第44話 エルフ王女の婚約

 

「そういえば、リファをハルトのお嫁さんにするようにって、王様に言っといたから」


「──は?」


 ティナ、リファ、シルフと世界樹のダンジョンを探っていたら突然、シルフが意味のわからないことを言い始めた。


「シルフ様、何故今それを……」

「ど、どういうことですか?」


 リファが何か知っているようだったので、ティナが尋ねる。


 リファは回答に困っている様子だった。


「リファは僕のお気に入りなんだよね。ちっさい時からずっと見守ってきた。そんなリファが嫁に行かされるって話が出ててね」


「えっ!?」


 どうやらリファすら知らないことだったようで、驚いていた。


「まぁ、いずれはどこかに嫁いでいくのも仕方ないと思うんだけどさ。嫁ぎ先がアプリストスの王族だって言うから、ちょっと止めさせたくて」


 アプリストスはアルヘイムエルフの王国から一番近い位置にある人族の王国だ。


 近年、付近の小国に戦争を仕掛けてその領土を拡大しており、アルヘイムにもその矛先が向く可能性があった。


 以前までのアプリストスの戦力は、アルヘイムが余裕をもって防衛できる程度しかないはずだった。


 しかし最近、アプリストスは急に戦力を拡大していて、侵略を危惧したアルヘイムの大臣達がリファをアプリストスの王族に嫁がせることを提案したのだという。


「あの国はあまりいい噂聞かないし、風のマナたちが何か気持ち悪いって言うんだよね。そんな所にリファを行かせたくない」


「だから俺の妻にしろと?」


「うん!」


「いや、俺ティナと結婚したばっかなんだけど」


「ハルトは甲斐性ありそうだし、大丈夫でしょ!」


「甲斐性って……俺、収入ないぞ」


「そこはほら、僕が世界樹の葉をあげるから、売ればいいんじゃない?」


 それは俺の甲斐性とは言わない!

 いや、それ以前に──


「リファの気持ちが一番大事だろ。変なところに嫁がされるのは可哀想だけど、それでも俺の所に来たいってリファが思わないかもしれないだろ?」


「私はハルトさんとでしたら結婚したいと思ってます」


 いいのかよ!?

 ちょっとビックリしたよ!


 エルフ王の申し出は断ったものの、美少女エルフのリファが望んで嫁に来るというのを断る気はない。


 しかし、リファと俺が良くても問題はまだある。



「リファさん」


 ティナがリファに話しかけた。


 そう、リファの気持ちと同様──いや、それ以上に大事にしたいのはティナの気持ちだ。


 これは……ティナがリファを牽制するんだろうか?

 ティナもなんだかんだで独占欲が強いからな。


 俺との結婚なんて許さないだろう。


 だが、望まぬ結婚をさせられるのも可哀想なので、リファが希望するならば偽装結婚くらいは付き合ってあげたいと考えていた。そのためのティナの説得はするつもりだった。


「寝る時は、私がハルト様の左側固定です。ハルト様の右側はヨウコさん、マイさん、メイさん、リファさんの四人でローテーションになりますが、いいですね?」


 ──ん??

 ティナが何を言っているのか理解できなかった。


「は、はい! わかりました!」


 リファが勢いよく返事をする。

 なにが、わかったというのだろう?


「それから、家事なども分担してやっていただきますからね」


「もちろんです。ですが、お城ではメイドさん任せで私はあまり家事の経験がなくて……」


「そこはお任せください。この私が、しっかり指導して差し上げます」


「ティナ様、ありがとうございます」


「はい、これから共にハルト様を支える家族として、よろしくお願いしますね」


「不束者ですが、どうかよろしくお願いします」


「あっ、はい。こちらこそ、よろしく」


 つい、答えてしまった。


 あれ?

 俺、リファとも結婚する流れ?

 え、まじで?



 その後、ティナがリファに俺の屋敷での家事の種類や方法、俺の食事の好みなどを教えていた。


「やったねハルト、ふたりめのお嫁さんゲットだね!」


 シルフが明るい声で話しかけてくる。


「あぁ、うん」


 俺は生返事することしかできなかった。



 ──***──


 しばらくしてクラスの皆が戻ってきた。


「「シルフ様、何をなさっているのですか?」」


「やっほー、僕も皆と冒険しようかなって!」


「おぉ、ここの主のシルフ様が一緒なら、もう迷ったりしないな!」


 リューシン、既に迷ったのだろうか?


 第一層フロアは割と簡単な作りだとシルフが言っていたのだが。


「あの……」


 リファが俺の服の袖を引っ張る。


 恐らく、俺と結婚するということを皆に言ってほしいのだと思う。


 やっぱり言わなきゃダメか?


 リファを見るとコクコク頷いていた。

 仕方ない、覚悟を決めよう。


「あー、皆、実はこの度リファと結婚することになった」


「「「えっ?」」」


 マイ、メイ、ヨウコの三人が固まっている。この三人とは同棲するのだから仲良くしてほしい。


「は? ちょっとまてハルト。お前、ティナ先生と結婚したばっかで……」


 ルークが詰め寄ってくる。


「お前ばっかり美人、美少女エルフと結婚してずるいぞ! なんでだ? 何があった!?」


「ま、まぁ、なんてゆうかその……成り行きで」


「成り行きでほいほいエルフと結婚すんな! くそー、リファ可愛いなって思ってたのに」


「そうなんだ。なんか、すまん」


 親友がリファを狙っていたと知って、ちょっと悪いことをしたと思う。


「ルークさん、私なんかのことを想ってくれてありがとうございます。でも、私とハルトさんの結婚を祝福してくれると嬉しいです」


「も、もちろん祝福する!!」


 リファが申し訳なさそうに上目遣いでルークにすると、ルークはデレデレしてた。


「よし、今後ハルト達に仇なす奴らは俺が倒そう。賢者の孫の名にかけて!」


 おぉ、なんか知らんが我が家に後ろ盾ができた。


 ルークはいずれ賢者になるだろう。

 そんな奴が家を守ってくれるというのだから、心強い。


「ルークさん、ありがとうございます。あの、エルフの女の子でしたら私が何人か紹介できますよ」


「まじで!?」


 リファの提案にルークが食いついた。

 ルークは良い奴だからな。


 出会いさえあれば、春が来るのは近いかもしれない。


 その後、リュカやルナたちがリファに、俺の何処に惹かれたのかなど矢継ぎ早に質問していた。


 なんかいつの間にか好かれていたみたいで、聞いていて少し恥ずかしい。


 話しているリファも顔が赤くなっていた。

 


「ねぇー、そろそろ冒険しようよ」


 シルフが飽き始めた。

 ここはダンジョンだ。


 こんな所でずっと恋話してるのもあれなので、続きはシルフの住処ですることになった。


「じゃ、僕の家目指してレッツゴー!」


 シルフを先頭に、俺達はダンジョン攻略(?)を再開した。

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