Cランク昇級試験(14/16)
最終的にメルディは、十回以上ガドを屠った。
実は二回目の時にはすでに、ガドは降参しようとしていた。しかしそれができず、その後何度も死ぬことになる。メルディの行動が早すぎて、ガドが降参の意図を伝えられなかったから。
ガドが復活して、その口から言葉が出かけたときにはすでに、彼の身体はメルディの拳で
ただ、メルディがここまでやるのは珍しい。ルナがナンパされたとき、メルディはガドに少し
彼女はそのくらいのことで、深く傷付くようなメンタルをしていない。貶されたのがルナであったなら、メルディがここまでやってしまうのもわかる。
ガドが過去に複数の女性を不幸にしてきたと知ったから、少し灸をすえた。それと獣人族であることを貶されたから、その仕返し──メルディは、そう言っていた。
でもやはり、何か違う気がする。
彼女の本心が気になって、読心術でメルディの心の声を聴いてみた。
(あー。スッキリしたにゃ! たまには何かを全力で殴るのも、けっこういいにゃ)
……うん。ただのストレス発散だった。
メルディらしいなって思う。
「それじゃ次は、僕の番だね」
シルフが次に試験を受けるようだ。
あと残っているのは風の精霊王シルフと、転生勇者のアカリ、元魔王のシトリー、それからルナ。俺が試験を受けている時、この順番で試験を受けることを話し合って決めていたみたい。
「次はお前か?」
あれだけ死んだのに、まだ俺たちの試験を継続してくれるガドの精神力は凄いと思う。
「なんだ、ガキじゃねーか」
「こう見えて、君より年上なんだけどね」
年上だし、かなりの格上の存在だ。
彼女は精霊王なのだから。
この世界で最強なのは、もちろん神様たち。でも神様は、人間界ではその力を完全には解放できない。そう制限されているからだ。制限せずに神様たちが力を使えば、世界が崩壊してしまう。
その神様たちから、人間界の管理を任されているのが精霊王たちだ。つまり精霊王であるシルフは、
「もうやっていいよね」
「おう。どっからでもかぺっ──」
言葉半ばのガドを、シルフが風で
ちょっと面白い断末魔の叫び(?)を残して、ガドの姿が消える。
圧倒的な魔力を持つ精霊王という存在が行使した魔法は、ただのヒトが耐えられるようなものではない。俺も初めて、シルフが本気で魔法を使うのを見た。
「僕は見た目こんなだけど、初対面のヒトにガキって言われたくないんだよね」
ガドは言葉を間違えたな。
ま、仕方ないよ。
軽くキレた精霊王による虐殺タイムが今、スタートした。
──***──
「次、私がいきまーす!」
「アカリ。ちょっといいか」
「うん。ハル
アカリに全力を出されるとまずい。
彼女は、強すぎる。
精霊王より強い『例外』のひとりだ。
最初はアカリにも全力を出してもらおうとしていたが……。リューシンやメルディの成長を見て、考えを改めた。
「戦うとき、本気は出さないで」
「えっ!? さっきは全力で良いって言ってくれたのに……。ダメなの?」
「ごめん。アカリはかなり強いから、力を三割程度にセーブして戦ってほしい」
「さ、三割?」
成長したリューシンが、俺のダンジョンに容易く穴をあけた。その攻撃が外部に影響を与えることはなかったが、問題は彼がそれをできてしまったということ。
アカリは、リューシンの数倍強い。
「頼む」
「……うん、わかったよ。ハル
そういってアカリは刀身が真っ黒な刀をどこからか取り出し、ガドに向かって歩いて行った。
……あ、あれ?
あ、あの。アカリさん?
その黒刀って、
あなたの本気装備じゃありませんか?
俺の話、聞いていましたか?
三割でって俺、言いましたよね?
ちょっと不安になったので、アカリの心を読んでみる。
(三割で──って。そんなんじゃ、みんなに良いとこ見せられないよ)
いや。そんなことはない。
アカリの三割は、全力のリューシンより強い!
「次もガキかよ」
「アカリです。よろしくお願いします」
「……まぁいい。来いよ、遊んでやる」
「はい。それでは」
アカリの心の声が聞こえてきた。
(きっとハル
えっ!?
ち、違うよ!?
(だから私がやるべきなのは──)
アカリが黒刀を上段に構える。
(
「いきます!」
や、ヤバい!!
「みんなっ! 逃げるぞ!!」
俺はガドとアカリ以外のその場にいた全員を連れて、転移で冒険者ギルドの外まで逃げた。すでに極限まで高まっていたアカリの魔力を、もう止められないと判断したからだ。
転移が完了した瞬間、大地を揺るがすほどの衝撃が発生した。
俺たちがいた闘技場は、俺がダンジョン化した際に外界との繋がりを遮断しておいた。闘技場の周囲を異界に繋ぐことで、どんな攻撃をしても冒険者ギルドの外に影響がないようにしたんだ。
でもアカリは──異世界の女神様から、超強力な転生特典をもらってこちらの世界にやってきた最強勇者は、空間をも容易く砕く能力の持ち主だった。
それから彼女は、やっぱり俺の妹だった。
「俺、三割でって言ったじゃん……」
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