最強クラン決定戦 予選(19/22)
かつて俺を殺した相手が現れた。
でも俺は既に怨みを晴らしている。
だからもし本当にこのまま闘うことになったとしても、それは憎き敵じゃなく、母が呼び寄せた戦力として相手をするつもりだった。この世界の神様を消滅させちゃったりしないよう、出来る限り力の調整もする予定だったけど──
「久しぶり、だと? 俺は貴様など知らん」
「えっ」
邪神が嘘をついているようには見えなかった。
彼は本当に俺を知らないようだ。
おかしいな。
どういうことだろう?
目の前にいる邪神からは、以前会った時と全く同じ気配を感じた。一番最初に会ったのは彼が俺を転生させた時。二回目は俺が彼を殴った時だ。これが三回目になるのだけど、邪神は俺のことを知らないという。
「えっと。邪神様は、異世界の男を無理やり転生させたこととかありますか?」
「あるわけなかろう。なんで俺がそんな面倒なことをせねばならんのだ」
んー、マジかぁ……。
まさか前に殴った時、記憶を失わせちゃったのかな?
普段なら直感が働いてなんとなく答えが分かるのだけど、神様が対象の時は上手くいかないことが多い。今回も目の前にいるのが俺を殺した邪神なのかどうかの確証を持てないでいた。
しかし俺の母がスキルで召喚した存在なので、人違いとかはないはず。あぁ、神様だから『神違い』かな。
「まぁ、いいや」
深く考えるのをやめることにした。
今は彼をあまり怨んでいない。邪神も俺のことを忘れていて、俺に怨みが無いと言うならそれで良い。これからただの敵として戦うだけ。そうシンプルに考えることにした。
「貴方は母の味方で──」
覇国を構え、疾風迅雷の魔衣を纏う。
「俺の、敵ってことですね」
「──っ!?」
邪神が焦った表情を見せた。
「なな、なんなんだ貴様!? なぜ人族がそんな魔力を扱える!!」
貴方のおかげですよ、邪神様。
「…………」
「おい、答えろ人族!」
無言で覇国を上段に構える。
会話は不要だと思った。
とりあえず邪神の身体を両断しよう。神様なんだから、そのくらいじゃ死なないはず。前に竜神様をボコボコにしちゃった時は大丈夫だったんだ。今回も思いっきりやってしまおう。
今できる最大速度で魔力を放出し、その全て覇国に纏わせた。超高密度に圧縮された魔力が覇国を煌々と輝かせる。
神様を斬るには、このくらいは必要だよね。
「あー。それはちょっとマズそうね」
母が少し後ろに下がる。
「お、おい。おい! 俺は帰るぞ!! も、もう二度と呼ぶなよ」
「ダメです。あの子と戦ってください」
「黙れ! 俺を召喚した者とはいえ、貴様の言葉に従うかどうかは俺が決めるのだ。じゃあな」
母の言葉を拒絶して邪神が転移門を開いて神界に逃げようとしていた。
「逃がさないよ」
「逃げないでください」
俺が邪神の転移門を攻撃すると同時に母も剣を振っていた。
「……ぇ?」
覇国から飛んだ斬撃と、母の剣が転移門を粉々にする。彼女はさっき竜神様が開いた転移門を斬っていた。相手が四大神になっても関係ないみたい。
「お、俺の転移門が……。え、え?」
神界への転移に失敗した邪神は転移門のあった場所を見て呆然としている。
「さぁ、邪神様。俺と戦いましょう」
転移門への攻撃に使用した魔力は既に再充填されているから、いつでも行動に移すことが可能だ。
でも本当のことを言うと、逃げようとしている相手を攻撃するのはあまり好きじゃない。できれば俺を殺そうと向かってくる敵を倒すのが気が楽で良い。
「ふ、ふざけるな! 誰が貴様のようなバケモノと戦うものか!!」
邪神が魔力を手に集め、魔法陣を形成した。
「来い、悪魔たちよ。俺の敵を殺せ」
構築された召喚魔法陣が輝く。
でも俺はそれが機能しないと思っていた。
邪神に連なる悪魔で、力のある奴らは全部倒したから。召喚魔法陣は無駄になるはずだった。
俺は、
魔法陣から黒い
その靄が晴れた時──
「えっ……。あっ!!」
「あ、あれ? わたしは、確か観客席に」
「は、はは。ふ、ふはははは! よく来た、
邪神が俺の妻であるシトリーを召喚した。
「お前は確か次の魔王候補だったな。来てくれて助かった。今こそお前に、魔王として真の力を授けよう」
邪神がシトリーの肩に触れると、彼女の力が急激に膨れ上がった。シトリーの側頭部に生えていた細い角が、太く禍々しく成長した。かつて対峙した魔王ベレトの何倍も強い力を感じる。
そして彼女の後ろに隠れるように移動した邪神が叫ぶ。
「さぁ、やれ! 俺の敵を殺すのだ!! 魔王シトリー」
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