第7話 エマの一日
エマはあまり寝起きが良くない。
毎朝、夜勤の女官が寝起きのエマの髪を結って朝の身支度を手伝ってくれる。今日は頭のてっぺんでポニーテールにしてくれた。身支度を終えたエマをダイニングルームに連れてゆくまでが女官の仕事だ。ダイニングルームに到着するころには、しっかりと目覚めており、毎朝しっかり朝食を食べる。毎食、美味しそうに食べるエマは唄子さんのお気に入りだ。
今日、唄子さんが用意してくれた朝食はホットドッグだ。ドッグパンからソーセージがはみ出す、腕白なやつだ。オニオンスープにカットフルーツとヨーグルトも添えられている。どんなメニューでも大人と同じ形で子供サイズを用意してくれる唄子さんの気配りが嬉しい。
「エンマ、唄子ちゃんのホットドッグ大好きです!」
今日もとろけるチーズがたっぷりで美味しそうです。
「僕はハラペーニョ入りが好きです。」
「エンマ、チリコンカン入りのも好き!」
「チリコンカン入りも美味しいですよねえ。」
好き!美味しい!と言い合っていると唄子さんの熊耳がピコピコ動いた。
「それなら次はチリコンカン入りで作ろうかね。デイモンの分は今日もハラペーニョが入っているからね。それじゃあ、二人とも暖かいうちに召し上がっておくれ。」
嬉しそうな唄子さんが熊耳をピコピコさせながら厨房に戻ってゆく。
あーん!とかぶりつくと熱々のチーズが伸びる。あっさりしたオニオンスープを飲んでホットドックに戻る。こってり、あっさりの往復は止められないですね!
朝食が終わったらお皿を下げる。洗うのは食洗器にお任せだ。お片付けが終わったらエンマは魔女の館へ、デイモンは執務へ。
デイモンはカールの秘書見習いだ。
「行ってきます!」
「はい行ってらっしゃい。また後でお昼に会いましょうね。」
デイモンが窓辺でエンマを見送る。
空を飛べるとはいえ、まだノロノロ飛行がやっとのエマは、魔女の館との往復で飛ぶ練習をしている。
午前中は魔女の館で学び、お昼にはノロノロ飛行で帰宅する。
今日のランチはロールキャベツだ。トマトソースで柔らかく煮込まれ、味がしみしみで美味しい。
昼食後、大人たちは執務に戻るがエマは自由時間だ。宮殿の敷地内を散策することもあれば魔女の館に顔を出すこともあるし、お昼寝もする。お昼寝の後はおやつ。今日のおやつは昔ながらの固めのプリン。こってりと乳脂肪分多めの生クリームがプリンとほぼ同量乗せられフォトジェニックだ。
もちろん作る様子を唄子さんの横で見ていた。
「まずはカラメル作りからだよ、お鍋に砂糖を入れてお水を少し、カラメル色になるまで火にかけて。」
甘くて香ばしい香りにエマの頬がゆるむ。
「エマちゃん、危ないから離れて。もう少し離れて。良いというまでそれより近くに来てはだめだよ。いまからお鍋にお水を入れるよ、飛び散って火傷するからね。」
唄子さんがお水を入れるとジュ!っと熱そうな音がした。
「これでカラメルの出来上がり。容器に注ぐよ。ほろ苦いくらいが美味しいよ。」
もう側に来ても良いと言われ、再び唄子さんの隣へ。
「ボウルに卵と砂糖を入れてよく混ぜたら、お鍋に牛乳と残りの砂糖を入れてバニラを入れて火を止めて・・・。」
「バニラの香りって幸せの香りですね~。」
「そうだね、甘い香りだねえ。ボウルの卵に温めた牛乳を注ぐよ、混ぜながらゆっくりね。全部混ざったら濾して滑らかにして、カラメルの入った容器に注ぐよ。」
「わあ!プリンぽくなりました!」
「オーブンで蒸し焼きにして完成だよ。低めの温度でじっくりと蒸し焼きにすると滑らかなプリンになるんだよ。」
よく冷やしたプリンにたっぷりの生クリームを乗せておやつだ。
カラメルはほろ苦くて大人風味で、バニラの粒たっぷりなプリンは卵が濃くて、しっかりとした固焼きだ。
「ふおおおおお!すごいです・・・!!卵とバニラの風味がものすごいです」!
固めの贅沢プリンがエマの一番好きな食べ物になりました。
おやつの後の自由時間は好きなように過ごし、執務を終えたデイモンたちを出迎えると晩御飯だ。
今日の晩御飯はおでん。今日はルーシーや唄子さんたちも一緒に大きな銅製のおでん鍋を囲んで、いつもより楽しい晩御飯となった。
「エンマ、たまごをどうぞ。」
「エマちゃん、ウインナー巻よ。」
デイモンやルーシーが薦めてくれるおでんダネは、どれも美味しくて食べすぎてしまう。
「ルーちゃんがつけてる、その黄色いの何ですか?」
「これはからしよ、エマちゃんには刺激が強すぎると思うわ。」
むう・・。
「エンマもからし付けます!」
意地になったがルーシーの言う通りエマには辛かった・・・。ぶわりと羽を膨らませ、ぎゅっと目をつむりながら鼻を押さえるとみんなが笑った。
夕食の後はカールとダイアナ、デイモンと4人で家族団らんの時間だ。真っ白なフェンリル型のカールをダイアナがモフったりブラッシングしたりする横でデイモンがエマの服を作り、デイモンの背中に張り付いたエマがデイモンの肩越しにそれを眺める
デイモンの手で緑色のノルディック柄のカーディガンが編まれる様子はいくら見ても飽きない。毛糸が複雑な模様に編まれる様子が不思議で楽しい。デイモンの背中にピッタリと張り付き、両手と顎をデイモンの肩に置いて覗き込むスタイルだ。
エマに密着されてデイモンの尻尾がご機嫌にそよいでいる。
いくら眺めても飽きないが、夜勤の女官がエマを呼びに来たらお終いだ。
「じいじ、ダイちゃん、ダモ、おやすみさない。」
3人に手を振りながら女官に手を引かれ、向かうのはお風呂だ。
天使族は成長と共に羽も大きくなり、普段はしまっておけようになるが、子供の頃は出しっぱなしだ。小さいとはいえ出しっぱなしの羽にはホコリが溜まりやすい。しかも自分の手が届かないためやっかいだ。
「ナンシーちゃん、お願いします。」
「はあい、お湯をかけますよー。泡立てまーす。ゴシゴシしまーす。」
今日の夜勤担当のナンシーがエマの翼を洗ってくれる。
「もっと強めにお願いします!」
「そんなに強くして大丈夫かしら?」
「大丈夫なので強めにお願いします!」
ごっしごっしごっし・・・。
「はふう、気持ちいいですー。」
「天使族の羽って結構丈夫なのね。」
「はいー、子供のうちは羽をしまえないのでホコリが溜まりやすくて困ります。」
「大人になったら毎日は洗わないの?」
「はい、基本的に羽を出して生活しませんから汚れません、大人になると月に一度エステでお手入れします。」
「え、エステ!?」
「エステです!エンマも早く大人になってエステに行ってみたいです。」
天使の羽事情、意外すぎる。
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