第51話 大英雄、折れる
ポキン、ポキン、ポキン。
「パトレシア……」
彼女の名前を呼んで、胸の方へと手を伸ばす。布と肌の間を滑って、豊満な胸部に触れる。先端の方を撫でるとパトレシアは気持ち良さそうに身体をよがらせた。
「あ…………」
「肌があつい、な」
「うん。奥の方はもっと熱いよ。心臓がどくん、どくんって言っている」
「あぁ」
「ほらね、分かったでしょ、私のこと」
「あぁ、さっきよりは。だいぶ」
何度も彼女の胸の上をすべらせて、手のひらで声高に脈打っているパトレシアの心臓を感じた。彼女は興奮していて、強く求めている。媚薬は彼女の心の中にもともとある欲望を引き釣り出したに過ぎないんだ。
だから、俺もそれに
動き出した本能をもう止めることが出来ない。
「あ……そこ……」
彼女の肌を舐めると、パトレシアは甘い声を発した。指で彼女をいじりながら、甘噛みすると静かにパトリシアの身体が震えた。
「や、アンク、ちょっと……」
「どうした。さっきまで乗り気だったじゃないか」
「そ、そんなこと言われたって……っあっ……!」
媚薬の効果で敏感になっていたパトレシアの身体は、少し刺激を加えるだけで激しく反応した。彼女の水色の魔力がほんのりと立ち上りはじめた。
「や、あぁっ」
服ははだけて、パトレシアはあられもない姿になっていた。額は汗でにじんでいて、激しく呼吸をしている。火照った顔を隠すように、長い金髪が頬に垂れていた。
「や、やだ、恥ずかしい……」
「恥ずかしいことなんて無いんじゃなかったのか」
「これは……違うよ。もう、いじわる」
下腹部に置いた指を動かす。自分の魔力を流し込むとそれに呼応して、ぴくぴくと身体が震えていた。
「あ……やっ……」
水色の魔力は彼女の全身から溢れ出していた。パトレシアの魔力炉は強く反応している。下腹部の熱が何よりの証明だった。
「うん……そこ……気持ち良い……」
絞り出すような声を出したパトレシアは、快感に身体を震わせながら、俺の肩の方に噛み付いた。舌を滑らして、ぴちゃぴちゃと音を立てた後で口を話すと、肩にパトレシアの歯型がくっきりと付いていた。
「それ、記念に……とっておいてね」
「記念?」
「私と初めてつながった記念。それを見たら、たまに思い出してね」
それだけ言うと、彼女は魔力炉に触れた。彼女の魔力が俺の中に流れ込んでくる。じんわりと温かな感触に、俺たちは小さく息を吐き出した。
「わかった」
「ありがとう」
俺たちの魔力は宙に登って静かに交じり合っていた。サティが用意したブラックライトに照らされて、キラキラと乱反射していた。
血流は止むことなく、身体を流れている。洪水でも起こしているかのように、耳の奥でゴウゴウと音が聞こえた。
俺は興奮している。これは確かだ。
「パトレシア……」
「良いよ、アンク……きて」
俺を受け入れるようにパトレシアは、身体を開いた。無垢な肢体が目の前にある。濡れた肌と太陽よりも熱い熱。心のたがはもうボロボロになっていて跡形もなくなってしまった。
「あぁ……」
心にじんわりとした温かさが伝わった瞬間、穴の上の方から大きな叫び声が聞こえた。
「おーい! 誰かいるのかー!?」
パトレシアが喉の奥で「ひっ」と小さく声を漏らした。
穴の底まで響く大きな声。誰かが覗き込んで、俺たちに向かって声をかけている。
「おーい! 大丈夫かー!」
何度も呼びかけられる声は、反響してくぐもっていて聞き取りずらかったが、聞き慣れた声だというのは分かった。
「リタ……!? どうしてこんなところに!?」
「は、早く服を着なきゃ……!」
動揺してパトレシアの声が震えている。
地上からするすると縄ばしごが降りてくる。異変を感じ取ったリタがこっちへ来ようとしているらしい。「やばいやばい」と慌ててはだけた服をなおす。
ロープを使って器用に降りてきたリタは、無事な様子の俺たちを見てホッとした顔をした。
「なんだ、無事なら無事って言ってよねー…………あ?」
松明の光で俺たちの顔を照らして、リタは穴の底にいた人影の正体に気がついてしまった。
「パトリシア……アンク……」
「やぁ、こんにちは、リタ」
「よ、良い天気だね」
2人で平静を取り繕うが、もはや言い逃れはできない。はだけた服と、汗、そしてサティによってセッティングされたチープなラブホテルのような空間。
何が起こったかを理解するには、一目見れば十分だっただろう。
石像のように表情を凍らせたリタは、またロープを使って地上へとよじ登っていった。
「…………おじゃましましたー」
「あー! 待ってリター!」
パトレシアが慌てて追いかけていく。「違うのー違うのー!」と叫びながら、必死に去っていく縄ばしごにすがりつこうとしていた。
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