第126話 ダンジョン主の降伏

 

 八層目ボス部屋の前までやってきた。


 そこには、この層の魔物を狩り尽くした俺の魔法の騎士たちがボス部屋の扉の前を開けるように、左右に並んで隊列を組み、待機していた。


 俺たちから見て右側に氷の騎士がおよそ五十体、左に風の騎士およそ五十体が並んでいる。なかなか壮観だった。


「お疲れ様、ありがと」


 俺は騎士たちを労った。


 俺の魔法なのだが、ほぼオートで動くコイツらがただの魔法に思えず、いつもこうして声をかけていた。なんとなくだが、声をかけると喜んでくれてる気もする。


 そして同じように作っているつもりなのだが、コイツらには個体差があった。攻撃が強いもの、速いもの、守りが得意なもの、あまり攻撃に参加しないもの──等々。


 意図してやってるわけではない。昔は個体差なんてなかったが、いつからか個性を持つ騎士が現れるようになっていた。


 例えば、隊列を組む氷の騎士たちの一番手前にいるコイツ──鎧の兜部分が一部破損しているこの騎士は、氷の騎士を作り出すと何故か必ず現れる。


 俺が魔法を発動させた時は兜が破損した個体などいないはずなのに、俺の命令をこなして帰ってくると兜が破損したコイツがいる。騎士たちより圧倒的格下の敵と戦った時でも兜が壊れて帰ってくる。


 そして、コイツは絶対に隊列の一番手前に並ぶのだ。まるで自分に気付いてくれと言わんばかりに……。


 さすがに気になって、俺は氷の騎士たちを尾行したことがある。尾行しやすいように敵は一体に絞り、四体だけ氷の騎士を作り出した。



 その時、俺は見てしまった。


 四体のうち一体が、俺が魔法を発動させた位置から離れたところで、兜を自分で殴って壊していたのだ。


 そんなこと、俺は命令していない。


 俺が命令していないことを勝手に行う個体が現れていた。俺は少し不安になった。


 命令に従い、敵味方などの判断をある程度やってくれる分には問題ない。


 しかし、全く命令していないことをやり始める──自律行動をしはじめると、いつか暴走するのではないかと考えてしまう。


 でも、俺にとってこの騎士シリーズは最もお手軽かつ、自由の効く魔法だ。だから使用することをやめなかった。


 その代わり、俺は各属性の騎士が暴走してもすぐに対処できるような魔法──暴走したのが炎の騎士であれば、その炎を消す真空空間を作り出す魔法など──を編み出した。


 そして、特に個性を持つ騎士たちを注視するようになった。


 割と危険視していたのだが、俺の心配をよそにコイツらが反旗を翻すことはなかった。逆に、個性を持つ騎士たちの方が柔軟に俺の命令に対応し、俺が声をかけると喜んだ素振りを見せることがあった。


 俺は確信した。個性をアピールしてくる騎士には明確な意思があると──


 だから俺はコイツには命令ではなく、普通に声をかける。


「宝箱はあった?」


 俺の質問を受け、兜の破損した氷の騎士が仲間の騎士に合図を出した。すると、複数の氷の騎士が隊列の後ろの方から色んなアイテムを持って現れ、俺たちの前に置いていく。


「この騎士たち、アイテムも回収してくれるのか?」


「……有能過ぎません?」


 リューシンとリュカが驚いていた。その様子を見て、兜が破損した氷の騎士が誇らしげだった。なんだか最近、表現力も上がっている。


「なかなか便利でしょ」

「便利という範疇を超えている魔法だと思うのですが……」


 ティナがなんだか複雑そうな顔をしていた。


「主様だから仕方ないのじゃ」

「「ハルト様の魔法ですから」」


 ヨウコやマイ、メイは慣れてきてしまったようだ。なので彼女たちを驚かせるために、もっと凄い魔法を考えなきゃなって最近思うようになった。


「とりあえず、この層のアイテムはダンジョンを出た後で分配しようか」


「いいのか? ボス部屋以外でゲットしたアイテムは、手に入れた奴のものって決めたよな」


 ルークは俺の魔法が集めたアイテムなのだから、俺に所有権があると言ってくれた。


「ルークだって、やろうと思えばこの層をひとりで攻略できるだろ? そうしたら、アイテムは全部ルークのものになったかもしれない。でも今回は、ルナとリュカの経験値のために俺にやらせてくれたんだから、アイテムはみんなで分けるべきだと思う」


「そ、そうかな? ……ま、まぁ、ありがと」


 この八層目で得られたのは回復系アイテムなどが多く、装備や武器はほとんどなかった。


 俺は回復アイテムなど必要ない。


 ティナたち俺の家族はそうしたアイテムを必要とするけど、クラスの大半が俺の家族なので、みんなで分配すれば十分だと考えていた。



 俺はベスティエ獣人の国王城の、俺たちが泊まらせてもらっている部屋に転移魔法で空間を繋ぎ、そこに騎士たちが集めてきてくれたアイテムを置いていった。


 この世界にはいくらでも物が入る魔法のアイテムバッグがあるのだが、俺はまだゲットしていなかったし、クラスメイトの誰も持っていなかったので応急対応だ。


 早くアイテムバッグを手に入れたいと思う。


「伝説の転移魔法が、アイテムバッグ代わりに使われる日がくるなんて……」


 リファがそう呟いていた。


 ちなみに俺の転移魔法は、手が通るくらいの小さい空間を繋げるだけで三千くらいの魔力を消費する。


 アイテムバッグ代わりに使えるほどお手軽かと言われればそうではない。魔力の減らない俺だからこそできる使い方だった。


 アイテムを送るわけだから転移じゃなくて転送かな? 俺は全てのアイテムを転送し終えた。



「よし、じゃあボスに挑戦しようか!」


 俺がそう言ってみんなとボス部屋に向かおうとした時──



「えっ」


 突然ボス部屋の扉が少し開いた。


 本来、ボス部屋の扉はヒトが触れると開くようになっている。それが誰も触れていないのに、勝手に開いたのだ。


 少し警戒して、みんなを制止し、様子を窺う。


 すると扉の隙間から、先端に白い布のついた棒が出てきて上下に振られた。



「こ、降参スルノ、攻撃、しないデ」


 ボス部屋から真っ白な髪の少女が白旗を振りながら出てきた。


 攻撃の意思はないようだ。


 戦闘態勢をとっていた騎士たちを一旦下げさせる。白髪の少女が騎士を見て、酷く怯えていたからだ。


「君は、この部屋を守るボスなの?」


 ボス部屋から出てきたのだからそうだろう。少し片言だったが人語を話せていたので、かなり高位の魔物か魔獣が人化したものだと思われる。



「違ウ、私、ココの管理者なノ」


 八層目のボスかと思ったら、彼女はこのダンジョンの主だった。

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