第24話 女官の弥生は腐女子です

今日はモテないトリオの秘密の会合だが、3人とも苦り切った表情だ。

「女官の弥生が作者で間違いない。」

バサリと鬼畜眼鏡のイブリースが分厚い調書をテーブルに置く。

「イブリースが調べた弥生の過去のペンネームすべてを基に彼女の作品を集めたよ。」

ドサドサドサッ!

ラッキースケベのアルコンがインベントリから大量のBL同人誌を取り出した。

「二人が弥生の過去を調べている間、俺は現在の弥生につて調べた。」

「続けてくれモレク。」

「弥生は因幡族という兎獣人の出身で、勤務態度は真面目だ。しかし毎年夏と冬、コミケに参加するためにまとまった休みを取る。

 コミケとは、経済効果数百億円とも言われるオタクの祭典だ。売る方も買う方も必死なアレだ。弥生は売る方で参加している。参加することも休暇を取ることも、何ら問題はない。コスプレも好きにしてくれ。」

イブリースがモレクの後を続ける。

「問題は弥生の作る薄い本、いわゆる同人誌というものだ。いや、同人誌に良いも悪いもないのだが・・・。」

苦々しい表情のイブリースが何冊か手に取った。

「これらは明らかに我々がモデルだ。しかもテーマはBLだ。我々をモデルにいわゆるボーイズラブで男同士のイチャラブを描いているのだ。売買されているのは人間界だし名前も変えてあるが我々に似せすぎだ・・・。とても読むことはできなかった・・・。」

「うっ・・・。」

「これは・・・!」

1冊ずつ手に取ってパラパラと確かめた二人が顔をゆがめる。

「似ているだろう?」

「ああ・・・。」

「この画力を他で活かせぬものなのか・・・。」

鬼畜眼鏡のイブリースが分厚い調書を手に取る。

「弥生の行っていることは犯罪行為ではないし咎めることはできない。しかし我々が嫌だ。特に我々のシリーズは人気が高いらしく、これからも作成される可能性が高い。なんとかこれ以上作成させないための対策を話し合うことが今日の会合の目的だ。」

モレクがイブリースに続く。

「俺は現在の弥生について調べた。どうやら弥生は獅子獣人のレオに思いを寄せているらしい。」

「で、では!恋愛に夢中にさせれば薄い本の作成を止めるのでは!」

「甘いぞアルコン!その程度では腐女子は薄い本の作成を止めぬ!」

「な、なんと・・・。」

「二人とも聞いてくれ。どうやらレオも弥生にまんざらではないらしい。」

「おお!」

「二人ともお互いを意識しているが視線が合うとお互いにパッと目を反らすという、中学生のような甘酸っぱさだ。魔族のくせに甘酸っぱいにもほどがあると評判だ。」

「レオは全寮制男子校から全寮制男子軍に入隊したような野暮天だし、弥生・・というか腐女子はそういうものらしいぞ。」

「これが他人事になると、途端に元気になって、もっとやらしい雰囲気に・・・とか言い出すらしい。」

3人ともOh・・・と言いながら頭を振る。

「我々をモデルにすることを止めさせるには、どうしたらいいのか・・・」

「・・・・・・・・・閃いた!」



コンコンコン。

「失礼しまーす。」

モテないトリオの執務室に呼び出された弥生。同人誌のネタになるかもしれないと意気揚々と乗り込んできた。

「どうぞ入ってくれ。」

ドアを開けるとモテないトリオの他に獅子族のレオがいた。

「きゃっ!」

「!!」

弥生とレオがその場で5㎝ほど飛び上がった。

「なんとわかりやすい。」

「わ、分かりやすいって何のことです!」

顔を赤らめたレオが慌てたように質問する。

「お二人ですよ。」

弥生をレオの隣に座らせたイブリースが答える。

「ふふふふふふふ、二人て!」

「二人ともお互いを意識しているが視線が合うとお互いにパッと目を反らす。魔族のくせに甘酸っぱいにもほどがあると評判ですよ。バレバレな二人に痺れを切らした宮殿勤めの者たちから、いい加減二人をくっつけてくれと請願がありましてね。」

ぼっ!

二人の顔が真っ赤に燃え上がる。

「レオ、あなたは弥生のことが好きですね?」

「うあああああああああ、ああ、ああ、好きだ!大好きだ!」

「弥生、あなたは?」

「すすすすすすすすすっすきですう!」

「そうですか、ではお二人は今日から恋人同士ですね。」

「おめでとうございます。」


「これは我々からの贈り物です。」

ドサッ!

アルコンがインベントリから弥生が過去に作成した同人誌を取り出した。

「な!ど!どどどどどどどどうしてこれを!」

「なんだこれは?」

「これは弥生の作成した同人誌というものです、年に何度か弥生は同人誌作成のために引きこもることがありますが、レオは弥生の趣味を侵害しないでしょう?」

「もちろんだ、俺も趣味のバイクは止められないしな!夢中になれる趣味があるっていいものだよな!」

な!と爽やかに弥生に笑いかけるレオ。


—————— 違うんです~!バイクのように爽やかな趣味ではないのです~!中身はBLなんですう~!しかも宮殿の皆さんがモデルなんです~!


『声に出せない弥生の心の叫びが聞こえるようですね。』

『これは爽快ですね。』

『さあ仕上げですよ。』

モテないトリオが念で会話する。


モレクが同人誌を手に笑顔で語りかける。

「レオ、これらはすべて恋愛ものなのですよ。」

イブリースが同人誌を手に笑顔で語りかける。

「きっとあなたとの恋に悩んで、いろいろなシチュエーションを妄想したのでしょうね。」

アルコンが同人誌を手に笑顔で語りかける。

「どれも弥生の憧れのシチュエーションですからね、すべてのセリフとシチュエーションを再現して差し上げるのが男というものですよ。」

「そうか!わかった!」

モテないトリオは笑顔だが目が笑っていない。


—————— バレてる~!モデルにしたことバレてる~!しかも怒ってる~!



「これらの本はすべてレオに差し上げますからね。」

—————— あああああ!あんな初期のペンネームで描いたものまでえ~!

「弥生は勝手に処分してはいけませんよ、レオに差し上げたのですからね。」

—————— いやあああああああああ!!!!!

「レオ、弥生はコミケというところで、これら同人誌を販売するほか、コスプレも楽しんでいるのですよ。代表的な衣装も我々からのプレゼントです。」

どうぞ、と多種多様な衣装を取り出す。

「これらを着て、その同人誌の内容を再現するのが愛情ですよ。すべてのセリフを声に出して再現するのですよ。にっこり。」

「我々で代理申請して承認もしておきました、二人とも明日から2週間ほど有給ですから蜜月をお楽しみくださいね。にっこり。」

—————— いやあああああああああああああああ!


弥生の魂が真っ白に燃え尽きる中、モテないトリオがレオに「この同人誌にはこの衣装」とか攻めやスパダリなどの専門用語について丁寧に説明していた。


「わかったぞ!ありがとう。」

3人に礼を伝えながら同人誌とコスプレ衣装を自らのインベントリに収納してから、キラキラしたヤル気に満ちた顔で弥生を振り返った。

「弥生!全部再現しような!2週間あればできるぜ!」

燃え尽きた弥生を「恥ずかしがり屋だなあ!」と言って連れ帰るレオは漢だった。

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