第165話 破魔の剣
悪魔の持つ剣がセイラに突き刺さる寸前、ギリギリで彼女を助けることができた。
炎の騎士がいればなんとかなると思っていたが、俺が彼女のもとに転移しようと準備していたら騎士が倒されたことを感じ取ったので、慌てて転移してきたのだ。
まさか悪魔が来ていたとは……
さすがに敵が悪魔では、炎の騎士一体だと無理がある。悪魔を相手に時間稼ぎするなら、複数の属性の騎士を数体ずつ用意しておく必要があるだろう。
今、俺がいるここは聖都内部──創造神様が祀られている大神殿だった。
聖都には強力な聖結界が張られている。
魔人がその結界内部に強引に入ると、消滅してしまうほどのものだ。
悪魔がそれをものともせず、ここにいることに驚いた。また、聖都の結界より強力な結界によって護られているはずの聖女に、悪魔が直接手を触れていて背筋が寒くなった。
この悪魔は、セイラを殺す力があったのだ。
本当に、間に合って良かった。
また、悪魔が彼女を刺そうとしていた禍々しい黒剣──これも、なんだか嫌な感じがする。
なるべく早く破壊すべきだと、俺の直感が告げていた。
まずは、セイラの首を締めていた悪魔の腕を外そうとするが……全く外れない。
悪魔本体から切り離したとはいえ、上位の悪魔とみられる奴の腕なので、それ自体が呪いのようにセイラに張り付いて離れなかった。
そこで聖属性魔法で消滅させることにした。
どうやらこの腕の主だった悪魔は、聖属性にかなりの耐性があるようだ。
なかなか腕が消えなかった。
しかし、耐性があるとはいえ悪魔は悪魔だ。
聖属性魔法が弱点であることに間違いはない。
一昨日、セイラを襲っていた魔人を消滅させた時の数十倍の魔力を放出する。
超高密度に圧縮したそれを、魔衣として右手に纏い、彼女の首を絞める悪魔の腕を握り潰した。
それで悪魔の腕は消滅した。
呼吸ができるようになったセイラが咳き込む。
「大丈夫?」
「は、はい。ありがとうございます」
セイラにヒールをかけながらゆっくり床に降ろして、俺は悪魔に覇国を向ける。
敵は悪魔だ。
油断はできない。
悪魔は、俺が斬り落とした左腕の再生に苦戦していた。
腕の切断面から触手のようなものが伸びて、腕の形を成そうとするが全く安定していない。
「ぐっ──き、貴様っ! いったいどうやってここに現れた!? それに、その破魔の剣……覇国をなぜ賢者の貴様が持っているのだ!?」
えっ、覇国って、破魔の剣なの?
破魔の剣とは、邪神に連なる者──悪魔や魔人、魔族、魔物に対して強力な追加ダメージが発生する武器のことを言う。
その効果は武器自体に依存するものなので、ステータスが〘固定〙されている俺が使用しても十分な威力を発揮する。
実際に、魔人以上の再生能力を持つはずの悪魔が、腕一本の再生にすら手こずっているのを見ると、効果は本物のようだ。
へぇ……いいことを知った。
今後、魔人や悪魔と闘う時は積極的に覇国を使用していこう。
──ん? そういえばコイツ、なんで俺が賢者だと分かったんだ?
「俺、お前に会ったことあるっけ? なんで俺が賢者だって知ってるの?」
「質問しているのは私だァァ!」
おや、怒られてしまった。
「ハルト様、イフェル公爵が悪魔だったのです……聖都を統治していたのは、悪魔でした」
「そ、そうなの!?」
なんとなく、イフェル公爵が怪しいかなって思ってたけど……まさか悪魔そのものだったとは。
魔人や悪魔から指示を受けて、聖都で暗躍している──程度にしか考えていなかった。
「こ、この悪魔に、数千年も聖都を護ってきたクリスタルを、壊されてしまいました」
セイラの目から涙が零れ落ちる。
大神殿の中央に目を向けると、聖結界を発生させるための巨大クリスタルに大きなヒビが入っていた。
「ふはは、その通りだ。まもなくこの聖都に十の魔人、そして千を超える魔物が押し寄せる。ここは、地獄と化すのだ!」
腕の再生を終えて、余裕を取り戻した悪魔が話しかけてきた。
十体の魔人と、千くらいの魔物──
まぁ、そのくらいならなんとかなる。
問題は壊されちゃったクリスタルの方だな。
これを直すには
そんなことを考えていると──
「くくくっ、さすがの賢者と言えど怖気付いたか? 貴様は私の、悪魔のモノを壊したのだ。その償いは、百年かけてしてもらうぞ! 貴様だけではない。貴様と一緒にこの聖都に来ていたあの女たちにも、死んだ方がマシだと思えるほどの苦痛を与え続けてやる!!」
えっと……コイツは何を言ってるんだ?
俺が、何か壊したのか?
よく状況が理解できない。
俺の魔法である騎士シリーズは敵に倒されると、倒されるまでに使用しなかった魔力を俺に戻そうとする。
その魔力が戻ってくることで、俺は騎士たちが経験したことを追体験できるという機能があるのだが──
んー、よくわかんないけど、別にいいか。
少なくともコイツが、俺の家族に手を出そうとする意思があることは分かった。
つまりコイツは、排除すべき敵だ。
俺の敵だ。
余裕こいてる悪魔のそばに転移して、治ったばかりの左腕を、覇国でもう一度斬り落とした。
「──ぐぅっ!?」
悪魔が痛みに顔を歪めながらも右手で攻撃してきたので、すぐにセイラのもとまで帰る。
「て、転移だと!? き、貴様、まさか勇者なのか!?」
「俺は──」
賢者だ。
そう言おうとしたけど、俺の後ろにセイラがいたので少し言葉を変えることにした。
彼女にも、
その方が、クリスタルを破壊されて絶望している彼女を、元気付けることができるはずだ。
「俺は、異世界から来た勇者だ」
「──えっ!?」
セイラが驚いた表情を見せる。
まぁ、そのくらいの嘘はいいだろう?
人々を守る勇気がある者。
人々に希望を与える者。
それが勇者だ。
俺がセイラを守る。
セイラに希望を見せてやる。
百年も前に言った言葉だけど、覚えてるかな?
セイラが覚えてくれてるといいな。
百年前、魔物に襲われていた彼女を助けた時の言葉をなぞる。
俺の背後にいる彼女へ──
「君を、
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