第33話 混浴と転移魔法
三十分ほど歩いて目的の温泉に着きました。
道中、魔物は出ませんでした。
温泉にも誰もいません。
「誰も居ないし、この後も多分来ないだろうけど念のため」
ハルト様が巨大な魔法陣を展開しました。
「ハルト様、これは?」
「認識阻害の結界魔法。この外側からはここに温泉があるって分からないし、俺達の姿も見えない。だから安心して入れるよ」
結界魔法の存在は知っています。
かつて上級魔導師が十人がかりでなんとか発動させたと聞いていました。
それをおひとりで。
やはりハルト様は規格外です。
何もそこまでしなくてもいいのではと思ってしまうのですが──
「その……ティナの身体を、他の誰かに見られるのは、嫌だし」
そうハルト様がつぶやきました。
ハルト様も独占欲があるようですね。
何だか嬉しくなりました。
いよいよ温泉に入ろうとなったのですが、実は私、ハルト様に裸を見られるのは初めてだと気付きました。
赤子の頃からお世話しているので、ハルト様の裸は見慣れています。
最近はあまり拝見する機会がありませんでしたが……とにかく、私が裸を見られるのは初めてなんです。
だ、大丈夫でしょうか?
手入れはいつも念入りにしてますし、そもそもハーフとは言え、私はエルフ族なので肌は綺麗なはずです。
「一応、水着持ってきたけど、着る?」
私がモジモジしていたらハルト様が袋を差し出してくださいました。多分、水着が入ってるのでしょう。
水着を着て入れば恥ずかしさはなくなりますが、既にハルト様はヨウコさんやマイさん達とお風呂に入っています。
私だけ水着を着てしかハルト様とお風呂に入ったことがないとなると、何だか負けた気になります。
ですから──
「いえ、大丈夫です。買っていただいた水着は今度着させていただきますね」
そう言ってハルト様から袋を受け取りました。
ふふふ、プレゼントを頂いてしまいました。
ハルト様が服を脱ぎ始めています。
「ティナ、凝視されてるとさすがに恥ずかしい」
「あっ! ご、ごめんなさい」
訓練を休まず頑張ってらっしゃったハルト様の引き締まった身体に見とれてしまいました。
私も服のボタンに手をかけます。
なんでしょう、凄くドキドキします。
ザバザバと音がして、そちらを見るとハルト様がお湯に浸かったところでした。
身体を私のいる方とは反対に向けています。私が恥ずかしくないようにと配慮をしてくださっているのでしょう。
急いで服を脱いで、少し掛湯をして温泉に入りました。
──あぁ、温かい。
地中から湧き出た魔力がお湯に混じっているのでしょうか?
魔力が満たされていく感じがします。
いい温泉です。
私はハルト様のうしろから近づきました。
「気持ちいいですね。来られて良かったです」
「あぁ、ティナが喜んでくれて嬉しいよ」
ハルト様はこっちを見てくれません。
さっき私が恥ずかしがっていたのを気にしてくださっているようです。
ですが、せっかく一緒に温泉に入ったので、もっと触れ合いたいです。
「えぃ!」
私は意を決して、ハルト様に後ろから抱きつきました。
「ティナ!? あ、あたってる!」
「当ててるんです」
自分の顔が真っ赤なのが分かります。
凄く恥ずかしいです。
でも、ハルト様に抱きつくと何だか落ち着きます。
「ハルト様、こっちを向いてくださいませんか?」
少し離れて聞いてみました。
「……いいの?」
「はい。ハルト様に、見ていただきたいです」
ハルト様がゆっくり振り返りました。
目が合います。
そして、ハルト様の視線が下の方に──
い、いかがでしょうか?
「綺麗だ」
褒めていただけました。
顔が熱いです。
「あっ、ごめん。見すぎた」
そう言ってハルト様はさっと顔を背けました。
「さわっても、いいんですよ?私はハルト様のものですから」
勇気を出しました。
ハルト様が再び私を見ます。
「何処を触ってもいいの?」
「……はい」
ハルト様が顔を近づけてきます。
キスされました。
「唇でティナの唇を触ってみたよ。二回目のキスだね」
胸や身体をお触りになるかと心の準備をしていたのですが、キスされるとは。
いきなりはずるいです。
唇に指を当て、先程のハルト様の唇の感覚を思い出します。
……もっとしたい。
「ハルト様」
ハルト様といっぱいイチャイチャしました。
結界で誰にも気づかれないとはいえ、ここは屋外です。
凄く、ドキドキしました。
気持ちよかったです。
──***──
温泉から出て着替えました。
恥ずかしくてハルト様の顔を見れません。
「じゃ、帰ろうか」
「はい」
ハルト様が帰りも手を握ってくださりました。
歩いて帰るのかと思ったのですが、ハルト様が何やら魔法陣を形成しています。
「あの、これは?」
「村まで転移するための魔法陣だよ。歩いて帰ったらせっかく温泉入ったのに汗かいちゃうだろ?」
聞き間違えでしょうか?
転移魔法陣?
転移とはスキルの一種で、行ったことがあればどんな場所にでも一瞬で移動できる、まさしくチートスキルと呼ばれるものです。
稀にこのスキルを持った勇者様が現れると聞いたことがあります。
ですが、ハルト様は賢者です。
賢者が転移魔法を使った記録などありません。
「ほ、本当に転移ができるのですか?」
「うん、最近覚えた。狭間の空間を経由して、予め出口の魔法陣をセットしておいた場所に移動できるんだ。自分で自分を召喚する感じかな?」
ハルト様はスキルではなく、魔法として転移を再現してしまいました。精霊族のマイさん、メイさんと契約を結んだ時に覚えたそうです。
「さ、用意できたよ。帰ろ!」
ハルト様に手を引かれ、私は魔法陣に足を踏み入れました。
魔法陣をくぐったかと思うと、そこは村の外れ、さっきまで私たちがいた森へと続く道でした。本当に、転移できてしまったようです。
「お腹すいてない? お昼にしようと思うんだけど」
私が唖然としていると、ハルト様からご飯を食べようと提案がありました。ここは田舎の村ですが、なかなか美味しいご飯が食べられると有名なんだそうです。
ご飯を食べたら帰宅するんでしょうか?
ちょっと名残惜しいです。
もっとハルト様とふたりっきりが良いです。
あら? そういえば私たちが乗ってきた魔導車が見当たりません。
「魔導車は帰ってもらった」
私が魔導車を探していることに気づいたハルト様が、そう言いました。
「お屋敷への帰りも転移するんですか?」
「ティナさえ良ければ、ここで泊まろうかなって。もし屋敷の布団で寝たいとか、ここが嫌ってのなら俺の転移で帰ろう」
私は勇者様たちと冒険したことがあるので野宿でも平気です。
たとえ田舎の村で安い宿しかなく、ベットがボロボロであっても全然気にしません。
そんなことより、ハルト様とふたりっきりで明日まで居られることが嬉しいのです。
「泊まります!」
即決でした。
えへへ。
今晩もハルト様を独り占めできます。
まだお昼だというのに、私は今晩ハルト様と寝る時のことを想像し始めてしまいました。
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