番外短編⑴
※ここから中盤戦です。
血などが出てくる残酷なシーンが出てきますので、苦手な方は引き返すことをお勧めします(寝取られ、モンスター姦はありません。あくまでイチャラブです)。
番外短編は本編開始前のレイナちゃんの1日です。ここまで読んでくださってありがとうございます。引き続きよろしくお願いします。
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メイドの朝は早い。
日が昇る前に起床して、身支度を整える。灰色の地味なパジャマから着替えて、洋服ダンスにしまってある無数のメイド服の中から1つを選び出す。
「……今日はこれにしましょう」
フリルの折れ具合、リボンの結び目の形、色の
誰に気づかれるという訳でもない。しかし当の彼女にとっては、その日がどういう1日であるかを定める重要な選択だ。
「うん……やっぱりこれだ」
鏡の前で服を合わせて、彼女は大きく頷いた。
彼女の名前はレイナ。
大英雄と呼ばれる男のメイドとして
「まずは服……それから朝ごはん……」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、彼女は自分の部屋のドアを閉めた。『出来るメイドの31ヶ条』という本を貸本屋から借りて、穴が空くほど読んだ彼女は、それを毎朝復唱し自分の
『1ヶ条目:メイドは主人より早く起床し、服を用意し、朝食を完成させておくこと』
レイナの頭の内ではこの文言がぐるぐると回っていた。
彼女は主人の扉の前にたどり着くと、エプロンから一本の針金を取り出した。
がちゃがちゃ。
主人の部屋にかかっていた内鍵を見事なピッキング技術で開けると、彼女は足音も立てずに主人の枕元に立った。
「アンク様、おはようございます」
音にもならない小さな声。
当然、レイナ自身もアンクが深い眠りに付いていることは知っている。何せまだ辺りは日も刺さない午前4時。窓の外はまだ夜の闇に包まれている。
だからこそ、起こさないように静かに。
けれど、挨拶だけは欠かさずに礼儀正しく。メイド然として、いつだって主人を敬う気持ちを忘れてはいけない。
「失礼します」
彼女は主人のパジャマのボタンを取り外すと、器用にするすると脱がし始めた。アンクはぐーぐーと呑気に寝息を立てていて、上半身はおろか下半身まで脱がされようが気がつく素振りを見せなかった。
なにせその間ほんの10秒にも満たない。
「今日はこの色にしましょう」
グレーのニットと緑色のパンツを選び出す。下に着るシャツは肌に心地よい綿の素材を着てもらう。動いても汗を吸収してくれるので、急な仕事が入ってもこれでバッチリだ。
パンツ姿で身体を
「服はオッケー……ですね。では次は……」
一番の鬼門であり、最大の難関。
朝ごはん。
アンクが起きてくるまでに朝ごはんを用意しなければならない。
「大丈夫、今の私なら大丈夫……」
知らず知らずの内に鼓動が早くなっている。
良くない兆候だ。キッチンに降りたところでグラス1杯の水を喉の奥に流し込む。
「…………よし」
気合を入れる。
何も恐れることはない。時間はたっぷりある。それまでに1人分の朝ごはんを完成させれば良い。
メニューは決まっていた。
トースト、スクランブルエッグ、ベーコンとジャガイモの炒め物。この前、貸本屋でレシピは暗記したから大丈夫だ。
「トーストは最後で良いんです。まずはジャガイモを切って……ベーコンを焼けば良いんですね。そう……ですよね……」
落ち着け。
落ち着け。
ジャガイモに包丁を入れる。ざく切りにしてバラバラに分解するだけだ。バラバラに分解するのは得意だ。
小ぶりなジャガイモを分割して一息ついた時に、顔女は自分の犯した過ちに気がついた。
「あ……」
分解しすぎた。
「……しまった」
慌ててボウルに移そうとしたが、ペースト状になったジャガイモはするすると
「あぁ……っ」
ジャガイモ
だめだ。
今日の朝ごはんはトースト、スクランブルエッグ、ベーコンにしよう。
「ジャガイモさん、ごめんなさい」
彼女は排水溝に向かって
「……切り替えましょう。次はベーコンです」
これはさすがに簡単。
フライパンに油を引いて、ベーコンをカリカリになるまで焼く。塩をささっと降れば完成だ。これならさすがに出来る。
マッチでコンロに火を付けて、フライパンを温める。
ベーコンを一口大に切って、フライパンの中へとぶち込む。あとは火力を強くして、焦げ目が着くまで焼けば完璧だ。
最大火力で、焼き尽くす。
パァン!!
火力調整ノズルを回した瞬間、大きな音がなって油が弾けとんだ。ついでにベーコンも爆散した。
「…………?」
いったい何が……?
唖然とする彼女の目の前で、ごうごうとフライパンから炎が立ち上っている。
「わ、わ、わ……!!!!」
慌てて、消化しようとしたがもう間に合わない。バケツに水を
「…………あわあわあわわわ」
ボヤでは済まされない。
炎は天井へと燃え広がろうとしている。このままだと自分たちがカリカリのベーコンと化してしまう。それだけは絶対に避けなければならない。
「……た、確か、ここら辺に」
近所に住むリタが譲ってくれた消化剤がある。レイナは自分のカバンの中を探した。ようやく野球ボール大のそれを見つけた時、炎はキッチンを丸焼けにしようとしていた。
「えいっっ!!」
キッチンに向かって消化剤を投げた。
白い泡が弾けて、燃え盛る炎を包み込んでいく。十分な威力を発揮した消化剤はダイニングキッチンを泡だらけにした。
レイナはしばらく呆然として、そして言った。
「……掃除……しなきゃ」
自分も泡だらけになりながら、レイナは疲れ切ったようにため息をついた。食卓が囲めないのでは、朝ごはんも意味はない。
まだ時間はあるはずだ。
泡を片付けて、焦げた部分の天井を貼り直して、ダメになったフライパンを処分して……、
そうこうしている内にアンクが起床してきた。
コンコンと階段を降りてくる音に、レイナは身をこわばらせた。
階下に降り立ったアンクは、乱れた髪でお辞儀をするレイナを見た。
「おはよう、レイナ。なんか良い匂いがするな。香ばしいというか……何かが焦げた良い感じの匂いだ」
「……おはようございます」
「どうした。なんかえらく疲れているみたいだけれど」
「何でもありません……はい、全ては元どおりです」
「元どおり……? お! 今日はトーストと…………スクランブルエッグか!」
アンクは皿に盛られたパンと、黄色だか黒だか分からない
「は、はい! あのう、本当はベーコンと……他にもいろいろあるはずだったのですが……」
「いやぁ、朝起きて、レイナのご飯があるってだけで幸せだ」
そう言うと、アンクは食卓に降りて、卵とトーストだけの粗末な食事を取った。申し訳なさそうな顔をするレイナをよそに、簡素な食事を彼は美味しそうに食べ始めた。
「うまいうまい」
アンクはトーストに卵を載せたものを食べて、混じり気のない
「……本当ですか?」
「もちろん。当たり前じゃないか。うまいぞ」
何を言っているんだとばかりに、アンクはペロリと朝食を平らげた。
「ごちそうさま。ありがとうな」
……あぁ、そうか。
レイナは気がついた。彼は嘘はついていない。こんなものでも本当に美味しいと言ってくれている。さっき言った通りで、彼は「私のご飯がある」というだけで満足なんだろう。
それが嬉しくて……少し悔しい。
「アンクさま」
「なんだ?」
「次はもっと頑張ります」
意を決したようなレイナの表情に、アンクは「楽しみだな」と言って笑った。
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