第七章 聖都と聖女と創造神

第144話 家族旅行の提案

 

「旅行に行こう!」


 ベスティエからイフルス魔法学園に帰ってきて二ヶ月が経過し、明日から五月に入る。


 イフルス魔法学園では、五月初めに十日間のお休みがあるのだ。この休みを利用して、多くの学生や教師が実家に帰る。


 その連休中に行きたいところがあったので、最後の授業が終わった日の夕食時、俺はみんなに旅行の提案をした。


「旅行ですか? 私は構いませんよ」

「我は主様が行くならどこでもついていくのじゃ」

「「同じくです」」


 ティナ、ヨウコ、マイ、メイはすぐに賛同してくれた。ティナの生家は既になく、ヨウコも家族はいないから帰る実家はないという。


 マイとメイはたまに星霊王に呼ばれて精霊界に戻るので、連休中に帰る必要はないらしい。


「ウチもついてくにゃ!」

「私も行きたいです」


 二ヶ月前に学園の行事として、俺たちのクラスはベスティエ獣人の王国に一ヶ月ほど滞在していたため、メルディは今回の休みで国に帰らない。


 そもそも、俺が転移魔法を使わなければ、メルディは十日でベスティエまで行って帰ってくることは不可能だ。


 頼まれればいつでも転移させてあげるけどな。


 ルナは昨年の連休には孤児院に顔を出しに行ったが、今年は俺についてきてくれるみたいだ。


「リファは?」

「私ももちろんついていきますよ。ただ、ハルトさんに少しお願いが──」


 エルフ王が『顔を出せ』と手紙を送ってきているみたいなので、連休最後の二日くらいでアルヘイムエルフの王国に行くことになった。


 俺が希望する旅行プランでは、一週間あればやりたいことができるので問題はない。



「白亜もいいよな?」

「もちろん! 旅行、楽しみなの!!」


 魔法学園に帰ってくる時、ベスティエにあった遺跡のダンジョン──そこの管理者である白亜が俺たちについてきた。


 白亜は白竜という種のドラゴンなのだが、普段は人化して、白髪の可愛らしい少女の姿になっている。


 白亜は人語に慣れておらず、出会った当初は片言だったが、元々学習能力が高く、さらにティナたちが丁寧に言葉を教えてくれたおかげで、流暢に話せるようになった。


 ちなみに、ダンジョンの管理者である白亜が、ダンジョンに居なくてもいいのか?


 ──そう思ったが、魔王がまだ復活しておらず、当面勇者が来ることはないので、いいらしい。


 そもそも、俺がほとんどの魔物を狩り尽くしてしまったから、ダンジョン内で魔物が自然発生するまでの間、白亜はやることがなく暇なのだとか。


 そして、俺の行きたい場所、連休中にやりたいことには白亜が関係している。だから、白亜が俺に同行することは決定事項だった。



「旅行の行先は、聖都サンクタムだ」


「聖都じゃと……どこでもついていくとは言ったが、なぜそこへ行きたいのじゃ?」


 ヨウコがちょっと嫌そうな顔をする。彼女は九尾狐という魔族なので、邪を祓う強力な神聖属性の結界が張られている聖都には行きたくない──というか、本来なら行けるはずがない場所なのだ。


「聖都には創造神様を祀る神殿があるんだ。俺はそこに行きたい。それからヨウコや白亜も聖都に入れるようにするから、心配しなくていいよ」


 ヨウコについてくる気があるのなら、俺はヨウコたちの周りにを張るつもりでいた。



 聖都にはとある実験のために訪れたことがある。聖都の結界が、邪神に連なる者にどの程度効果があるのか知りたかったのだ。


 昔、俺に襲いかかってきた魔人を捕まえて、聖都まで連れていった。


 捕まえた魔人に聖都の結界を触らせたら、その結界に触れた魔人の手が弾かれた。魔人の侵入を拒めるほど強力な結界だった。


 Bランク以下の魔物であれば、触れた瞬間に消滅してしまうだろう。


 ついでに、どうやったらその聖都の結果を無効化できるのか色々試してみた結果──


 俺は反聖結界を習得した。


 外層に聖属性の魔力をコーティングして、中間層は無属性の魔力。内側に闇属性の魔力を充填させたら、魔人すら聖都に入れることが可能な反聖結界の完成だ。


 結界に反発するんじゃなくて、同じ聖属性の魔力で親和させて、結界に異物ではないと誤認識させているのだ。


 相反する聖属性の魔力と、闇属性の魔力が干渉しないように、中間層に無属性の魔力を入れるのもポイントかな。


 俺はそれ反聖結界で魔人を覆って、聖都の結界の内側に入れ、そこで反聖結界を解除した。


 その瞬間、魔人は消滅した。


 外から結界に触れるより、結界の中の方が聖なる力が強力だったのだ。


 この実験で分かったことはふたつ。


 聖都の結界は魔人をも消滅させる力があること。そして、俺の反聖結界はその聖都の結界を無効化できるということ。


 だから、魔族のヨウコや、魔物の白亜を聖都に連れていける。


 まぁ、俺が反聖結界を張らなくても、完全体の九尾狐となったヨウコや、上位の竜種である白亜なら聖都の結界に耐えられると思う。


 ただ、ふたりが強引に聖都に入ると、確実に問題になる。下手をしたら聖都の結界を破壊してしまう可能性があった。


 そうすると、にかなり迷惑を掛けてしまうかもしれない。


 というわけで、ふたりには窮屈かもしれないが、聖都にいる間は俺の反聖結界を常に身に纏ってもらうことにした。


「あのサンクタムに、魔族であるヨウコさんを入れられちゃうんですか……」


 ルナは聖都に行ったことがあり、その結界の強さを知っていた。だから、魔族であるヨウコが中に入れると知って驚いてくれた。


「ルナさん、今更ですよ。だって、ハルトさんですから」


 リファはだいぶ俺のすることに慣れてきたようで、最近はなかなか驚いてくれない。


 反聖結界を覚えるのに、かなり試行錯誤したので、もう少しリアクションが欲しいと思ってしまう。


 んー、何かインパクトのあることをしなくちゃ。


「聖都といえば……に会いに行かれるのですか?」


 ティナは、俺と聖都に行ったことがあった。

 そこで俺たちはアイツと知り合った。


「今回は違うよ。アレも色々忙しいと思うから、別に会わなくてもいいかな」


「そうですか……では、聖都に行く目的は?」


 俺が聖都に行きたい理由、それは──



「創造神様にご挨拶と、ちょっとご相談」

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