第287話 勇者のステータスとお祈り
「ところで、その子はアカリのペット? それとも、使い魔?」
エリザが、アカリの腕に抱かれたテトを見ながら聞いてきた。
「あっ、はい。私の使い魔の──」
「テトっていうの!」
「えっ!?」
テトが自分で自己紹介をして、それにエリザが驚いた。
この世界には喋れる魔物がいて、それをテイムすることもできるが、その数はあまり多くない。
テイマーであればテイムした魔物との意思疎通は可能だが、自分以外に話しかけさせるのは無理なのだ。
「す、すごい。話せる使い魔をつれてるなんて……アカリって、高レベルのテイマーなの?」
「テイマー?」
アカリは異世界に、魔物を使役するテイマーという職業があることは知っていたが、自分の戦闘職を知らなかった。
「あの、エリザさん。自分の職業って、どうやって確認するんですか?」
「し、知らないの!?」
「……すみません。わからないです」
「まぁ、アカリが謝ることじゃないけど……『ステータスオープン』って言えばいいのよ」
「ス、ステータスオープン」
アカリが唱えると、彼女の目の前に半透明のボードが浮かび上がった。
ステータス
名前:アカリ
種族:人族
加護:異世界の女神の加護
職業:勇者(レベル300)
「──っ!?」
勇者という文字が見えて、アカリは慌ててステータスボードを隠した。
勇者だからなんだという話なのだが、エリザに見られてしまうのはダメな気がしたのだ。
「あら、なにか変なのが表示されちゃった?」
アカリがあからさまに目の前で隠し事をしようとしていたのに、エリザは落ち着いている。
「気にしなくても大丈夫よ。ステータスボードは他人に見せようって意識しながら表示しなくちゃ、周りの人には見えないから」
「そ、そうなんですか?」
「えぇ。それにうちのギルドって、慢性的に人手不足なのよね。だから、多少問題を抱えてる人たちでも受け入れちゃうの。ただ、アカリがなにか他人に悪影響を及ぼすような呪いとかを持ってるってのだと、話は変わっちゃうのだけど……」
「の、呪いなんか持ってません!」
「そう。なら問題はないわ。だけど一応これ、お願いできる?」
そう言いながら、エリザが真偽の水晶をアカリに向かって差し出してきた。
これを使って、ヤバい呪いを持っていないことを証明しろと言うのだ。
「私は、呪われてたりはしません」
「テトものろわれてないよー」
アカリが水晶に手を当てたのを真似して、テトも水晶に前足を乗せて宣言した。
「はい。ふたりとも、ありがとう」
真偽の水晶が青く輝いたのを見て、エリザは笑みを浮かべる。
「アカリとテトが問題なければ、これでギルドの登録は終わりです。なにか質問とか、大丈夫?」
「ありがとうございます。大丈夫です」
「テトもー!」
「うん。アカリ、テト、アプリストスの生産ギルドにようこそ! 歓迎するわ。今日はアカリがウチのギルドに登録してくれたお祝いで、私のお家でご飯を食べない?」
「い、いいんですか?」
「もちろん! アカリはなにか、食べたいものとかある? テトも、希望があれば言ってね」
「テト、おにくがいいー!」
「お肉……たしか、ホーンラビットの干し肉が余ってたかな。アカリは?」
「えっと。もし大丈夫なら、私もお肉が食べたいです」
この世界にどんな食べ物があるかわからない。あまり話すとボロが出る気がして、アカリはテトに合わせることにした。
「それじゃ、夕飯はお肉料理にするね!」
「わーい!」
「ありがとうございます」
その後、アカリがこれから住む部屋をエリザに教えてもらった。
シングルサイズのベッドがひとつと、小さな机と椅子があるだけの部屋で、エリザが言っていたとおり、ここでアイテムを生産する作業はなかなか厳しそうだ。
「狭い部屋でごめんね。下の階にあるギルドの工房が空いてる時は、自由に使っていいから」
