第148話 短期決戦
「一週間……」
ナツの言葉を聞いて、リタも
「ユーニアの見込みでは数ヶ月だったけれど、ずいぶんと早いんだね」
「うん、女神の封印が終われば、
ナツは窓から差し込む光に視線を送った。
「アンクの夢が本当なら、残されていた最後の力の
「そんなことをしてあの娘の身体は大丈夫なんだろうか」
俺の頭痛に気を使ったのかリタは彼女の名前を言わずに、言葉を続けた。
「あいつ、魔力炉が壊れかねないだろ」
「大丈夫とは言い難いけれど、私が知っているあの人なら、そういうことをやりかねないよね。リタの方が良く知ってそうだけど」
「そうね……やりそうだわ……負けず嫌いだから」
リタがナツの言葉を聞いて、大きくため息をついた。戦況として良くない方向に転がりつつある。
1週間。
それで次の女神を看破しなければならない。
「正直、私の時みたいに甘くいかないのは確かだよ。相手は必ず戦いを長引かせようとてくる」
「俺たちが短期決戦で仕留める必要がある。そうなると……戦力が足りないな」
今のところ頼りに出来るのはリタしかいない。それだけでは、短期決戦を挑むには心もとない。
だが命を
身を乗り出したリタは、ナツに言った。
「手を貸すつもりはないのよね、ナツ」
「……ごめん、それは出来ない」
リタの言葉に、ナツは首を横に振った。
「私はアンクに負けたけれど、あの2人を裏切ることは出来ない。あの娘たちの意志を知っているからこそ、戦うことは出来ない。ごめん」
「そっか、良いよ。私もナツの立場だったらきっと同じだっただろうし」
リタはうんうんと頷いた後で言った。
「しかし肝心のアンクは骨も折れるわ、魔力炉がボロボロだわの
「骨はもうくっついてる。ナツが綺麗に折ってくれたから」
「えっへん」
「そもそも折るなっていう話だけどな」
「向かってきたからしょうがないよね。あ、でも、アンクのことは守るよ。死なれたら死なれたで困るし。護衛くらいならしようと思うし、あの2人ならそれくらいは織り込み済みだと思う」
「それは……助かる。実は問題なのは魔力炉の方なんだ」
ナツをこの世界に留めるために使った
「もう1発、
「そっか……」
リタは神妙な顔で腕を組んだ。
「……そうなると、やっぱり頼れる人間は1人か」
「え? 誰かいるの?」
「殴りたくて仕方ない娘が1人。こうなるかと思って、あらかじめ仕込んでおいて良かったわ」
「それって……」
「そう、シュワラ」
鮮やかなピンク髪と甲高い声が脳裏をよぎる。
確かにシュワラとそんな約束をしていた記憶がある。『殴らせてやる』と言ったら嬉しそうな顔をしていたが、いったい2人の間に何があったのか。
「そもそも、あいつ戦えるのか? 温室育ちのご令嬢だろ……戦闘経験があるとは思えない」
「闘争心を煮詰めたような娘よ。何もしてない訳ないじゃない」
リタはあっけらかんと言った。
「殴るって言ったら殴る娘よ、シュワラは」
「そもそも、どうして『殴らせてやる』なんて物騒なことを。敵対心があるからってそこまでしなくても……」
「色々あるのよ。あの2人もともと仲良かったんだけどね、こればっかりは時代というか、環境というか、込み入った事情が合ってさ」
小さく息を吐いてリタは、コーヒーのカップをテーブルの上においた。
身体の調子を確かめるように、大きく伸びをしたリタは「とにかく」と言って立ち上がった。
「今回ばかりはシュワラに
「分かった。戦力はそれで良いとしよう。場所は……どこに行けば良いかは、分かるか」
「1つしかない。私たちが産まれた場所でもあり、育った場所。私とあの娘の全てがある場所よ」
リタは物
「イザーブ。魔物たちに破壊された都市。そこに『死者の檻』の鍵は必ずある」
「イザーブ……」
崩壊された都市の光景が頭をよぎる。数年前に破壊されたまま、放棄された
その瓦礫の中心に、誰もいなくなった荒野の上に、夢で見た金髪の彼女の姿が寂しげに立っている。
そんな景色を知らず知らずのうちに頭の中で描いていた。
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