第73話 グレンデールの王
私は人族の国、グレンデールの王である。
歳は二十になったばかりだ。
父である、前王が病に倒れ、私が王位につくことになった。
その後、父は何とか回復したが、車椅子が無くては移動もままならない状態になってしまった。
私はまだまだ半人前だが、優秀な大臣たちが私を支えてくれる。
だから、治世は私に任せ、余生をゆっくり過ごしてもらいたい。
父は偉大な王だった。
他国との戦争はせず、治水事業や農業に力を入れた政策を進めることで、国を繁栄させていったのだ。
また、前王の功績のひとつとして、この国に水の精霊王ウンディーネの加護を頂いたことが挙げられる。
父は常に国民のことを思い、毎日、神や精霊への祈りを欠かさなかった。
その甲斐あって、水の精霊王であるウンディーネ様が顕現してくださったのだ。
父はウンディーネ様に、国の安寧を願った。
対価は信仰心。
ウンディーネ様を祀る
現在でも、四半期に一度行う農業祭ではウンディーネ様に全国民が祈りを捧げる。
そして、ウンディーネ様の加護により、この国は水害がほとんど無くなり、水不足に悩むことも無くなった。
水関連の問題が無いので、我が国の農業はどんどん発達していった。
そのおかげで、今のグレンデールは他国に類を見ない農業大国となっている。
私の役目は、この国の農業を護るウンディーネ様の加護を切らさぬことだ。
さて、話は変わるが、私には私と同じ年のカインという友が居る。
対外的には私の親衛隊隊長ということになっているが、私は奴のことを親友だと思っている。
あいつも、私のことをそう思ってくれていると嬉しいのだが。
前王がまだ元気であった頃、王子であった私は王国騎士団を率いて、国内で発生したスタンピードを止めに行った。
スタンピードとは魔物が群れを成して暴走する現象のことで、放っておくと街が幾つも消滅する恐れがある。
それが二、三年に一度くらいの頻度で発生する。
通常であれば冒険者ギルドに国から依頼して冒険者たちに対処してもらうのだが、その時のスタンピードは規模が違った。
冒険者が止められなかった魔物たちが王都付近まで迫ってきたのだ。
それで私が騎士団を率いて、討伐に向かうことになった。
カインは当時、既に騎士団の中でも頭角を現していて、私のすぐ側に護衛として配置されていた。
スタンピードとの戦闘は
多種多様の魔物が一同に襲いかかってくるので、対応に手間取る。
一対一では歯牙にもかけない魔物でも、集まるとこうも厄介なのかと実感した。
そんな中でも、カインは全ての魔物に対して最適な攻撃を繰り出し、瞬く間に魔物を殲滅していった。
後で知ったが、超直感というスキルを使用し、魔物の弱点を瞬時に判断して戦っていたそうだ。
スタンピードは無事に殲滅できた。
ほとんどカインの手柄であった。
なのに奴は指揮官である私の采配が良かったからだと、一切の手柄を受け取ろうとはしなかった。
何が私の采配だ。
私はただカインの後ろを走り、たまに奴が討ち漏らした魔物を倒しただけだ。
正直、あの頃のカインを私は嫌いだった。
堅物で、融通の利かない男だったからだ。
だが私は、その実力は認めていた。
だから手柄を受け取らないのであれば、私の師となり剣術を教えろと命じた。
何度も拒まれたが、私が引かなかったので、カインは剣術を教えてくれるようになった。
カインから剣術を習うと、私の力や技術はどんどん向上していった。
昔は勝てなかった騎士団の隊長たちにも勝てるようになったのだ。
だが、カインにだけはどうしても勝てなかった。
ずっとカインと訓練していたら、いつの間にかカインとふたりで小規模のスタンピードを殲滅させられるまでになっていた。
カインには安心して背中を預けられた。
もちろん、カインの背中を守るのは私だ。
スタンピードの魔物を全滅させた後、カインは手柄は半分ずつにしようと言い出した。
カインの方が圧倒的に倒した魔物は多かったが、手柄を私だけのものにしようと言わなかったことに、私は嬉しくなった。
同等だと、認められた気がした。
それ以来、私とカインは親しくなった。
王になってから真っ先にやったのが、親衛隊を設立し、その隊長にカインを任命したことだ。
私の親友はそれを辞退せず、受け入れてくれた。
そんな私の親友の弟が結婚したという。
何をしてるのだ、さっさと祝いの言葉でもかけに行ってこい。
なに? 私の護衛?
そんなの今、要らないよ。
どうみたって、この国平和だろ。
私だって易々と暗殺されるほど弱くない。
だから、さっさと行けって。
しかし、何故かカインは行きたがらない。
よし、分かった。
私がお前の弟を祝おう。
知らない仲では無いので問題無かろう。
お前も私の護衛だから一緒に行くのだぞ?
ちなみに、お前の弟と結婚する相手はどんな者なのだ?
な、なに? ティナ、だと?
えっ、アルヘイムの王女とも結婚した?
昔、好きだった英雄ティナが結婚したと聞き、ショックを受けた。
だが、我が親友カインの弟なのだ。
きっとティナを幸せにしてくれるだろう。
そういえば、カインの弟ハルトは先日、エルフの王国アルヘイムがアプリストスという人族の国に攻められた際にアルヘイムに味方し、アプリストス国軍を追い返したと聞いていた。
アプリストスとは国交がなかったし、昔、我が国から魔王を倒した勇者が出た際に、英雄ティナとの繋がりができていた。
なので、我が国としてはアルヘイムと友好を築きたいと考えていた。
アルヘイムの王から超貴重なアイテムである世界樹の葉が贈られてきて、その思いはより一層強くなった。
カインの弟と英雄ティナ、アルヘイムの姫の結婚を国として歓迎しよう。
そう思って、ハルト達の披露宴に行ったら我が国の侯爵が姫の手を握っているではないか。
訳を聞くと、侯爵の息子が姫を好きになったのでハルトから奪うつもりだったとか。
ふざけるな!!
私の親友の弟から、その花嫁を奪おうというのか!?
許せん、断じて許さん!
私は親衛隊に、その侯爵を会場の外につまみ出させた。
後で厳しい罰を与えよう。
罪状は国家反逆罪でいいか。
そんなことを考えていると、ドレス姿のティナが目に入った。
昔見た姿と変わっておらず、美しかった。
思わず求婚してしまう。
あぁ、何してるのだ私は。
これではさっきの侯爵と同じではないか。
「ダメダメ! ティナはハルトのお嫁さんなんだから」
少女に咎められた。
何処かの貴族の子供か?
こんなに小さいのに愛は他人に奪われるべきものではないと知っているのだ。
反省しなくては。
少女は、風の精霊王シルフ様だった。
そして会場にウンディーネ様もいらっしゃった。
なんでもハルトと召喚契約を結んでいて、そのハルトが結婚したから祝いに来たという。
…………。
ウンディーネ様の前でその契約者の花嫁に手を出そうとするなど、私はなんてことをしようとしていたんだ!?
「もし、この国がハルトたちを裏切るようなことがあれば、世界中の精霊が、この国の敵になりますから」
ウンディーネ様に言われたこの言葉が、私に重くのしかかる。
ハルト一家を守ることが、引いてはこの国を守ることに繋がるのだ。
こうして我が国グレンデールは国力を尽くして、ハルトたちエルノール家を守っていくことが決定したのだった。
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