【終わりの日(No.03.2)】
目を覚ました時、私はもう死んでいるのかと思った。
それほどまでに辺りは
だが、身体が横たわっているのは、いつもと変わらない
何分、いや、何時間寝ていた?
決起集会はどうなった。終わったのだろうか? それにしては人の声が聞こえない。牢獄を見張る門番たちの声すら聞こえない。
かすかに耳に届いたのは、他の子供たちが立てる寝息と、ぽたりぽたりと水が垂れるような音。
……嫌な予感がする。何か想定外の事態が起きている。
「それでも……行くしか」
幸い、手に力は入る。
「なんだ、こんなに
誰かが駆け寄ってくる物音はない。おそるおそる扉を開けてみると、出口へと続く廊下からむせかえるような異臭が漂ってきた。
「…………っ!」
血の匂い。
足元には見張りの信徒たちの死体が転がっている。廊下で見張りをしていた3人の信徒たちは、
「心臓を……抜かれている……!?」
死んでいる兵士たちは皆、胸を綺麗にえぐり取られて、あばら骨が
誰かが牢獄を襲撃した。
「はやく、早く逃げなきゃ……!」
弟を連れて、早くこんなところから逃げよう。
急がないと、襲撃の犯人と鉢合わせてしまうかもしれない。何が目的か分からないが、こんなところで死ぬなんて勘弁だ。
弟が収監されている090まで走って進む。番号を確認しながら、奥へ奥へと走っていく。
「あった! 090!」
私の
「開いて、いる……」
最悪のパターンが頭をよぎる。
外の兵士たちと同じように心臓をえぐり取られている弟の姿を想像してしまう。
嫌な想像を頭から振り払って、ドアに手をかける。軽く押すだけで開いた090の扉の奥には、死体どころか人の姿すらなかった。
良かった。
ホッと息を吐いて、弟がいたであろう独房に目をやる。
変わった所は何もない。私と同じ寝る分だけのスペースを与えられた狭い独房。血の跡などもなく、比較的綺麗に使われている。布団に手を置くと、まだほのかに温かく、少し前まで誰かがいたことが分かった。
「どこに行ったんだろう」
辺りを見回してみるが、当然何か分かるはずもなく、ネズミが這い回る音が聞こえるだけだった。血の匂いがここまで
耳を
その扉の錠前を破壊すると、やせ細った男の子が頭を抱えて寝転んでいた。私の姿に気がつくと、目を見開いて驚いたように言った。
「だ、誰……?」
「あなたと同じ孤児よ。ねぇ、あなたの向かいにいた男の子見なかった? 090って番号知っているでしょ」
「あ、090……うん、知ってる。ところで、ど、どうして、おねえちゃんはそと、に出ているの?」
「あなたももう外に出られるのよ。ねぇ、090の部屋から何か聞かなかった?」
「聞いたよ。そとに出てた」
「外に出てた……?」
やせ細った子どもはコクリと
「ね、ねる前くらいだよ。ほら、苦しくなるガスがあった、たでしょ。そのまえくらいに、ここをあるいていた。きょ、うは血のぎしきはないって言ってたの、にね。どうしてそとに出てたんだろう……?」
不思議そうに首をかしげた彼は虚ろな目で、090の扉を見ていた。
……弟は襲撃の前に牢屋を出ている。そうなると、襲撃に巻き込まれたのか、それとも……。
「ねぇ、あなた、今すぐ他の子供たちを起こして、逃げるところまで逃げなさい。鍵は外で死んでいる見張りが持っているから。ぜったいに下に来ちゃだめよ。上に逃げるの。分かった?」
「そ、そとでは血がのめる?」
「……知らないわ」
「そうなんだ、のめると良いなぁ……」
子どもを
弟がいない。
牢屋にもいないとなると、彼は上か下にいったはずだ。
「下だろうな。きっと……」
根拠はないけれど、下にいる気がする。私の直感がそう叫んでいる。
出口まで歩いていくと、分厚いドアが突き破られていた。
ポタポタと床に垂れた血が、迷い子のように階段に点在している。それを目印のようにたどっていくと、ところどころに心臓をえぐられた死体が転がっていた。
「うっ……」
信徒たちの死体は地下の方へと進めば進むほどに、多くなっていった。10人どころじゃない。もっと多くの人間が殺されている。
吐き気を抑えながら、地下祭壇の方へとたどり着く。
中からは物音はほとんど聞こえなかった。聖堂の霊安室のようにシンと静まり返っていた。
壁の前にもたれている2人の死体を見て、私はその確信はますます強くなった。
「バイシェ、ラサラ……」
幹部である2人も他の死体と同じように心臓をえぐられて死んでいる。壁には戦闘の跡があったが、抵抗
邪神教のほとんどを殺し、強力な魔法使いであるバイシェとラサラも
残忍かつ、すさまじい悪意を持った存在だ。
扉の奥にそれがいることを確信した私は、出来るだけ何も考え無いようにして、扉に手をかけた。
嫌な予感がする。
増える死体。そして牢獄から抜け出した弟。点々と刻まれた血痕。
嘘だ。
こんなものは見たくない。
いっそ夢であって欲しいと考えながら、私は閉ざされた扉を開けた。
「あ、おねえちゃん、来たんだ」
聞きたくなかった声。
私がもっとも恐れていた現実が目の前に広がっていた。
「みんな殺しちゃった」
地下祭壇の中央で、弟がうず高く積まれた死体の上から私に微笑みかけた。
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