第九章 それぞれの日々
第219話 エルノール家のお金事情
「そういえば、うちの家計ってどうなってるの?」
ある日、なんとなく気になったのでティナに聞いてみた。
「家計、ですか?」
「そう。いつもティナが食材とか買ってきてくれるけど、お金を渡してなかったよね? どうしてるのかなって」
「その辺は全く問題ありませんので、ハルト様は気になさらなくて結構ですよ」
ティナはそう言うが、自分が毎日食べてるご飯のお金がどこから捻出されているのか気になってしまう。
「もしかして、ティナが自腹で食材とか生活の備品を買ってくれてる?」
「……まぁ、そんな感じです」
「やっぱりそうか……言ってよ、ティナ。俺もなんとか金策するから」
まだ学生の身分である俺だが魔物を狩り、その素材を売って生活費に充てるくらいなら今でもできる気がする。
今のエルノール家は大所帯になっていた。
俺、ティナ、リファ、ルナ、ヨウコ、マイ、メイ、メルディ、リュカ、セイラ、エルミア、キキョウ、シトリー、それからシロ。
十三人と一匹が一緒に暮らしているのだ。
その食費は相当なものだろう。
食費以外の日用品等にかかる費用も、かなり必要なはずだ。
「食費などは、本当に問題ないのです」
「でも、それをティナの貯金から出してるってことだろ? そんなの、申し訳ないよ」
知らなかった。
でも今、気づいてしまった。
実は俺、ティナに養われていたんだ……。
一応、彼女に許しをもらっていたとはいえ、俺は自分の希望で、ここまで家族を増やしてしまった。
その俺が増やした家族全員を養う負担を、ティナひとりに強いていたんだ。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ティナ、今まで気づかなくてゴメンな。これからは、俺もちゃんと稼ぐから」
「……あの、もしかしてハルト様が働くおつもりですか?」
「うん。俺もティナの指導のおかげでそこそこ強くなれたから、魔物を狩って素材を集めて資金にするくらいならできるかなって」
「確かにハルト様であれば竜を狩り、容易く財産を築き上げることはできてしまうでしょう」
いや、さすがに竜はダメじゃない?
竜を狩った俺を見て、白亜が複雑そうな顔をする様子が、頭に思い浮かんでしまった。
でも──
「竜って、倒したらお金持ちになれるの?」
ほんの少し、ちょっとだけ興味が湧いた。
「はい。竜の種類にもよりますが、属性竜を倒してその素材を売るだけでも、十年は遊んで暮らせます」
「おぉ!」
それは凄い。
属性竜なんて、探せば割と簡単に見つかる。
それに普通のファイアランスで倒せる魔物じゃないか。
俺は昔、とある町を支配下におき、定期的に生贄を求めていた属性竜を倒したことがある。
そいつの素材を、少し貰っておけば良かったと後悔した。
「しかし、竜を倒すのはオススメできません。なにせ今は──」
「白亜やリュカがいるからね」
「その通りです。もちろん、ヒトに危害を加えるような竜であれば彼女たちも気にしないとは思いますが」
「んー、じゃあもっと弱い魔物をいっぱい狩るよ」
炎の騎士を数体生み出して、定期的に山狩りすればお金も手に入るし、その付近も魔物がいなくなって安全になる。一石二鳥だ。
「それでも良いのですが、そもそも金策など必要ないのです。ハルト様、こちらをご覧ください」
そう言ってティナがなにか、カードのようなものを見せてくれた。
「なにこれ?」
「ギルドカードです」
「へぇ、これがそうなんだ」
名前:ティナ=ハリベル
等級:S級冒険者
職業:魔法剣士
預金:519,721,071,050 スピナ
ん?
えっ……な、なにこれ?
預金額の欄、おかしくない?
この世界では、スピナという通貨が使用されている。
硬貨は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨の七種類。
銅貨一枚が1スピナ。
大銅貨一枚、10スピナ。
銀貨は100スピナ。
大銀貨は1,000スピナ。
金貨は一万スピナ。
大金貨は十万スピナ。
そして白金貨は百万スピナだ。
この世界では、ギルドカードにお金を入れておけるらしい。通帳みたいに利用できるのだ。
貨幣は重いので、常に持ち歩くのは厳しい。
特に大金を稼ぐA級冒険者ともなれば、数千枚の金貨を持ち運ばなくてはいけなくなる。
だからほとんどのヒトが、ギルドカードにお金を入れているらしい。
ひとつ欠点があるとすると、お金を預けた同系統のギルドでなければお金を引き出せないことだ。
ギルドには、冒険者ギルド、商人ギルド、職人ギルドがある。
例えばどこかの街の冒険者ギルドに預けたお金は、他の街の冒険者ギルドでも引き出せるが、商人ギルドや職人ギルドでは引き出せないのだ。
とはいえ、ある程度の規模の街に行けば、だいたい全てのギルドがあるので、たいして不便はない。
ちなみに物価だが、俺が元いた世界と余り変わらない。レストランで食べるランチが、だいたい安いところで500から1,000スピナくらいだ。
これを踏まえて、ティナの預金額を見てみよう。
いち、じゅう、ひゃく、せん……。
えーっと、五千億スピナ?
は、はい?
白金貨で五十万枚分の預金を、ティナが所持していた。
「えっと、ティナさん。これは?」
「私のギルドカードです」
うん、それはさっき聞いた。
「最近、ギルドに顔を出していないので、名前が更新されていないんですよね。そろそろティナ=エルノールに変更して頂かなくてはいけません」
あ、あぁ、うん。
そうだね。
──って、そうじゃなくて!
「実は私、S級冒険者でもあるのです」
「うん、それもすごいね!」
それも凄い。
この世界の冒険者の最高ランクって、A級だと思ってた。
三次職じゃなければS級を名乗れないからだ。
この世界では、圧倒的に三次職のヒトが少ない。
俺の知っている限りで、三次職なのは──
魔法学園の学園長である賢者ルアーノ
俺の兄、聖騎士のカイン
賢者の俺
そして、魔法剣士のティナ
この五人だけ。
カインは最近、三次職になったらしい。
報せを聞いた時、驚いた。
ちなみに二番目の兄、レオンは三次職見習いである守護戦士見習いになれたのだとか。
俺の家族も大概おかしい。
シルバレイ家は、バケモノが輩出されやすい家系なのだろうか?
まぁ、今はそんなことどうでもいい。
三次職ってのはこの世界の最高戦力なので、冒険者などという不安定な職に就く者はいないと思っていた。
だから、ティナがS級の冒険者であったことに驚いたのだが──
でも、もっと凄いのがあるだろ!
「ティナ、この預金額……なに?」
「遥人様がいつかこの世界にお戻りになられた時、不自由なく暮らしていただけるように私が百年かけて貯めたお金です!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます