盾の勇者も魂の形が盾の人も盾自体に仕掛けがあったり盾以外の武器があったりするので結局のところ純粋な盾使いはどこにも存在しないのではないか?

 異世界生活八十二日目 場所獣人小国ビースト


 二戦目の馬の獣人ディーヌィ=ジームシュ、三戦目の鷹の獣人、サンダクゥトル=メフディオム戦に関しては一撃撃沈ワンパンだったので戦闘の詳細は割愛する。


 前者はケンタウロスのような見た目で、見た目通り弓矢を使ってきた。対する俺の武器は予告通り、剣。

 後者は鷹のような翼を持つ武闘家で、接近戦を得意としていた。対する俺は魔法を選び、〝爆裂魔法ハイパーエクスプロージョン〟で倒した。


 その頃からだ。敵愾ヘイトがだんだんと恐怖に変わり、そして畏怖と憧憬の眼差しに変わったのは……うん、モブキャラに向けるものじゃないよね。


 これまでの三戦は俺が戦うスタイルを選んでいたが、四戦目からは観客オーディエンスが戦うスタイルを選ぶというパターンになった。

 ……司会のせいで。この人、どんだけゲストを勝たせたくないんだよ!


「では、第四戦目。準々決勝になります。左コーナー、今回の優勝候補筆頭、能因草子!! 右コーナー、獣人小国ビーストが誇る金ランク冒険者、イオン=トーカ!!」


 そして、この準々決勝――相手はイオンなのだ。

 立場は俺と同じ特別推薦枠。しかも、レオーネの推薦である。


 最初こそ、その可愛らしい容貌故に舐められていたようだが、その実力を見せつけて今では大声援が巻き起こるほどの期待を寄せられているようだ。


 見た目も可愛いし、強い。俺よりも遥かに人気になる要素を持っているよな。


 なお、今回ライヤとリーシャは参加できていない。招待選手として呼べるのは一人だけだったらしい。まあ、リーダー格で獣人のイオンに出場権を渡すよな。


 だけど……これは俺の勝手な考えだけど、ライヤやリーシャも参加したかったと思うんだ。


「ライヤ、リーシャ。お前達も来い。俺はイオンとじゃなくて、チームトライアードと戦いたいからな」


「「「「「はぁ〜〜!?」」」」」


 司会も含め、素っ頓狂な声を上げるが気にしない。


「……草子先生、どういうことですか?」


「いや、ライヤもリーシャも見ているだけじゃつまらないと思ってな。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々……やっぱり見てるよりも実際に参加した方が楽しいだろう? それと、後はさっき言った通りだ。俺はチームトライアードと戦いたい。大層なことはしてないけど、俺は一応お前らの師匠だしな」


「能因先生にお返しできないほどの沢山のものを頂きましたよ。……そして、その恩返しは能因先生に私達強くなったってことをお見せして、安心してもらうこと。――この勝負、私達が勝ちます!!」


 うん、いい笑顔だ。その自信に満ち溢れた顔――これなら、もう大丈夫だろう。というか、元々大丈夫なんだけど。


「……あの、草子様。これはどうすればいいのでしょうか?」


「三人同時でも、一戦を三回やる形でもいいよ。先鋒→中堅→大将って形でも。但し、二回先取で結果が決まっても、三回戦目は行う。ただし、その場合は勝者に一億ポイント……は冗談で三ポイント入る。そうすれば、三戦目が無駄になることはないだろう? あっ、リーシャは回復職だからイオンかライヤをパートナーに選んでいいよ」


 三人の作戦会議の末、三回の方にしたようだ。

 先鋒はリーシャとライヤか。


「で、武器はどうすればいい?」


「それなら、槍だ! 槍で頼む!!」


 観客オーディエンスの虎の獣人のリクエストは槍……槍かぁ。

 あんまり使ってないけど、前は使っていたから問題ないだろう。


「それでは、参ります!!」


 おっ、いきなりライヤが仕掛けてきた。ライヤの得物は一点突破の極槍チャージ・ブレイカー……かなり危険な代物だ。


piercingピアシング!!」


 ライヤの一点突破の極槍チャージ・ブレイカーの穂先を狙って、こっちも突きを放つ。

 瞬間、俺のエルダーワンドは万物を両断する効果に襲われるが、エルダーワンドの変形効果を利用して槍の形状を無理矢理保ちながら押し込んでいく。


 ステータスの差があったのが大きかったのだろう。ライヤの突きが押し負けた。

 まあ、バグっているんでステータスだけには自信があるんだよね。それ以外は何の取り柄もないけど。


comèteコメッツ


 その名は箒星。高速の九段突きで、ある程度の動体視力がなければ一突きにしか見えない突きを放つ技だ。

 但し、手首のスナップと肘の角度を変化させることで僅かに角度を変えている。

 その僅かが見切れなければ、突きを直撃で受ける……さて、ライヤ。どこまで戦える?


