第43話 世界樹ダンジョン

 

 ティナと結婚して二日が過ぎた。


 昨日、一昨日はティナとふたりきりでのんびりしていた。クラスの仲間たちはその間、街での買い物や、散策に出かけていたようだ。


 そして今日、せっかくエルフの国に来ているので、ここでしか体験できないことをクラスの仲間たちとやってみることになった。


 エルフの国アルヘイムと言えば──そう、世界樹だ。この国の中央にそびえ立つ世界樹。


 それに登ることになった。


 登れるのかって?

 登れるらしい。


 ちなみにアルヘイムでは、世界樹に登るどころか、触れることさえ禁止されている。


 なら何故、登れることになったのか。


 シルフがせっかく来たのだから、上まで登ってこいと俺たちに言ったからだ。


 エルフ王にも確認を取ったが、シルフがいいと言うなら良いらしい。



 ──***──


 世界樹の下の方にある巨大なウロから、内部に入った。世界樹の中はダンジョンになっていた。魔物も居たが、俺たちを見ても襲ってくることはなかった。


「世界樹の中に、魔物がいるダンジョンがあったなんて……」


 リファが呆けた表情で、そう呟いていた。


 それもそうだ。自分達が守っていた木に魔物が住んでいるなんて誰が思うだろうか。


 シルフ曰く、このダンジョンは昔の勇者達にとってのボーナスステージだったらしい。魔物に襲われることなく、世界中から妖精達が集めてきたレアアイテムを取り放題だったのだ。


 では、なんのために魔物が生息しているのかと言うと、世界樹の世話をするためらしい。


 ちなみに倒すとかなりの経験値が貰えるらしいのだが、襲ってこない大人しい魔物を倒すのは何だか気が引けるので倒すのは止めておこう。


 そしてシルフは、こうも言っていた。


「上まで登っておいで。道中見つけたアイテムは持って帰っていいからさ。頑張って探索してね!」


 ──と。


 かつての勇者達のボーナスステージを俺達も堪能していいのだそうだ。


「ハルト、俺達もアイテム探していいのか?」

「いいんじゃない?」


 リューシンの質問に対する俺のこの適当な回答に、みんなのテンションが上がった。


「国宝級のお宝をさがすのじゃ!」

「「ヨウコさん、あっちのほーから強い魔力を感じます!」」


 マイとメイは、ヨウコと探索に行った。


 いつの間にか仲良くなったようだ。俺の契約魔と精霊が仲良くしてくれていて、ちょっと嬉しい。


「ウチはあっち探してくる!」

「私もついていきます」

「じゃ、俺も!」


 ルナとルークはメルディについていくようだ。獣人族であるメルディの嗅覚を頼りにしているらしい。


「リューシン、何してるの! いくよ!」

「お、おう!」


 リュカに引っ張られ、リューシンが走っていった。なんか普段は物静かなリュカが、やる気だった。お宝に興味があるのだろうか?


 各自バラバラの方向へと走り去っていった。


 とりあえず一時間後に集合して、上のフロアに移動することにしてある。


 この場に残ったのは俺、ティナ、そしてリファだ。


「ふたりは宝探しに行かなくていいの?」


「えっとですね……私たちエルフは世界樹に近づくだけて、すごく満たされた気分になるのです。それを触れるどころか、内部に入ってしまえるなんて」


 ティナが身体を押さえ、身震いする。


「私も、満たされすぎて、変な感じなんです」


 リファもティナと同じ状態のようだ。


「移動とかは大丈夫なのか?」


「それは問題ありません。一歩あるく毎に、少し気持ちよくなるくらいです」


 それは問題なのではないだろうか?



