第216話 九尾狐&竜 vs 魔王

 

 遺跡のダンジョン最終層で、ヨウコと白亜が、悪魔シトリーと対峙していた。


「悪魔……悪魔じゃと? 巫山戯るでない」


「おや、巫山戯てなどいませんよ」


「お主のようなバケモノじみた魔力をもつ悪魔がおるはずがなかろう!! お主、魔王ではないのか?」


「んーとですねぇ、実はだったのですが、邪神様の加護は旦那様に消されてしまいましたので、今は本当に、ただの悪魔なのですよ」


「は?」

「ど、どういうことなの?」


「まぁ、早い話、このダンジョンのラスボスは力を失った魔王──てことです」


「……主様は、このことを知っておるのかの?」


「私が魔王であったことをですか? 多分、知らないと思います。テイムする瞬間まで、私を魔人だと思われていたようですから」


「お主、悪魔なのに魔人程度だと言われて、頭に来なかったのか?」


 このヨウコの発言を聞いてシトリーは、ふふっと笑った。


「面白いことを言いますね。かの御方を前にして、魔人だ悪魔だのというのは、どうでも良いことではありませんか。だって、邪神様の──神の加護を消すような存在なのですから」


「ふむ……まぁ、それはそうじゃな」

「一理あるの!」


 ヨウコと白亜は、シトリーの言葉に納得してしまった。



「それで、お話を聞く限り、貴女たちは旦那様のお知り合いなのですよね?」


「知り合いなどではない」

「私たちは、ハルトの奥さんなの!」


「あら、そうなのですか! それでは、これからどうぞよろしくお願いします」


 シトリーが恭しく頭を下げる。


「お主、主様のことを旦那と呼んでおるが……結婚したわけではあるまいな」


「ええ、まだです。ですが私は、旦那様にテイムされております。結婚などという不確かなものより強固な絆で、私と旦那様は結ばれているのです」


「ふむ。やはりお主、わかっておらぬな」


「ん……どういうことでしょう?」


「それは、そうじゃな。我らと戦い、お主が勝ったら教えてやるのじゃ」


「おふたりと、戦えというのですか?」


「そうなの! 貴女を倒したら、ハルトがご褒美くれるの」


「まぁ!」


 急にシトリーの表情が明るくなった。


「では逆に、おふたりを倒したら私が、旦那様から褒めていただけるということですね!?」


「そ、それはわからぬが……」


「大丈夫です。きっと旦那様は私を褒めてくださいます」


「我らに勝つ気でおるのか」

「私もヨウコも、すっごく強いの。いくら相手が魔王でも、負けないの!!」


 そう言ってふたりが人化を解き、本来の姿へと戻った。


 巨大な九尾の化け狐と真っ白な竜が、シトリーを睨みつける。


「ほぉ、九尾狐と白竜ですか。それは、自信があるのも納得です。ですが――」


 シトリーも力を解放した。


「私も元魔王。そう簡単に倒せると思わぬことです」


 邪神の加護が消え、失われた力を補おうとハルトが補充した魔力は、シトリーを元の数倍強くしていた。


「くっ! や、やはり魔王級は、とんでもない力なのじゃ」

「で、でも、負けるわけにはいかないの! ハルトのご褒美が、待ってるの!」

「わかっておる。いくぞ、白亜!」

「はいなの‼」


 この世界の頂点に座す者たちの戦いが、今幕をあけた。

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