第162話 助けを求める声
「──っ」
あ、頭が痛い。
……あれ? なんで私、床で寝てるんですか?
えっ、身体が、動かない!?
自分の身体を見たら手足が縛られていました。
「な、なんで!?」
「やっと起きたか」
「──!?」
後ろから声をかけられて驚きました。
私の後ろにいたのは──
「イフェル公爵? こ、これはどういうことですか!?」
この聖都の統治者であるイフェル公爵が、後ろに手を組みながら歩いてきました。
「おぉ、この姿では状況が分からんよな?」
そう言った途端、イフェル公爵の姿が変化しました。
それはまるで、この世の悪意を集めて無理やりヒトの形に詰め込んだかのような姿でした。
私はこの存在を知っています。
「……悪魔」
「さすが聖女だな。私は邪神様配下の悪魔が一柱、序列十一位のグシオンだ」
さ、最悪です。
この世に悪魔は無数にいますが、その中でも七十七柱の邪神直下の悪魔たちは強大な力を持ち、数多くの魔人を従えるのです。
序列十一位と言えばかなり高位の悪魔です。
そんな悪魔が、なんで私の前に……
「──えっ、イ、イーシャ!?」
悪魔の後ろの壁に大きな十字架が設置されていて、そこに聖女を引き継ぐ予定の聖女候補、イーシャが
イーシャが磔にされている十字架は、私が見たことのあるものでした。毎日見ているので見間違えるはずがありません。
そう、大神殿にある十字架です。
ここは、大神殿でした。
窓から陽の光が見えないので夜なのでしょう。
創造神様のお膝元である大神殿に、悪魔がいるなど信じられませんでした。
でも、そんなことより今は──
「イーシャに何をしたの!?」
彼女のことが心配でした。
見たところ怪我はしていないようですが……
「さっきまでのお前と同じく、眠っているだけだ。まぁ、すぐに聖魔力を補充するための生贄になってもらうがな」
「私が聖女になるために、犠牲になってもらうんですよ」
「ロベリア! ま、まさか貴女も!?」
大神殿の奥、闇の中からイーシャと同期のロベリアが現れました。ロベリアはイフェル公爵の娘です。
その彼女がここにいるのです。
磔にされている同期のイーシャを見て、彼女は笑っていました。
つまり、ロベリアも悪魔の仲間。
そして、イフェル公爵の身体を悪魔が乗っ取っているのではなく、悪魔がイフェル公爵だったんです。
「そろそろ日が変わる。お前を聖女にするための儀式を始めようか」
「はい、お父様」
ロベリアが聖槍を手に、イーシャに近づいていきました。
「ま、まって! 彼女に手を出さないで! 生贄には私が──」
「それは無理な相談だ。お前には私の娘の洗礼をしてもらわなくてはならんからな」
悪魔が私に近づいてきました。
私の頭に、その手が──
「よし、お前を護る結界も消えたようだな」
悪魔の手が私に触れました。
聖女である私に、悪魔や魔人が触れることなんてできないはずなのに。
いつの間にか右手首に付けられたブレスレットから、ひび割れのような黒い模様が伸びて、私の身体を侵食していました。
多分、これのせいです。
「洗礼ができる程度の力だけを残して、それ以外の聖女の力は消滅させておいたぞ」
ご丁寧に悪魔が教えてくれました。
私の絶望する顔が見たいのでしょう。
絶望するしかないじゃないですか。
聖女の力がなければ、なにもできません。
私は、無力です。
悔しくて、悔しくて悔しくて涙が出ます。
私の
「二百年ご苦労だった。お前の最後の仕事は、悪魔の娘を洗礼して聖女にすることだ」
「いくら脅されようと、そんなことは絶対にしません!!」
「あぁ、気にするな。お前にこうして触れられるのだ。聖女の力が弱まっているお前なぞ、容易に洗脳できる」
「そ、そんな」
もう、どうしようもなさそうです。
「……創造神様」
「ふはははは。無駄だ! いくらここが創造神の神殿とはいえ、神が直接私たちに干渉することはできないのだからな!!」
私の最後の希望を折るように、悪魔が話しかけてきます。認めたくはないですが、それは正しいと思います。
私は創造神様から神託を頂いたことしかありません。目の前に顕現していただいたことなんて、一度もなかったのです。
でも、それでも私、二百年も創造神様に祈りを捧げてきたんですよ?
もっと普通の女の子みたいに遊んだりしたかった。美味しいものを食べて、綺麗な風景を見て、男の人と仲良くなったりしたかった。
そういうのを全部我慢してきたんです。
聖女ですから。
男性と関係を持つことだって我慢しました。
本当なら
あの御方と添い遂げたかった。
最後に、ちょっとでいいから奇跡を起こしてください。
私はどうなってもいいですから。
せめてイーシャだけでも
「最後の言葉は『創造神』──か。聖女らしくていいじゃないか。じゃあな」
魔人の手から私の頭に何かが入ってきます。
私が、私じゃなくなって──
「──ぐはぁっ!!」
私はまだ、セイラでした。
私の頭に手を触れていた悪魔グシオンが何者かに吹き飛ばされたのです。
悪魔を吹き飛ばしたそれは、騎士でした。
私の守護者である聖騎士ではありません。
絶対に違います。
だってその騎士は、
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