魔王城にて②-魔王軍四天王と魔王の娘 後篇-
異世界生活百四十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王都市ジュドヴァ、魔王城
【――システム起動。《神代空間魔法・夢世結界》の発動、完了しました。耐性及び無効スキルの無効化、
中空に画面が生まれ、エンリの姿が映し出される。
さて、この中で一番ステータスが高いのは雪乃だ。次いでに魔王軍四天王の二人、魔王の娘と続いていく。
「ってか、今更だけど魔王の娘に手を出したからって魔王に問答無用でキレられたりしないかな? 俺、一度試合をすると決めたら手加減できないけど?」
「随分と舐めてくれているな! 私だって戦えるんだ!! ――【暗黒】ッ!!」
闇を纏わせた魔剣アストリアで袈裟斬りを狙ってきたか。
うん、剣の筋は悪くないし、思いっきりもいいと思うよ? でも、敵の挑発? に乗って頭に血が上ったまま攻撃していては勝てる相手にも勝てないし、太刀筋も読まれているからもう少しだけ工夫を加えた方がいいと思うけど……余計なお世話だよね。
「――ッ! まさか、聖剣!?」
「〈
別に大したことはしていない。【主我主義的な創造主】でインスタント聖剣を創り出し、レーゲンの剣技をなぞって袈裟斬りを受けただけだ。
そして、そのままアストリアリンドの持つ魔剣アストリアに衝撃波を叩き込む。
「〈
そこに、筋肉の収縮を連続で行うことで発生する衝撃波も込めた。その威力は絶大――アストリアリンドもしばらくは剣を握れないだろう。
「聖剣ってのは別に勇者固有技を使うためだけにあるものじゃない。……というか、勇者固有技に頼り過ぎると剣技が疎かになって基礎の部分がないまま応用だけ知っているみたいになっちゃうよね。まあ、レーゲンみたいにここまで極めなくてもいいからさ、勇者ももう少し剣技というものを学んでもらいたいものだよ。白崎さんを見習ってさ……というか、あれだけ剣技が使えて、聖女の癒しまで使えるんだよ!! 完璧とはまさにこのことだね」
『…………それなら、全部十全に使えて能力のレパートリーが無限に限りなく近い草子君なら私よりももっと見習われないといけないね』
……白崎よ、俺は聖剣も魔剣も十全に扱えないんだぞ? それが勇者の規範になれる訳がないだろう? 全く身内だからって色眼鏡をつけて見るのはやめてもらいたいものだよ。えっ、ブーメラン? 知らない子ですね。
「……剣が使えなくたって私には魔法がある! 〝
「【法則ト靈氣之神】!!」
アストリアリンドの〝
「【エターナルフォースブリザード】ォォ、凍てつけェェェェェェェェェェェェ!!」
おっ……凝縮〝
「だが、二発目はどうだ? 〝
「――なッ!! 【エターナルフォースブリザード】ォォ、凍てつけェェェェェェェェェェェェ!!」
おっ……【爆滅魔法】も止めるか。流石はカンストステータス。
「んじゃ、もう一発。〝漆黒を裂く光明よ。夜を塗り潰す純白に我が裡の真紅との混淆を望み給う。頽廃の世は終わらぬ。煉獄は頽廃した世に慈悲を齎さぬ。積み上げられし屍人の山。地を埋め尽くす物言わぬ骸。我が命が果てるのは今日か、明日か。地上の炎は慈悲なく命を焼き尽くす。末法の世に救いはあるや有りや無しや。ならば我が全てを救おう。その慈悲なる炎を以って全ての生きとし生ける命を救済しよう。今、審判の喇叭は吹き鳴らされた。地上は救済の白き炎に包まれる〟――〝セイクリッド・ノヴァ・エクスプロージョン〟」
「さ、三発目!? 【エターナルフォースブリザード】ォォ、凍てつけェェェェェェェェェェェェ!! …………ぜぇ、ぜぇ」
おっ、三回目も止めたか。でも、物凄い疲れているね。まあ、即死クラスの厨二技を連発しているし。
「んじゃ、四発目……ってレパートリーないし、ちょっとだけ上げるよ? 〈
炎を凍らせる焔と炎を燃やす焔を手の中で融合し、金色の焔を構築してから“狐火”と融合して九つの黄金の“火球”を形作る。
