新人冒険者 ケイトとアリア
田舎の村からこの国の王都までやって来た俺ケイトと、幼馴染のアリアは今日、ここで冒険者になる。
時間はかかるかもしれないけど、俺たちにはCランク以上の冒険者になるって目標があった。強くなって、稼いだお金を村に送り、村のみんなの暮らしを良くしてあげたいんだ。
俺たちの村はほんっとーに山奥にあるから、すっごい不便なんだ。何をするにも不便だけど、俺は村のことが好きだった。村にいる家族やみんなが大好きだ。
「いっぱいお金を稼げる冒険者になろうね、ケイト」
グレンデール王都に入るための立派な門を俺の隣で眺めながら、アリアがそう言ってきた。彼女も俺と同じく、村の暮らしを良くしたいって考えていた。俺だけじゃ不安だってことで、彼女も付いてきてくれることになったんだけど……。それが、すごく嬉しかった。
旅の商人から『金をたくさん稼ぎたいなら、王都で冒険者になるのがいい』って聞いたから、俺はこうして王都までやって来た。村の周囲に出る魔物を狩ってレベルはそれなりに上がっていたし、険しい山道の往来で体力には自信があった。魔物を狩ってその素材を売り、お金を稼ぐことに関してはあんまり問題ない。
だけど村を出て、ひとりで生活していかなきゃいけないっていうのには不安しかなかったんだ。
幼いころからずっと一緒に過ごしてきたアリアが、親の反対を押し切って俺についてきてくれたのがとても嬉しかった。一週間くらいかけて王都まで旅してきたわけだけど、この一週間毎日のようにアリアに感謝の言葉を言ってる。
彼女にはくどいって怒られちゃうだろうけど。
「頑張ろうね、アリア。それから俺についてきてくれて、ほんとにありがと」
「もー、いいって。私がケイトについていきたいって思ったから、ここまで一緒に来たの!」
アリアが俺の手を掴んだ。
「さぁ、行こうよ!」
「う、うんっ!!」
──***──
「はい。それではこれで、冒険者登録は完了です」
冒険者ギルドの受付にいたお姉さんからギルドカードを手渡された。
犯罪歴とかを聞かれて、水晶に触りながら『ないです』っていうだけのお手軽さだった。冒険者になるのって、拍子抜けするくらいすげー簡単なんだ。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます。やったね、ケイト」
無事に冒険者になれて、アリアも喜んでいた。
「冒険者になるのは簡単です。年齢が十五歳以上で、犯罪歴がなければ誰でも登録ができますから。難しいのは、冒険者であり続けることです」
俺たちが手放しに浮かれているのを見て、受付のお姉さんが諫めてくれた。
「そ、そうですね。頑張ります!」
それをアリアは素直に受け入れていた。でも俺は商人のおじさんから、冒険者は舐められたらダメだって教えてもらっていた。だから少し強気な態度をとっておく。
「アリア、大丈夫。何とかなるって。俺ら結構強いから」
そこそこ腕に自信があるのも本当だ。
俺はレベル35の戦士で、アリアはレベル29の魔法使い。ふたりで村の周りにいた魔物を狩り続けていたら、いつの間にかこんなレベルになっていた。ちなみに俺とアリアの村の住人はみんな、村のそばに現れる魔物を倒すことができる。
この王都に来るまでに得た情報では、俺たちが普通に倒していたのは危険度Dランクの魔物で、オークっていうらしい。俺らの村では豚人って呼んでたけど。
危険度Dランクの魔物を倒せる力があるんだ。魔物の危険度と、それを倒せる冒険者の等級は同じになることが目安らしい。
ということは俺たちにはすでに、Dランク冒険者になってもいいくらいの力があるってことなんだ。ちょっとくらい調子に乗ったっていいはず。それに自信ありげな方が、なんか強そうじゃね?
