第127話 白竜の災難
私の名前は
白竜という種の、ドラゴンなの。
私、すっごく強いんだよ。ちなみにダンジョンの中だとドラゴンの姿は動きにくいから、普段はヒトの姿をしてるんだ。
でね、私は創造神様っていうこの世界で一番偉い神様の命令で、このダンジョンを管理しているの。
元々は赤竜のおじちゃんがここの管理者──ダンジョンマスターをしてたんだけど、百年くらい前に勇者がやって来て、倒されちゃった。
勇者に倒されるのも赤竜おじちゃんのお仕事だったみたい。勇者を強くするのがこのダンジョンの存在意義だから。
もちろん、おじちゃんはわざと負けたわけじゃないよ。全力で勇者と戦って、それでも負けた。勇者は強かったって言ってた。
ちなみにおじちゃんは倒されちゃったけど、創造神様に生き返らせてもらって、今は創造神様にお仕えしてるよ。創造神様に直接お仕えするのって、私たち竜族にとってはすっごく名誉なことなの。
──で、このダンジョンから管理者がいなくなっちゃったから、次の管理者として創造神様に選ばれて私がやってきたの。
管理者っていっても、あんまりお仕事はないんだけどね。ダンジョンのマナから自然発生した魔物たちを各層に配置したり、手下の魔物に命令して宝箱の中にアイテムを入れたり……。
あ、たまにダンジョンの外に出ていって、強そうな魔物や魔獣を拉致──じゃなくてスカウトして、各層のボスとして配置したりするのもお仕事だよ。
次の勇者がいつ来てもいいように準備してたの。でも、普通の冒険者とかはこのダンジョンに入れないみたいで、すっごく暇なんだ。
魔物は倒されないと一定数以上に増えないようになってるの。でも魔物を倒すヒトがいないから、魔物が新たに生み出されることもない。
そうすると魔物を配置するお仕事も全くする必要がないの。もちろん宝箱の中身も減らないから、ずーっとそのまま。
ちなみに宝箱って、中身の劣化を防いでくれる魔法がかかってて、新品を入れると勇者が中身をゲットする時まで新品の状態を維持できるの。凄いでしょ!?
まぁ、創造神様のお力のおかげなんだけどね。
そんな感じでずっと暇だったの。
今日までは──
今日、久しぶりにこのダンジョンにヒトが入ってきた気配を感じたの。ちょっとテンションが上がったわ。だって私の初仕事だもの。
最終層まで来てくれるかな?
ここまで来てくれたらドラゴンの姿になって『グハハハ、よく来た勇者よ。さぁ、我を倒しこのダンジョンを制覇してみせよ』──ってセリフを言うのが夢なの。
正直、私は赤竜のおじちゃんよりかなり強いの。竜族の中でも神童って呼ばれてたから。
ただ、おじちゃんは創造神様に生き返らせてもらった時に、存在の格が上がって神竜になっちゃったから、たぶん今は勝てないけど。
それでも、ダンジョンマスターだった頃のおじちゃんより格段に強い私が、ヒトに負けるなんてありえないわ。
このダンジョンに入れたってことは、少なくとも
さぁ、お手並み拝見といきましょうか。
──***──
…………。
ま、まって!
待って待って待って!!
一層目のゴブリンファイターが、瞬殺されたの。まぁ、その程度なら驚きもしなかったわ。
問題は、彼らが二層目から五層目までほとんど脇道に逸れず真っ直ぐボス部屋に向かって、全てのボスたちを瞬殺しちゃったことなの!
それも、ボス部屋に一歩も足を踏み入れることもせずに──
な、なんなの!?
五層目のボスって、ウォーウルフたちだよ?
あいつら、すっごく動きが速いんだよ?
数十匹が完璧な連携で攻めてくるんだよ?
ウォーウルフをボスとしてこのダンジョンに連れてくる時に私も戦ったけど、結構苦労したのに……。
それを今、このダンジョン攻略中の彼らは、たった数発の魔法で全滅させたの。
ありえないよ。
なんなの、あの攻撃速度……。
不安になった私は今、このダンジョンのマスタールームにある端末を操作してる。この端末は、ダンジョン内にいる魔物やヒトの情報をチェックできるの。ダンジョンマスターしか使えないんだよ。
その端末で、チェックした結果──
レ、レベル250!?