まずは、その中の三発を雪乃に向かって放ってみた。
「【エターナルフォースブリザード】ォォ、凍てつけェェェェェェェェェェェェ!! て、なんで……なんで私の氷がッ!?」
凍らせたと思った瞬間、跡形もなく消え失せた氷。
それもその筈、〈
【エターナルフォースブリザード】で〈
「あの……後六発ありますね。その焔、消してくださいませんか?」
「ムリよ、ムリ。ムリムリよ。――異界の真なる焔よ、全てを焼き尽くせ!!」
ふう、まずは雪乃撃破。……しかし。
「なんで三人とも攻撃して来なかったの? 明らかにチャンスだったよね?」
「失礼ながら、あの猛攻の中に突っ込むのは愚か者のすることでございます」
「あの意味不明な戦いに巻き込まれたら確実に負けになっていた。傍観しておくのが正しかったと今でも思っている」
「雪乃さんも『終わって良かった』みたいな顔をしているし、良かったんじゃないかな? ……でも、どうしよう? 魔法は使えないし、もう剣は握れない」
「確かにちょっといきなり攻め過ぎた感があるよね。アストリアリンド様にも騙し討ちをしたみたいでなんだか後味悪いし。〝嗚呼、惨き戦場よ! 戦に身を投じ、生命を散らした殉教者達よ! 戦火に焼かれ焦土とかした大地よ! せめて、せめてこの私が祈りましょう! いつまでも、いつまでも、祈り続けましょう〟――〝
アストリアリンドの手を癒した。これでまた剣を握れるだろう。
「こういうのは納得することが大事なんだよ。物言わぬ死体にする訳じゃない、戦いの後にも生きている訳だから、死力を尽くして戦ってそれでも負けたって思ってもらわないと際限なく戦うことになる。もう【回復魔法】は使わない。だから、次は考えなしに突っ込んでくるんじゃないよ?」
「わ、分かっているよ!! ……これは貸しにしておくわ」
「いや、貸し借りとかどうでもいいし、恩義とか感じなくていいよ。そういう生き方はカッコいいかもしれないけど窮屈だろ? 俺は大したことしてないんだしさ。――んじゃ、次はオウロウ様だ」
「〝結晶よ、水晶の槍となって、放たれよ〟――〝
聞いたことがない魔法だな。【水晶魔法】……あれか? もしかしなくても異世界の魔王を自称する
「見たことがない魔法だな」
「そうでしょうね。これは私だけの魔法でございますから」
つまりは、
「分かりました。オウロウ様、貴方は【水晶魔法】だけで倒すとしましょう」
「ふっ……何を言い出すかと思えば。この魔法は私だけのもの、例え草子様でも使えますまい。〝結晶よ、無数の水晶の礫となりて、放たれよ〟――〝
「〝結晶よ、無数の水晶の礫となりて、放たれよ〟――〝
「なっ……まさか、〝
……う〜ん、そんなに驚くことかね? この程度スキルを使うまでもなく計算できるようになっているけど……あれ? もしかして究極挙動や不可視だけじゃなくて、演算スキルの計算力も少しずつ体得できているのかな?
「まだです!! 〝轟く雷鳴よ、輝く雷霆よ、降り注いで焼き払え〟――〝
おっ、と……ちょっと危険だったな。まあ、ギリギリのところで【疾走ノ王】を使って回避したけど。
さて……。
「〝結晶よ、砕け散りて、広がりて、切り裂け〟――〝ダイアモンド・ダスト〟」
「な、何を…………そん、なっ、ま、さ、か!? ぐ……はっ……」
オウロウ撃破。自分だけの【水晶魔法】――きっと極めていただろう魔法にまさかこんな使い方があるとは考えないよな。
空気中に散らした目に見えないほどの細かく砕いた結晶を自在に操り、それを吸い込んだ敵を内側から切り刻むオリジナル魔法――〝ダイアモンド・ダスト〟。
元ネタは砕いた愛剣の欠片でやっていたっけ? 確かに返り血が凄いし、傘も必要だね。
「〝洗いたまえ〟――〝
さて、【生活魔法】を使って装備から血糊を消し去って準備万端。残るはアストリアリンドとリーリスか……どっちから戦おうっか?