「お姉さん。早速だけどなんか依頼ない? Dランクの魔物を狩るぐらいなら簡単なんだけど」
「えっと……。冒険者登録をしたばかりの子に、Dランクの魔物の討伐は任せられないかな。まずは薬草採取とかで実績を積んでから──」
「えー! 薬草採取!? やだよそんなの。村の子供がやるような仕事じゃん。魔物討伐の仕事が良い!!」
「こ、こら、ケイト。やめなよ」
「アリアも言ってやりなよ。俺らはオークくらい楽勝だって」
「お、オークを? あなたたちが?」
受付のお姉さんは、それを信じてないみたい。
冒険者ギルドは、討伐を証明する魔物の身体の一部を持ち帰ることで報酬をくれたりするらしい。お姉さんに俺たちの力を信じてもらうため、少し前に狩った豚人の耳とかでも持ってくれば良かったかもな……。
そんなことを考えていた時。
「ほぉ。なんか威勢のいい奴らが来たな」
後ろから声をかけられた。
気配が近づいてくるのは気づいていた。
「あっ、シリューさん!」
受付のお姉さんがシリューって呼んだ赤髪のおじさんは、筋肉がすごくて強そうだった。
「……おじさん。俺らになんか用?」
「おじっ!? ちょっと、君! この方は──」
「あー、いい。俺は気にしないから大丈夫だ」
怒ってる受付のお姉さんに笑顔で対応した後、シリューが俺らに向き直った。
正面から対峙すると、改めてこのヒトがかなり強いってのがわかる。たぶん
「おじさん、結構強いね」
「おっ。わかるか? お前、見る目もあるなぁ」
シリューがニコニコし始めた。
なぜか俺はこの時、一瞬だけ気持ち悪くなった。
「気に入った! お前ら、ウチに来い」
「し、シリューさん、本気ですか!?」
お姉さんが驚いてる。
意味が分かんねぇ。
「ウチってどこだよ」
「君、知らないんですか? シリューさんは巨大なクランを率いるA級冒険者なんですよ!!」
いや、知らんて。
冒険者になろうって思いついたの先週だし。そっから冒険者登録の方法とかいろんな人に聞きながらここまで来ただけだから、誰が強いとか俺らが知るわけがない。
「ふーん。ちなみにクランってなに?」
「なんだ、クランも知らねーのか。これはやっぱり、ウチに来てもらいてーな」
「いや、だからクランが何なのかを教えてよ」
「ケイト君、いいですか。クランというのは冒険者のパーティーが複数集まって作る集団のことです。冒険者は安全のために、複数人でパーティーを組むことが定石です。そのパーティーを組むときに、倒すべき魔物に合わせて人員編成を変える必要があるんです」
人員編成?
そんなん、必要なのか?
「前で俺が守って、後ろからアリアが攻撃魔法をぶっ放せばどんな魔物だって狩れるよ」
「自信満々なのは結構。だが──」
「っ!?」
シリューの存在感が急にでかくなった。
とても強力な圧を感じる。
「今の俺とお前、どっちが強いと思う?」
「……あ、あんただ」
「そうか。わかってくれてありがとう」
ふっ、と圧が消えた。
「この世界にはお前なんかより強い奴がたくさんいる。お前がビビった俺の何倍も強い魔物だっているんだ。そんな魔物に対してでも、俺たち冒険者はヒトを助けるために戦わなきゃならねぇ」
シリューが俺を正面から見てくる。
彼から目を離せなくなっていた。
「だから俺たちは仲間とパーティーを組んで戦うんだ。ひとつのパーティーじゃ勝てない敵がいることもある。だからクランを組む」
「……なら、なんで俺みたいな弱い奴を誘うんだ?」
「確かにお前は、俺からすればまだまだ弱い。だけどそんな奴らもしっかり育ててやれば、近いうちに戦力になる。特にお前らにはその見込みがあると思った」
シリューが手を差し出してきた。
「ウチに来い。俺がお前らを一流の冒険者にしてやる」
どうしよう?
チラッとアリアを見る。
「私は、ケイトについていくよ」
彼女がそう言ってくれたから、俺の中で決心がついた。
「わかった──いえ、わかりました。俺はケイトと言います。シリューさん、俺たちを貴方のクランに入れてください」
シリューの手を握りながら頭を下げた。
「ありがとう!! よく決めてくれた!」
俺の手が強く握り返される。
この様子を見ていた受付のお姉さんが、何故かすごくはしゃいでいた。
「ケイト君、これは凄いことですよ! だって、シリューさんが率いるのは国内最大のクランなんですから」
そうなんだ。
でも俺は、そーゆーのは気にしない。
大事なのは、シリューさんに鍛えてもらえるってこと。
俺はもっと強くなって、いっぱい稼げる冒険者になるんだ。あっ、稼ぐための効率のいい狩りの仕方とかも聞いたら、シリューさんは教えてくれるかな?
なんにせよ、俺とアリアの冒険者生活は軌道に乗ったっぽい。
「ケイトとアリア、早速だが俺のクランに案内しよう。っと、まずは──ようこそ、我が
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