「〝灰の中より幾度となく蘇る不死の鳥よ! 今こそその涙で傷負う者達を癒せ〟――〝不死鳥の涙フェニックス ・ティア〟」


 ライヤが受けたのは十八発……だが、その傷も〝不死鳥の涙フェニックス ・ティア〟の炎で回復されたか。

 リーシャ、大分腕を上げたな。……さて、どうしたものか。


「〝真紅の炎よ。無数の槍となりて、我が敵を貫き焼き尽くせ〟――〝無数灼熱炎槍ファイアジャベリン〟」


 この結界内では無効系スキルと超越者デスペラードの性質が無効化される。公平にするための処置だ。

 そりゃ、完全に無効化できるんじゃ、勝負にならないし。


 【プラズマ操作】を発動して、〝無数灼熱炎槍ファイアジャベリン〟を操作してエルダーワンドの穂先に纏わせる。


faucherファッシェ horizonオリゾンtalementタルモン


 そのまま真一文字に薙ぎ払い、炎の斬撃を【飛斬撃】で飛ばした。

 治癒師のリーシャは防ぎ切れずに胸元に一文字を刻まれる。


「……っ、〝灰の中より幾度となく蘇る不「faucherファッシェ horizonオリゾンtalementタルモン


 間髪入れずにもう一撃。ライヤが防御に入る間も無く戦闘不能に陥った。

 結界の効果によってリーシャは結界の外に転送される。


「一つアドバイスするとすれば、魔法は詠唱に時間が掛かる。その隙を突かれれば簡単に負けてしまう。今みたいにな。オススメは【高速詠唱】……無ければ【早口言葉】でもいいが、こういうスキルで詠唱の速度を上げた方がいい。ライヤ、お前は治癒師のリーシャがやられないように全力で守り、詠唱のための隙を作るポジションだ」


「「はい、能因先生!!」」


「んじゃ、ライヤ。少しペースを上げていくぞ」


 【瞬間移動】を発動してライヤの背後に回り――。


comèteコメッツ!!」


 九連突きを放つ。が、ライヤは四撃目を受けたところでなんとか前に避け、退避した。


「ランススタッブ・キーンエッジ」


 研ぎ澄ませた一点突きで俺の突きの雨を抜けて一撃浴びせようっていう訳か。

 だけど、動きが単純過ぎる。狙いが見え見えの技なら、対処は簡単だ。


piercingピアシング!!」


 ライヤの一点突破の極槍チャージ・ブレイカーの穂先を狙って、突きを放つ。

 斬られてもなお、再成する槍――この槍は斬られたところから巻きつくように変形を続け、穂先を完全に呑み込む。そして――。


Mangerモンジェ uneウヌ lanceロンス


 武器を喰らう槍が如く、一点突破の極槍チャージ・ブレイカーをへし折る。

 一点突破の極槍チャージ・ブレイカーは聖剣や死霊騎士の剣デスナイト・ソードを素材にした最高ランクの武器だが、武器のレベルとしてはエルダーワンドに劣る。

 だから、こういうこともできるんだよね。


「……完敗です」


 武器が折れたライヤはこれ以上は戦闘を続行できない。ここで敗北を認めるのはいい判断だ。

 まだ負けた訳ではないからな。ここの情報を元に次の俺との一騎打ちの策を練ればいい。


 続いて第二戦。相手はライヤ。


「で、武器はどうすればいい?」


「盾がいい! 流石に盾だけじゃ戦えないだろう!!」


 観客オーディエンスの鹿の獣人は完全にチームトライアード側だな。まあ、応援したくなる気持ちも分かるけど……というか、俺の応援――。


「草子君、絶対に負けないと思うけどファイトぉ!!」


 進んでやろうとする人はいないだろうからな。だってモブキャラだし。

 聖達が応援しているのもパーティだから仕方なくってところだろう。


「盾か、盾ね。盾の勇者か? 勇者じゃないけど。……う〜ん、まあなんとかなるんじゃね? 確か魂の形が盾だった北欧の雷神の名前を持つお兄さんも……いや、あれも結局格闘や魔術を使っていたから純粋な盾使いじゃないか。さて、どうするか?」


 大体盾に何かの性質があって攻撃手段になるけど、今回の場合はなんの効果もない盾だからな。まあ、変形させれば武器にもなるんだけど、できるとしたら槍喰らいだけだろうし。


「それでは、二回戦。参ります!!」


 と、考えているうちに始まってしまった。


「ランスチャージ・キーンエッジ」


 槍を使った突撃攻撃か。んじゃ、こっちは。


Parerパレ à pousserプーセ d'enドン bas


 盾を斜め下から突き上げるように動かし、穂先を上に打ち上げる。


Balancerバランセ unアン bouclierブークリエ


 そのまま、盾をスイングしてライヤにぶつける。

 盾って使い方によっては一応鈍器になるからね。まあ、それよりも他の武器の方が断然使い勝手がいいけど。盾はそもそも防具だから、武器として使うことをほとんど念頭に置いていないんだよね。