「どうする? 二人同時に戦う?」
「アストリア様、ここは私が戦います」
「待って……オウロウも雪乃も負けたし、このまま一人で戦っても勝ち目はないわ。ここは二人で戦うわよ!!」
「――はっ、畏まりました」
「なら、俺ももう一本使わせてもらうよ。エルダーワンド、
エルダーワンドを槍に変形させ、左手で聖剣を構える。
「【魔法槍・赤熱】!!」
なるほど、【魔法剣】の応用で槍に魔法を纏わせるから【魔法槍】か。
確かに、剣でやれって制約がある訳だし、他の武器でやってきても問題はないよね……なんで魔法剣しかないんだろう? というか、どれだけ神聖視されているんだろうね? 剣って。
「それじゃあ仕掛けさせて頂きますか。――
要は〈
といってもある程度の動体視力がなければ一突きにしか見えない突きを放つ〈
さて、槍使いのリーリス――この猛攻に耐えられるか!!
……ってあれ? 間合いから逃げられることもなく、かと言って華麗な槍捌きで捌かれることもなく、ただ抵抗もできずに連続突きを受けている!? えっ……一応相手の視界に存在する文字通りの
「なんか予定が狂ったけど、とりあえずリーリス様も撃破。残りはアストリアリンド様だけだし、槍使う必要ないからエルダーワンドは仕舞わせてもらうよ」
エルダーワンドを布の袋に戻し、聖剣を正眼……ではなく適当に構える。
俺の剣技って割と喧嘩殺法に近いからね。適当に構えていた方が戦い易いんだよ。
「七星流絶剣技 二ノ型 巨門」
片足を軸にして回転しながら神威を込めて放つ旋風のような回転飛斬撃を挨拶代わりに放つ……流石に砕かれたか。まあ挨拶代わりだからね。
「――【暗黒】ッ!!」
闇を纏わせた魔剣アストリアで放ってきたのは逆袈裟斬り。それを聖剣で受け止める……うむ、所詮は三流の聖剣。
使い捨て用に適当に作った分、魔剣アストリアよりも強度は劣る……それが、響いてきたか。
「すまん、次で倒させてもらう。このままやっているとクソザコ聖剣が折れそうなんでね」
一合、二合、三合、四合……幾度となく剣を打ち合わせ、ヒビが入り始めた頃を見計らってアストリアリンドに勝利宣言をする。
後々、アストリアリンドは強大な力を持つ魔王となるかもしれないが、今のアストリアリンドならモブキャラな俺でも好きなタイミングで決着をつけることが可能だ。
「ふっ……貴方はこれまで勇者固有技を使っていない。つまり、その聖剣はただのハッタリ」
「と普通は思うよね。俺もこんなモブキャラが聖剣を使えるなんてびっくりだよ。まあ、使えるのと使いこなせるのは別問題なんだけどさ。――至高天に浮かぶ薔薇の如く、万天斬り裂く光、吹き荒み渦巻きて、燦嵐となりて敵を討て――《
青い光の刃を無数に展開させて、一斉攻撃の合図を送る。
瞬間、耐えかねた三流聖剣は崩壊し、青薔薇の如き斬撃がアストリアリンドに殺到した。
魔王ならこの程度余裕であしらっただろうが、相手はまだ魔王に即位していない魔王の娘――例え、魔剣を持っていたとしても、その太刀筋に甘さがある以上、この全ての攻撃を捌ける筈がない。
――アストリアリンド、撃破。
◆
「ってことで、とりあえず全勝? なんか拍子抜けだったな」
反対側でブルブル震えているオウロウとリーリス。アストリアリンドに至っては完全に涙目だ……やっぱりやり過ぎた?
