この世界の魔法(1/3)

 

 ハルトが転生した五日後──



「ハルト様。今日からは、火属性以外の魔法も使っていきましょう」


「はーい!」


 シルバレイ伯爵の屋敷に併設された訓練所で、ティナが五歳のハルトに魔法を教えていた。


「早速ですが問題です。この世界に存在する基礎的な属性魔法を、四つお答えください」


「火、水、土、風の四つでしょ?」


「正解です。その四属性の魔法を、『四元素魔法』といいます」


 訓練所に設置された黒板に、ティナが四元素魔法の詠唱などを書いてまとめていく。



 【四元素魔法】

 火 … ファイア

 水 … ウォーター

 風 … ウインド

 土 … アース



「四元素以外の属性魔法も、言えますか?」


「うん! 『陰陽魔法』の光と闇でしょ。光属性魔法の詠唱がホーリーで、闇属性魔法の詠唱がダークだよね」


「素晴らしい。その通りですよ」



 【陰陽魔法】

 光(癒) … ホーリー

 闇(呪) … ダーク



 光属性魔法は別名、聖属性魔法とも呼ばれている。また、ヒールなどの治癒系魔法も、光属性として分類されている。


 呪いなどは、闇属性魔法に分類される。



「では、四元素魔法を混ぜる──つまり、合成することで使用することができる『合成魔法』も言えますか?」


「もちろん! 火属性魔法に風属性魔法で『炎』、水に風 で『氷』、風に土で──」


 ハルトが次々に魔法の組み合わせを答え、ティナがそれを黒板に書き出していった。



 【合成魔法(基本)】

 火 + 風 ⇒ 炎 … フレイム

 水 + 風 ⇒ 氷 … アイス

 風 + 土 ⇒ 雷 … サンダー

 水 + 火 ⇒ 霧 … ミスト(幻影/魅惑魔法)

 土 + 水 ⇒ 木 … ウッド

 土 + 火 ⇒ 鉄 … アイアン(錬金術)



「はい。全て正解です」


「昔からティナが俺に、魔法に関する本を読み聞かせてくれたからね。このくらいは当然だよ」


 西条遥人という異世界人が、この世界のハルトという五歳児の肉体に転生してきたのだが、ハルトと遥人の魂が混じり合う形での転生だったため、今のハルトには遥人としての記憶と五歳までのハルトの記憶の両方があった。


 魔法の訓練は五歳になるまでできなかったのだが、魔法に関する勉強として、ティナがハルトに本を読み聞かせていた。


 さらにハルトは転生特典として、戦闘職が『賢者』になっていた。


 賢者になると、記憶力が向上して魔法に関する知識量が増える。さらに魔力の量も増えて、魔力操作に補正がかかる。


 普通のヒトでは合成魔法を使いこなすのは難易度が高いのだが、賢者であるハルトにとってはなんの問題もなかった。


 転生して四日目の昨日、彼は自分が四元素魔法を組み合わせた全種の合成魔法が使えることを確認していたのだ。



「でも、土と風で雷魔法になるってのが、よくわかんないや」


 元の世界の知識があるハルトからすると、雷属性魔法の組み合わせだけは、なにか違和感があった。


 昨日、ティナに隠れてこっそり合成魔法を試していたわけだが、その時はなぜか雷属性魔法だけが他の魔法より使いにくかった。


 ハルトはその原因を、だと考えていた。


 この世界の魔法は、使用者が持つ魔法のイメージで効果が大きく変わる。しっかりイメージできなければ、魔法自体が発動しないこともある。


 実際の雷は、上空でできた氷の摩擦で発生しているらしいので、土と風の組み合わせで雷になるというのが、ハルトにはいまいちイメージできていなかった。



「ですよね。実は雷属性魔法って、他の合成魔法より使用が難しいのです」


「そうなんだ」


「はい。実は雷属性魔法は、純粋な風属性ではなく、そこに水属性魔法を混ぜて氷属性魔法の性質を入れて、を使うのです」



 【ホントの雷属性魔法】

 風 + 水 + 土 ⇒ 雷



「へぇ。てことは雷属性魔法を使うには、三つの属性魔法を組み合わせなきゃいけないんだね」


「その通りです。小さな氷の粒が擦れ合うことで、雷が発生します。その雷は、土に向かって進む性質を持ちますので、攻撃目標まで土属性魔法で導くことで雷属性魔法として成立するのです」


「なるほど!」


 このティナの説明を受けて、ハルトには明確に雷属性魔法のイメージができた。


「ただ、雷属性魔法はそうしたイメージができていたとしても、三つの属性魔法を同時に発動して混ぜることが非常に困難で、使えるヒトはほんのわずかです。魔法の才能がある、限られたヒトのみに許された強力な攻撃魔法──それが、雷属性魔法なのです」


 長い時をかけて魔法の研鑽を積んだ一部の者や、魔王を倒すために異世界から召喚された勇者にのみ許された魔法。


 イメージができていなかったハルトだが、彼は雷属性魔法を発動させることができていた。


 それはハルトが、異世界から邪神によって召喚された賢者であったからだ。


 職業の効果で強引に発動させていた魔法だったのだが、今の彼には雷属性魔法を完璧な威力で発動させるだけのイメージと技量が揃った。


 だから──



「ティナ先生。俺、雷の魔法を使ってみたいです!」


 ハルトは試したくて仕方なくなり、雷属性魔法を使いたいと言い出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る