第269話 エルノール家 vs スライム(2体目)
「アルティマサンダー!」
ルークがいきなり究極魔法を放つ。
到底、スライム相手だとは思えない攻撃だ。
ヨウコやセイラがそこそこ強い魔法を放ち、それらが確実に当たっていたにもかかわらず、スライムは平然としていた。
白亜やエルミアの物理攻撃も、通常のスライムであれば十分に消滅させうる攻撃だったのだ。
セイラが言うように、本来スライムに斬撃は効かない。
しかし、エルミアの持つ聖剣は魔物に対して特効がつく。つまり彼女の聖剣による攻撃は、ゴーストやスライムなど、不定形の魔物に対しても有効なのだ。
──それが、このスライムには通じなかった。
そして攻撃速度の速さ。
これも異常だった。
ルークは、スライムが触手でヨウコたちを拘束するのを目で追えなかったのだ。
なんとか魔力の流れを見ることで、スライムがヨウコたちに迫っていることは分かっていたが、気づいた時には既にヨウコたち四人が拘束された後であった。
このスライムは普通じゃない──そう、ルークは気づいた。
そして冒険者が死ぬのは油断した時が一番多い、とギルド内部で新人冒険者に説明している熟練冒険者がいたことを思い出した。
ルークはヨハンが、外見がスライムだからといって油断するなという教訓を自分たちに与えるため、スライムなんかよりもっと強い魔物をスライムに擬態させて連れてきたのではないか──そう考えたのだ。
よくよく考えれば、依頼を真面目にこなした程度で、昇級試験の敵がスライムになるなどあるわけがない。
であれば手加減などしてはいけない。
だから彼は、いきなり究極魔法を放った。
スライムに対して、一切手加減のない攻撃。
あまりの威力に、円形闘技場の地面が抉れる。
「や、やったか!?」
盛大なフラグを立てるヤツがいた。
リューシンだ。
「きゅぴ!」
「な、なに!?」
「おいおい、嘘だろ……」
真っ黒に焦げ、大きく抉れた闘技場の床に、変わらぬ姿のスライムがプルプルしていた。
「きゅ」
スライムの姿が消えた。
「き、消えた?」
「ルーク! 後ろだ!!」
バケモノ揃いのエルノール家の中でも、特に動体視力がいいリューシンが、なんとかルークの背後に迫るスライムに気づいたのだが──
「いてっ!」
ルークの後頭部を殴るスライムを、止めることはできなかった。
「…………」
「…………」
かなりの速度で頭を殴られたが、ルークはその場に立っていた。
「お、おい。ルーク、平気なのか?」
「あぁ……なんだろう。全く痛くなかった」
──そう。
このスライムは耐久性と、移動や攻撃の速度が尋常なく速いのだが、攻撃力はほとんどなかった。
いくら速く動けても、このスライムには重さがほとんどない。速度と重さで攻撃力が変わるため、普通のスライムと変わらない攻撃力しかなかったのだ。
であれば、レベル100を超えているルークに、ダメージを入れられるわけがない。
「なぁ。コイツら……やっぱり、たいしたことないんじゃね?」
ダメージは与えられないが、こちらがダメージを受けることはなさそうだ。
だから、なんとか拘束さえしてしまえば勝てると、リューシンは判断した。
そもそも敵はスライムだ。
たいしたことなくて、当然なのだが──
このスライムは違った。
「きゅぴぴ!」
「へぶっ!? ぐはっ、おごっ!」
油断していたリューシンが、スライムに超高速で何発も殴られる。
「リューシン様!」
「う、うぅ。な、なんで……」
その一発一発が、ルークを殴った時とは明らかに違う威力だった。
ヒナタが心配して、リューシンに駆け寄る。
彼は、かなりのダメージを受けていた。
「ヒール!」
ヒナタの回復魔法で、リューシンのダメージが回復していく。
「ヒナタ、すまない」
「いえ……それより、油断しちゃダメです」
リューシンたちの前にいるスライムは、いつの間にか
魔衣を纏うことでさらに速度を上げ、弱かった攻撃力を強引に強化したのだ。
「お、おい。アレって──」
「あぁ。ハルトやメルディが使う、魔衣だな」
実は、五体のスライムたちの中で一体だけ、魔衣を習得したスライムがいたのだ。
それはハルトの加護を受け、超絶強化された特殊スライムたちの中でも、さらに特殊な個体。
五体のスライムの、リーダー的存在だった。
それが今、ルークたちの前に立ち塞がっている。
「……ルーク、リエル、ヒナタ、力を貸してくれ」
「まさか、
「あぁ。そうでもしないと、多分コイツには勝てない」
リューシンは目の前のスライムが、本気で戦うべき魔物だと確信した。
それも、仲間の力を借りて、自分の限界を超える力を引き出して戦うべき敵だと──
「……わかった」
「わかりました。やりましょう!」
「無茶は、しないでくださいね」
ルークとリエル、ヒナタがリューシンの背中に触れ、そこから魔力を流し込んでいく。
次第に電気と風、そして光の筋がリューシンの身体の周りに纒わり付く。
それに合わせるように、彼は自分の身体を竜化させていった。
数秒後、疾風迅雷と光の魔衣を纏った、二本足で立つ半竜が、その場に姿をみせた。
闇属性の黒竜、そのドラゴノイドであるリューシンが、ヒナタの協力を得ることで聖属性にも耐性を得た。
さらにルークとリエルに、最速で移動や攻撃が可能になる疾風迅雷の魔衣を付けてもらう。
竜化することに魔力を使ってしまうため、竜化しながら自分では魔衣を纏えないリューシンが、より強くなるために編み出した戦闘方法だった。
ルークのパーティーは強敵と戦う時、リューシンを強化して、そのサポートを全力でするという戦闘スタイルをとっていた。
この戦闘方法で、これまでに数体の悪魔を四人だけで倒してきた。
ルークたちに強化されたリューシンは、余裕で悪魔を倒せるだけの力があるのだ。
「よし、いくぜ!」
そのリューシンが──
魔衣を纏ったスライムに
「ぶふぉ!?」
地に顔面を打ち付け、奇声を上げる。
周りで様子を見ていた残りの三体のスライムのうちの一体が、リーダーに向かおうとしていたリューシンの足に触手を絡ませた。
急に足を止められたリューシンが、勢いよく地面に倒れたのだ。
「えっ」
ルークは驚いているが、別におかしなことではない。
スライムたちが大人しくしていたせいで、勝手にスライム一体に対してひとつのパーティーで戦う感じになっていたが、魔物であるスライムにとって、そんな取り決めなんてあるわけがない。
仲間が危なそうだったから、助けただけ。
でもそれは、エルノール家の他のメンバーにも言えることだった。
「みんな、いくぞ!」
「はい!」
「旦那様の、仰せのままに」
ハルトの号令を受け、待機していた彼のパーティーと、ティナ、シトリーのパーティーも動き出した。
エルノール家と、スライムたちの本格的な戦闘が開始されたのだ。
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