「わかりました。そうさせていただきます」
狭い部屋だが、寝るだけなら問題はない。
もとより今のアカリにはお金がない。
魔王を倒すのが目的なので、それ用の装備も買うか作らなければいけないのだ。もちろん、自分で作るにしても材料費が要る。
なるべく早くお金を稼がなくてはいけない。
タダで泊まらせてもらえる部屋に、文句など付けようがなかった。
──***──
エリザが仕事を片付けるのを待って、彼女の家についてきたアカリとテト。
エリザの家は、生産ギルドの建物から三十分ほど歩いた場所にあった。
「お邪魔します」
「おじゃましまーす」
「アカリ、テト。我が家へ、ようこそ」
エリザの家には、鎧と剣が置いてあった。
その鎧のサイズからして、エリザのものではなさそうだ。
「あぁ、それ。私の夫のよ。あっ、ごめん。言い忘れてたけど、夕飯は私の夫も同席するのだけど……いいかな?」
鎧を見ていたら、それに気づいたエリザが教えてくれた。
「はい、私たちは大丈夫です。でも……逆に私たち、お邪魔じゃないですか?」
エリザの家に置いてある家具などは、そのほとんどが新品のようだった。
なのでアカリは、エリザとその旦那さんが新婚なのではないかと思ったのだ。
「私たちのことは気にしないで。アカリみたいに可愛い子が遊びに来てくれたら、夫も喜ぶわ。それにあの人が、早く子どもを欲しくなってくれたらいいなぁ──って、い、いまのなし! 忘れて!!」
自分の思いが漏れていたことに途中で気づいたエリザが、顔を真っ赤にしていた。
「エリザさんは、旦那さんのことが大好きなんですね」
「エリザのかお、あかーい」
「お、大人をからかうのはいけません。テト、お肉を減らしちゃいますよ?」
「あぅ、ごめんなさい」
素直に謝るテトが、可愛かった。
「テトはちゃんと謝れてえらいですね。いい子です」
エリザが、アカリに抱かれていたテトの頭を撫でていると、家の扉が開いた。
「ただいま──って、あれ?」
「あっ、衛兵さん!」
入ってきたのはアカリが王都に入る時、検問にいた衛兵だった。
「エリザさんの旦那さんって、衛兵さんだったんですね」
「あぁ。お嬢ちゃんが家にいるってことは、エリザと知り合いになったんだな。てことは、俺のアドバイス通りに生産ギルドに行ってくれたのか」
「はい! エリザさんに、色々とお世話になってます」
「あら。あなたがうちのギルドに、アカリを向かわせてくれたのね。ありがと。おかげで貴重な人材をゲットできたわ」
エリザの旦那は、エリックというらしい。
彼はもともと国軍で働いていたが退役し、今は王都の検問所での仕事に就いている。
エリックとアカリ、テトが色々話しているうちに、エリザが夕食を作ってくれた。
「みんな、お待たせ。食べましょ」
「はーい!」
「いいにおいー! おいしそー!!」
アカリはエリザと向かい合うようにテーブルについて、エリックはエリザの隣りに座った。
テトは机の上に乗っていいと言ってもらえたので、机上にちょこんと座っている。
「アカリ。この国では食事の時、とあるお方に感謝の気持ちを込めて祈るの」
「お祈り、ですか?」
「君はまだこの国の住人じゃないから、祈っても祈らなくてもどちらでもいいよ」
「よくわからないので、ポーズだけでも良ければ……」
「テトも、おいのりするの」
「うん。ならそれで。あのお方は、そういうので怒るような方じゃないと思うわ」
「そうだな。それじゃ──」
エリザとエリックが指を組んで祈る格好をしたので、アカリとテトも真似をした。
「我らの愚かな行為を赦し、今日もこうして愛する者と食事ができる機会を与えてくださったハルト様に感謝を──」
「感謝を」
「か、感謝を」
「かんしゃー!」
「いただきます」
「「「いただきます」」」
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