第270話 B級冒険者ヨハン(1/3)
よぅ。俺はヨハン、冒険者だ。
俺の親父も冒険者だった。親父の仕事を手伝っていて、そっから流れで俺も冒険者になり、これまでやってきた。
割と真面目に依頼をこなしていたら、仲間に恵まれてたってのもあって、いつの間にかB級まで登りつめた。
グレンデールにある冒険者ギルドは、他国のギルドと比較しても大きなほうだ。
その中で俺は、上位の冒険者だった。
既にベテランと呼ばれる領域に足を突っ込んでる俺には、嫁さんと息子がふたりいる。
まぁ、それなりに上手くやってきたと思う。
俺の最近の主な仕事は、後輩たちの育成だ。
新人たちに、これから冒険者としてやっていくためのイロハを叩き込んでやるのが仕事だ。
依頼を受けて魔物を狩ることもあるが、昔ほど危険な場所には行かなくなった。
俺も歳をとったし、なにより家族ができちまったからな。
ちなみに新人の育成は、ギルドから金がもらえる。優秀な冒険者に育てば、将来ギルドの稼ぎ頭になってくれる可能性があるからだ。
もらえる額がそこそこ多いので、狩りに行くよりこっちの方がよかったりする。
楽だし、安全だからな。
そんなわけで、俺は新人の育成や昇級試験の監督を引き受けてるんだ。
もちろん、依頼として引き受けた以上は手を抜かない。
訓練や試験の最中に、新人が危なくなれば身を呈して守ってやるし、ふざけたことをやっていたらガチで説教する。
魔物をなめたら、その先に待つのは死だ。
厳しく説教した結果、冒険者になるのを諦めた奴らもいる。
だが、それはそれで良かったと思う。
冒険者は、命をかける仕事なんだ。
そんな俺のところへ、久しぶりに昇級試験の試験監督の仕事がギルドから入った。
F級からE級への昇級試験だ。
具体的には、最近このギルドで活躍しているハルトとその仲間たちの昇級試験を監督してほしいとの依頼だった。
ハルトたちのことは俺もよく知っていた。
新人冒険者にしては珍しく、地下水路の掃除など普通の新人が嫌がるような仕事も、率先して受けている集団だったからだ。
それから、アイツらは常に五つのパーティーで依頼を受けていた。総勢二十人近い人数になる。それもギルド内で話題になる要因だった。
しかもそのメンバーに美人が多いもんだから、すぐにトラブルを起こすだろうって思っていた。
新人が美人をつれて歩くと、先輩冒険者が絡みにいくのはよくあることだ。
基本的にギルドの外で起こるいざこざに俺は干渉しないが、ギルド内で起きた揉め事はよく仲裁している。
ハルトのパーティーも、そうなるだろうって思ってた。
だが、いつまで経ってもアイツらは周りの冒険者に絡まれることはなかった。
なぜだかわからないが俺も、ハルトがつれている女たちに声をかける気にならなかった。
遠くから見てる分には美人だって思うのだが、彼女らに近づくと声をかける気がなくなるんだ。
なんでだ?
……ま、俺には嫁さんがいるから、そんなことどーでもいいけどな。
さて、ハルトたちの昇級試験は明日だ。
本来はゴブリンを捕まえてきて、そいつを倒せるか、戦闘中に仲間と連携が取れるかなどを見るのが試験の内容なのだが、アイツらは既にゴブリンの群れを倒した実績があるらしい。
それに、ほかの新人が受けない依頼を数多くこなしていたようで、ギルドの受付嬢たちの評判も良かった。
新人が嫌がる依頼ってのは、報酬が安く、代わりにギルドポイントが多くもらえる依頼が多い。
ちなみに、ギルドとしては金を払うより、ギルドポイントを付与するだけで働いてくれる冒険者の方が都合がいいんだ。
そーゆー条件が重なって、ギルドマスターから直々にハルトたちの昇級試験を
さすがに昇級試験の相手がスライムってのは弱すぎると思ったが、そもそも試験なんかなしで昇級させてやってもいいと俺は思っていた。
アイツらの纏う雰囲気が、そこらの熟練冒険者なんかより断然強そうだったからだ。
これは俺の勘なんだが……俺はハルトに勝てないと思う。多分、俺が百人いてもむり。
まぁ、ただの勘だ。
今、言ったことは忘れてくれ。
で、スライムを探しに王都近くの山まで来たわけだが、『僕らを捕まえて!』と言わんばかりに俺の目の前でプルプルしている五体のスライムを発見した。
ハルトたちは五つのパーティーで明日、試験を受ける。ひとつのパーティーにつき、一体のスライム……うん、ちょうどいいな。
そいつらは俺に気づいているが、攻撃しようとも逃げようともしない。
スライムはなにを考えてるかわからん魔物だから、稀にこんな奴らもいる。
普通は攻撃して、弱らせた魔物をスクロールに封印して昇級試験で使うんだが──
俺はなんとなく、無傷のスライムにスクロールを当ててみた。
「……マジか」
一切の抵抗なく、五体のスライムを封印することができてしまった。
無抵抗でテイムできる魔物がいることは知っていたが、ダメージを一切与えずにスクロールに封印できる魔物がいることは知らなかった。
使役する側とされる側、両者の合意で使役するテイムと違い、スクロールは封印される側になんのメリットもないからだ。
しかもこのスライムたち、まるで自分からスクロールに入ってきたような気がするが……。
──いや、さすがにそれはないな。
ま、仕事が早く終わって良かったと思うことにしよう。
さっさと帰って、息子たちの顔が見たい。
俺はスライムが入ったスクロールを回収し、家族が待つ家へと帰ることにした。
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