うぐっ・・・・・うぅぅぅぅ」

「はあい、エマちゃーん、お風呂の時間ですよー。」

泣きながら息切れしていると迎えに来た女官のメイに手を引かれお風呂に入れられた。

メイが翼をゴッシゴッシ洗ってくれる。

「すんっ。すんっ。」

「陛下たちが悪いわねえ、私や唄子さんの故郷の納豆も最近では受け入れられているけど、以前はひどい言われようだったのよ。フグのお刺身はいまだに信じられないって言われるわねえ。他民族の文化に口出しするな!って思うわぁ。」

プスプスと泣き怒っていると、ヘッドマッサージをしてくれた。

悲しいことがあった日は身体に優しくしてあげて幸せな気持ちで眠りについてリセットするのよ、だって。メイちゃんのマッサージは、とっても気持ちよくて、うとうとしてしまいます。

これは危険です、このまま眠ってしまいま・・・zzzz。

メイちゃんがお布団に運んでくれました。

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