えっ、ティナってもしかして──
や、やっぱり百年前にこのダンジョンを踏破したハーフエルフじゃん!
それが、なんでまた来てるの!?
かつてこのダンジョンをクリアした、ティナというハーフエルフが再びやってきていたことにも驚いけど、それだけじゃなかった。
ど、どうなってるの?
ティナ以外にレベル100オーバーが三人も……。
賢者見習いの人族とドラゴノイド、それからあの女の人は──
九尾狐!?
な、なんで災厄がヒトと一緒にこのダンジョンに来てるの?
意味がわかんないよぉ。
そんな中──
あれ? このハルトってヒト……レベル1だ。
人族のひとりにレベル1の男の人がいた。
レベル1だとこのダンジョンで戦うの、厳しいと思うんだけど……周りのヒトがパーティー組んでくれないのかな?
そんなことを考えているうちに、彼らは六層目のボス部屋まで辿り着いていた。
あっ、攻撃してる!
レベル1のハルトが、ティナたちと一緒に六層目のボスのマホノームとキレヌーという魔物に攻撃してた。けど──
あぁ、ほらやっぱりティナの攻撃だけ当たったみたい。ハルトのレベルは上がってないし。
てか、レベル1の魔法攻撃力じゃマホノームにダメージなんて与えられないから、絶対に経験値もらえないよ……なんか、かわいそう。
異常な戦力の集団が攻めてきてて、怖かったけど、ハルトの存在で私は気が楽になった。ハルトはレベル1だけど、レベル250のティナたちと一緒に、一生懸命に魔法を放ってた。そのハルトが頑張る姿に、ちょっと癒されてたの。
この調子だと今日中に最終層まで来ちゃうよね? そうすると、私はティナと全力で戦うことになるけど……できればハルトは巻き込みたくないなぁ。
戦いの余波だけでもレベル1のハルトは死んでしまう恐れがあるの。そして、レベルが全く上がらないってことはパーティーを組んでもらえてないんだろうね。
そうなると、怪我しても仲間から回復してもらえない可能性があるよね?
だから……戦闘が始まる前に、ハルトを逃がそうと思うの。
それから逃がす時に、ちゃんと適正レベルの魔物を倒してレベルをあげるようにアドバイスしてあげなきゃ。
強いヒトについていけば強くなれるなんて、勘違いしちゃダメ! ちゃんと自分の身は自分で守れるくらい努力して強くなるんだよ──って!
──***──
そんなバカなことを考えてた自分を殴りたい。
ハルトは──いえ、ハルト様はすごくお強いお方だったの。
とんでもないお方なの。
正直、ティナよりバケモノだと思うの。
ていうか、ティナ=エルノールとハルト=エルノールって、ふたりは結婚してるんじゃないかな?
レベル1のただの人族が、レベル250のハーフエルフと結婚できるわけないよね?
うん、ハルト様はただの人族じゃなかったの。
正真正銘、バケモノ。
だって、私が全力で戦っても勝てるか微妙なレベルの魔法の騎士を、百体も作り出したんだから。
ありえないよね?
百体どころか三体いたら私、負けちゃうよ?
その百体の騎士が、八層目を蹂躙したの。
ものの数分で、八層目の魔物は全滅したわ。
そして、その騎士たちが、八層目のボス部屋の前で隊列を組んだの。
その様子をマスタールームの端末で見ていたら、八層目のボスのオーガから連絡が入ったの。
『助けてくれ』──って。
創造神様のお力で、このダンジョン各層のボスは倒されても復活できるの。でもそれは、『まだ生きたい』という意思があればの話。
倒されて、それまでの生に満足したり、その後の生に絶望したりすると、ボスといえど復活できないの。
オーガはあの騎士百体に攻められたら、簡単に生を諦めちゃうだろうって言ってた。
……仕方ないよね。
多分、私だって
だから私は、ハルト様に降伏することにしたの。
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