 ──案の定、問題だった。


 リファが動けなくなった。


「す、すみません。私はここに居ますから、お二人は探索してきてください」


 頬が紅潮して、息も絶え絶えだ。


 こんな状態でひとり置いておけるはずがない。仮にもこの国の王女様だ。


 魔物が襲ってこないとは言え、ここはダンジョンの中。何があるのか分からない。


「俺がリファに付いてるから、ティナは探索してきてもいいよ」


「いえ、私の生徒であるリファさんをこの状態で置いておけません。それに私も少し歩くのが辛いので、慣れるまで休もうかと」


「そっか、じゃあちょっと休もう。探索はまた次の機会にしてもいいしね」


 転移魔法のマーキングは行ったので、アルヘイムにはいつでも来られるのだ。


「ハルト様だけ探索に行ってもいいのですよ?ここは私が」


「本調子じゃない妻を置いて、俺だけ探索にいけるわけないだろ」


 そう言うとちょっとティナが嬉しそうだった。せっかくエルフふたりと一緒になったので、この国のことを色々聞いてみた。


 ティナからは昔の国の様子を。

 リファからは最近の国の状況を聞いた。


 どちらの話にも共通していたのは、シルフが絶対的な存在であり、国民は皆、シルフを崇めているということだった。


「へぇ、全ての家庭にシルフの像があるのか」


 俺からしたら素直な子供にしか思えないシルフが、この国では神格化されてて面白かった。



「えへへ、凄いでしょ?」


「──!?」

「シ、シルフ様!?」


 どこからともなくシルフが現れた。


「何だ、居たのか」


「居たのかじゃないよ! 登ってきてって言ったのに全然来ないじゃん!!」


 シルフは普段、世界樹の一番上に居るらしい。精霊としては珍しい、常に顕現するタイプのようだ。


「いや、シルフが探索してこいって言ったんだろ? それで皆、お宝探しに行っちゃったよ。のんびり探索しながら上まで行くつもりだったんだけど……」


「むー、だけど暇なんだもん! ハルト達が遊びに来るって言うから楽しみにしてたのに」


 子供か!?


 ──と、思ったが子供だった。


 シルフは精霊王としては非常に若いらしい。


「じゃあ、俺達と一緒にこのダンジョン登っていけばいいんじゃないか?」


 俺がそう言うとシルフの顔が、ぱぁと明るくなった。


「それいいね! 僕もみんなと一緒に冒険する!!」


 冒険と言っても、ここお前の家みたいなもんだろ。そう思ったが、シルフが嬉しそうだったので黙っておくことにした。


「あぁ、よろしくな。ただ、リファとティナの具合が良くないから移動はもう少し待ってくれ」


「おっけー! ティナ、リファ、大丈夫?」


 シルフがふたりを心配し、ふわふわとティナたちのところまで飛んでいく。


「シルフ様、ご心配ありがとうございます。気分が悪いわけではないのですが、何だか歩けなくって」


「んー、これはマナがふたりにまとわりついてるね。この樹のマナ達はエルフが大好きだからエルフが来ると、こうやって周りを取り囲んじゃうみたい」


「マナに囲まれるとこうなるのか?」


「所謂、魔力酔いみたいな感じかな」


 魔力酔いとは、自分の魔力ではない魔力を体内に取り込んだ時にでる症状だ。気持ち良くなったり、逆に気持ち悪くなったり、フラフラしたりと人によって症状も違う。


 シルフがふたりに金色のオーラを振りまいた。


「どう? 少しは楽になった?」


「あっ、身体が軽いです!」

「なんだかスッキリしました」


 ティナとリファの体調が良くなったようだ。


「なにをしたんだ?」


「リファとティナの周囲に僕の加護の結界みたいなのを張ったの。これでマナからの過干渉は無くなるよ。でも、マナに呼びかければ魔法は使えるからね」


 多くのエルフは、マナに呼びかけて魔力を空間から集め、魔法を使う。シルフの結界があっても、魔法は問題なく使用できるという。


「ありがとうございます。シルフ様」

「ありがとうございます!」


「いいよいいよ、さぁ、冒険しよ!」


「「「おぉー!」」」


 俺達もお宝目指して、探索を開始した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る