「ちょっと酷くないですか!! 私だけオウロウさんやリーリスさんやアストリアリンド様と扱いが違いますわよ!? 三人にはそれぞれに合うように武器を変えたり手加減したのに、私だけには最初から飛ばしてくるなんて、差別ですよね!!」
おいおい、雪乃……ただでさえダメージを負っている
「…………今まで、よく魔王軍は壊滅しなかったな。こんなニンゲンがいるとは」
「……ヘズティスの報告によれば、能因草子様は人間側では【まつろわぬ孤高の旅人】や【たった一人で殲滅大隊】の異名で恐れられているそうです。国家同盟の議長を務める女史の情報によれば、記録はアルルの村という辺境の地で【時空魔法】〝
うん……あの老害を焼いてこよう。というか焼こう。絶対に焼こう。いや、きっと俺の弟子を贔屓することで俺のご機嫌を取ろうとしているのは分かるよ? 見え見えだもの。
でもさ、それで俺がキレることを何故理解しない。やっぱり冒険者ギルドの上層部ってのは頭の悪い連中が揃っているのかね?
俺がやったのは基礎を作ることぐらい――そこから強くなったのは全てみんなの実力だ。
イオンだってライヤだってリーシャだって、俺の弟子だから強いんじゃない。
その努力を軽視して、いやいっそ無かったことにすらして、俺の弟子だから特別扱いするだ? 巫山戯んのも大概にしやがれ!!
「…………あれ? なんでみんな震えているのかな? もしかして、殺気ダダ漏れだった?」
「草子君……何を怒っているのか分からないけど穏便にね。草子君が怒るような相手を殺すのに自分の手を汚したら負けだわ。それと同レベルに落ちてしまうわよ」
「聖さん、なかなかいいこと言うねぇ。まあ、確かに老害を殺したところで上層部が死ぬ訳じゃないし、冒険者ギルドには白崎さん達もお世話になっているからね。上層部と老害殺しはやめとくよ」
「…………冒険者ギルドの上層部を殲滅しようとしていたんだね」
えっ? さっきのオウロウの話でイラッと来なかった? えっ、えっ?? もしかして俺だけ?
「…………とりあえず、草子さんがとんでもなく意味の分からない人だってことは分かったわ。でも、なんでヘズティスが人間側の最高権力者? 国家同盟の議長の情報を持っているのかしら?」
「ん? そりゃ勿論、俺がセリスティア学園長を招待したからだよ。大方、スカしたイケメンのシュトライドフ=ノアルがヘズティス様に情報を流したんだろう。アイツも同席してたしな……と、まあセリスティア様は魔族に対しても友好的に接するつもりだってことが分かってもらえたら個人的には嬉しいな。あの人、キールさんの妹のシュオンさんに魔法を教えていたみたいだしね」
「……キールというのは、確か魔族の勇者ですね。彼も広義で見れば“能因草子の子供達”の一人だとヘズティスに報告にはありましたが」
「ん? そうやって色眼鏡をつけて見るのはやめてもらいたいな。キールさんは家族を守るために自分の意思で強くなろうとした、俺はそれにちょっとだけ力を貸しただけ。だから、これからキールの博する名声は全てキールのもの――そこを勘違いしてもらっては困るな」
というか、仮に俺の作った切っ掛けに大きな意味があったとしても、それを掴んだのは間違いなくイオン達――その運も含めて実力だと思うんだけどねぇ。
「では、四人に勝ったことだし、謁見の間に通させてもらうよ」
「……私達には止める権利がありませんので、どうぞお進みください。……私共も謁見の間に行ってもいいでしょうか? この国の最期を見届けたいので」
……おいおい、もう負けるつもり満々かよ。少しは魔王を応援したらどうだ? お前ら、魔王を守る盾――四天王なんだろう?
「勿論……見届ける権利は誰にでもあると思うんだよね。……それと、アストリアリンド様、安心するといいよ。――俺がこの国で奪う命は多分後一つか、二つか……でも、その中に魔王の命は含まれていないからね」
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