第215話 賢者の使役魔法

 

 強そうなオーガと戦うことになったんだけど──


 精霊界から覇国を召喚したら、急にそのオーガが負けを認めるって言ってきた。


 彼曰く『その剣を持つ貴方様に、俺は絶対に勝てません』だと。


 やってみなきゃわからないんじゃないかな?


 あー、あれかな?


 真の実力者は、相手の力を見抜く力にも優れてるってやつ。


 多分、彼はギリギリ俺に負ける未来を予測して、それで潔く負けを認めてくれたんだ。


 まぁ、戦闘せずに仲間になってくれるなら、それに越したことはない。



 テイムしてもいいらしいので、魔法陣を展開して彼をテイムした。


 ちなみにテイム使役魔法は、レベル1から使える。


 しかしレベル1の使役魔法は、成功率がとても低いのだ。スライムにすらレジストされる可能性がある。


 だからいつものように使役魔法の仕組みを細分化して、最下級魔法の組み合わせと、魔力で形作った文字の魔法陣を併用して、魔法を再現したのだ。


 本物のテイムには、配下の魔物を強化する術式も組み込まれている。


 もちろん俺は、それも再現した。


 俺に対して頭を下げるオーガの頭に触れ、使役魔法を発動させると同時に、配下となった彼の強化も行う。


 オーガってたしか、A級の魔物だよね?

 しかもコイツ、強そうだし。


 だったら百万くらい魔力込めても多分、耐えるよね?


 そう思って、強化の術式に魔力をじゃんじゃんつぎ込んだ。


 思いのほか、多く入った。

 五百万くらい魔力を注ぎ込めてしまった。


 そしたら──



 屈強だった彼の肉体が、なぜかしぼんでしまった。


 えっ!?


 も、もしかして……強化、失敗した?


 こんなことは初めてだった。


 ダンジョンのフロアに魔物を配置するため、各地で魔物をテイムしてはそれを強化していたのだが、ほとんどの魔物がテイムする前より強くなるような変化を遂げたのだ。


 なのに彼だけは、筋骨隆々だったいかにもオーガらしい肉体から、まるで人族のようなスッキリとした姿になってしまった。


 唯一、人族と見た目が違うのは額に生えた二本の角だけ。


「こ、これは──」


 オーガが立ち上がる。


 身長はリューシンより少し高いくらいだろうか?


 顔は完全に人族のそれだった。

 かなりイケメンな部類にはいると思う。


 あ、これってもしかして……したってこと?


 魔物であるオーガは、鬼人族という魔族に進化できるということを、かつて本で読んだ気がする。


 鬼人族は魔族の中でも、九尾狐に次ぐ力を持つ種族だ。



主殿あるじどの!」


 立ち上がって自分の身体をチェックしていた元オーガが、俺の前に膝をつく。


 どうやら俺を主人として、正式に認めてくれるらしい。


「進化できたの?」


「はい。主殿の膨大なお力が流れ込んできて俺は、となりました。新たに得たこの力、今後は全て主殿のために捧げます」


「おめでとう。えーっと……あっ、名前がまだないのか。俺が付けてもいいんだよね?」


「主殿に名を頂けるのであれば、喜んで」


「んー、じゃあ、オルガ、とかどう?」


「ありがとうございます。このオルガ、命尽きるまで主殿に忠誠を誓います」


「うん、よろしくね」


 できれば元の姿の方がフロアボスらしくて、嬉しかったんだけど……。


 でも、ダンジョンのボスに鬼人族がいたら、それはそれで箔がつくよね?


 俺は予定通り、彼に遺跡のダンジョンの十八層目のボスを任せることにした。



「さて、お次は──」

「っ!?」


 座り込んで大人しくしていた女性に近寄る。


 彼女は俺がオルガをテイムする様子を、呆然と眺めていた。


 俺が彼女に視線を向けると、その表情に恐怖の色が浮かんだ。


 大丈夫。安心して。

 痛いことは、しないから。


 なにしろ、俺のダンジョンのラスボスを任せるに相応しい力を持っていそうな子を見つけたのだから。


 逃がしはしない。



「本体さん。その子、強いよ」

「うんうん。魔人クラスだと思う」

「テイムするの、無理じゃね?」


 分身たちが心配してくれた。


 でも、大丈夫。

 俺には、最近覚えたがある。


「まぁ、見てて」


 右手に、魔力で神様たちが使う文字──神字を形成した。


 俺はこれまで、神字を使った魔法としては神界への転移魔法しか使えなかった。


 古代ルーン文字も読める俺だが、神字だけはどうしても読むことができなかったからだ。


 神界への転移魔法は、創造神様が使うのを見ていたから再現できただけ。


 文字を理解できなければ、魔法を作れない。



 そんな俺に、心強い味方がいた。


 俺の妻のひとり、ルナだ。


 ルナは俺と同じ世界からやってきた転生者で、どんな文字でも読むことができるというチートスキルを持っていた。


 俺はルナと、神字の研究をした。


 そして、これを修得したのだ。


「テイム!」


 それは、オルガをテイムした時とは比べ物にならないほど莫大な魔力をつぎ込んだ使役魔法だった。


 数百に及ぶ全ての文字を、神字で書いた魔法陣。


 これなら、いくら魔人とはいえテイムできるはずだ。



「──うぅっ!」


 女の魔人が、苦しそうだった。


 おかしいな……。

 なにか、テイムに抵抗する力を感じる。


 それは彼女のものではない、別のなにかの力だった。


 彼女の身体の奥底に眠る力に意識を向ける。


 魔人だから邪神の気配がして当然と思っていたのだが、彼女の中には邪神の力の塊があった。


 それが、俺の魔法の邪魔をしていた。


 邪魔だったので──



「ホーリーランス!」


 その力の塊を消滅させた。


 テイムに抵抗する力が弱まり、無事に女魔人をテイムできた。


 邪神の力の塊がなくなってしまった分、彼女の力が弱まっている。


 なので、オルガと同じように、配下を強化する術式で彼女を強化する。


 なんとオルガに与えた十倍近い魔力を飲み込んでしまった。


 さすがは魔人だ。


 いや、かなり強化されたはずだから、もしかしたら悪魔くらいの力はあるかもしれない。


 そんな彼女が、俺の前に膝をついた。



「私は、シトリー。旦那様に忠誠を誓います」

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