最強クラン決定戦 本戦(7/10)

 リューシンたちが操縦する四体の巨大ゴーレムと、各クランのクランハウス九体が闘技台の上で激闘を繰り広げていたころ。


「あっ! ハルト様!!」

「……うん、誰か来たみたいだね」


 闘技台の上空に浮かぶファミリア。その制御ルームにいたティナとハルトは、来訪者の存在を察知していた。


「うわ、マジか。俺の魔法障壁が破られちゃった」


 なんとこの上空まで飛んできた来訪者は、最強賢者たちが展開した魔法障壁を打ち破り、ファミリアの敷地内に侵入を果たしたのだ。


「恐らく、だと思います」

「そうみたいだね。というか、彼以外考えられない」


 ハルトが上着を脱ぎ、外に出る準備を始める。


「迎撃に行くのですか?」

「ハルトさん。お気をつけて」

「まぁ、ハルトなら大丈夫にゃ」


 リファとルナが心配そうに声をかける。メルディは闘技台の上で行われている戦闘の方を見たまま、たいして興味なさそうにハルトを送り出した。


「我も行くべきか?」

「僕も戦えるよ」

「私も行けます」


 シロとシルフ、ウンディーネは来訪者がかなり強い存在であることを感じ取っていて、ハルトに加勢を申し出た。


「俺は大丈夫だから、ここでみんなを守ってあげて」


「うむ、分かった」

「りょーかい!」


「ハルト様。お気をつけて」

「ありがと、ティナ。それじゃ行ってくる!」


 そう言ってハルトは来訪者の元へ転移した。



 ──***──


「やっと出て来たか」


 目の前にいきなり姿を現した俺に驚く様子もなく、筋骨隆々の鬼人が落ち着いた声で話しかけてきた。


 彼の名はゲイル=ヴァーミリオン。

 

 世界を東西で割った時、西側最強の男らしい。ちなみに東側最強はティナってことになってる。そんな彼が俺たちのクランに文字通り殴り込みに来たんだ。


「大人しく待っててくれて、ありがとうございます」


 俺はゲイルが拳ひとつで魔法障壁をぶち破り、この敷地に降り立ったことを把握していた。世界最強のひとりと呼ばれるのは、どうやら伊達じゃない。


「貴様がここの主か?」

「はい。ハルト=エルノールです」


 ジッと俺の顔を見るゲイル。


「お前、レベルは?」

「い、1……です」

「だろうな」


 ゲイルは落胆したように肩を落とす。どうやら彼には他人のステータスを見るスキルがあるようだ。


「悪いことは言わん。今すぐティナ=ハリベルをここに連れてこい。貴様では相手にならん。あまり俺をイラつかせるなら、この辺りを適当に破壊するぞ」


 明らかに不服そうな表情をしている。

 でもティナに戦わせるわけにはいかない。


「彼女のお腹には俺との子がいます」


「……は?」


「ですからティナを戦わせることはできません」


「ちょ、ちょっと待て貴様。どういうことだ? ティナが貴様との子を身籠っている? そ、それは本当か!? だから貴様のような最弱レベル1が、こんな巨大クランの主をしているのか?」


 ゲイルはたぶん、俺が何らかの方法でティナを手籠めにして、彼女の力でファミリアの主になったと思っているようだ。


 まぁ、あながち間違いではない。

 

 ファミリアの土地を手に入れて来てくれたのはティナだし、クランハウスを建築する職人を手配したのも彼女。俺たちが普段、良い暮らしができているのはティナが稼いでくれた莫大な財産があるからだ。


 そう思うと俺って、ティナのヒモなんだよなぁ……。



「おい、何をボーっとしている! 早くティナ=ハリベルをここに呼んで来い。身重だと言うなら戦いはせん。ただ少し会話したいだけだ」


「あっ、ごめんなさい。でもせっかく来ていただいたので、俺と戦ってみませんか?」


 そう言いながら魔力を放出する。


「俺も最強って称号に、ちょっと興味があるんです」


「……貴様、ステータス偽装スキルの持ち主か? その魔力量はどう考えてもレベル1のモノではない」


 ゲイルが戦闘態勢をとる。

 どうやら俺を敵と認めてくれたようだ。


「そうか。そもそも貴様は、この場に転移してきたのだったな」


「はい。強さの秘密は教えられませんが、ただのレベル1じゃないってことは言っておきますよ」


 本気で戦うために魔衣を纏い、覇国を手元に召喚する。


「ちなみにここの建物は凄く頑丈なので、壊しちゃうこととか気にせず全力で戦ってください」


「面白い。俺の全力を望むか。その言葉が虚勢でないことを願おう」


 ゲイルからも魔力が溢れ出る。これまでヒトと対峙して感じたことのないほど圧を感じる。最低でも悪魔級、なんなら下級の神様を超えているような力がある。


 たぶん彼、レベル300カンストだ。


 

「行くぞ。せいぜい俺を楽しませろ」


 世界最強が、まっすく俺に向かって突撃してきた。


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