 やっぱり、あんまりダメージを与えられていないか。

 ……どうしよっかな、これ。


 エルダーワンドを盾から、大量の棘がついた特殊形状のスパイクシールドへと変形させる。


Balancerバランセ unアン bouclierブークリエ


 再度、盾をスイングしてライヤにぶつける。

 槍使いは近距離戦に滅法弱い。ここまで近づけば、ライヤに勝ち目はないだろう。


 その俺の読み通り、ライヤは一回も盾の攻撃範囲を逃れられないままダメージ過多で結界の外に転送させられた。


「すまんな。盾での戦いだと、どうしても嬲り殺しみたいなことになる」


「いえ、大丈夫です。ありがとうございます、能因先生。色々と勉強になりました」


 ライヤ……流石に盾をこんな風に使う戦い方をする奴は異世界カオス煕……じゃなかった広しと言えども俺だけだと思うぞ。


「それじゃあ、ラストはイオンか。……で、武器は何がいい?」


「能因先生、もしよろしければ魔法を使ってくださいませんか?」


 提案したのはイオン。……つまり、魔法だけで戦えってことか。

 しかし……本当にいいのか?


「勿論、能因先生が魔法を得意としていることは理解しています。……私達は一度も先生の本気を見たことがありません。これから飛躍するためにも、先生の本気を経験しておく必要があると思うのです」


 つまり、本気で戦えということか。まあ、俺の本気って言っても高が知れているんだけど。


「それでは、大将戦。参ります!!」


「〝紅煉の世界の灼熱よ! その熱で全てを焼き尽くせ! 一切合切を焼き尽くして浄化せよ〟――〝灼熱世界ムスペルスヘイム〟!!」


「おっ、まさか〝灼熱世界ムスペルスヘイム〟まで使えるようになっているとは思ってなかったよ。上級魔法まで使えるとは、かなり魔法の修練に力を入れているようだな。師匠? として、嬉しいよ」


「ありがとうございます!」


(〝悪魔の王を封じる極寒の最下層より、摩訶鉢特摩の洗礼を与えよ〟――〝コーキュートス〟)


 無詠唱で放った〝コーキュートス〟で〝灼熱世界ムスペルスヘイム〟を相殺する。


「……【無詠唱魔法】ですか?」


「そんなところだ。相手の使ってくる魔法が読めないって結構辛いだろう? 意外と簡単に覚えられるからセリスティア学園長辺りに頼んでみるといい。なんなら、紹介状を書こっか?」


「本当ですか? では、お言葉に甘えさせて頂きたいと思います」


 戦闘中に悠長な会話をしているって? いや、イオンは会話中も俺の一挙手一投足に注目して油断なく俺を観察してきているよ。


「で、どうする? 今後も【無詠唱魔法】を続けた方がいい?」


「はい。この先、【無詠唱魔法】の使い手が相手になる場合があるかもしれませんから。そのためにも、相手が魔法を使ってから対策を取れるようになりたいです」


 ライヤとリーシャも結界の外から俺の魔法を使う瞬間を観察している。……三人とも、本当に勉強熱心だ。

 三人に対する感想はこれしか言っていない気がするが、実際に勉強熱心だから、そう表現するしかあるまい。


(〝雷霆よ、獰猛な龍へと姿を変え、思う存分暴れ回れ〟――〝エレクトリカル・ドラグーン〟)


(〝雷霆よ、獰猛な龍へと姿を変え、思う存分暴れ回れ〟――〝エレクトリカル・ドラグーン〟)


(〝雷霆よ、獰猛な龍へと姿を変え、思う存分暴れ回れ〟――〝エレクトリカル・ドラグーン〟)


(〝雷霆よ、獰猛な龍へと姿を変え、思う存分暴れ回れ〟――〝エレクトリカル・ドラグーン〟)


(〝雷霆よ、獰猛な龍へと姿を変え、思う存分暴れ回れ〟――〝エレクトリカル・ドラグーン〟)


 【複数魔法同時発動】の効果で、五体の雷竜を出現させる。


「オリジナルの雷竜五体。 さあ、どうする?」


「〝荘厳なる大地よ、守護の腕となりて、我を守る防壁となれ〟――〝岩石守護穹窿アース・ドーム〟」


 土属性中級魔法でドームを作り、雷竜の攻撃を無効化したか。


(〝蒼の焔よ、槍の形成し、我が敵を焼き払え〟――〝ブルーファイア・ランス〟)


 ドームの中からでは俺の姿と魔法の形は見えない。【無詠唱魔法】を使っているから詠唱から推測することもできない。

 さあ、どうする? イオン。


 青い炎の槍がドームを砕く。……が、既にドームの中にイオンの姿はない。

 ドームの反対側に大きな穴が開けられていた。……宵時雨に飛燕レイン・スワローで【魔法剣】を使ってドームを砕き、脱出したか。


「魔法散剣・ライトニングディスチャージ」


 ドームの右側から現れたイオンが宵時雨に飛燕レイン・スワローを振るい、電撃を放つ。

 どうやら、剣に纏わせた電気を全て放出する技らしい。技を放った後、宵時雨に飛燕レイン・スワローの刀身から電気が消滅している。


(〝全ての魔法を粉砕せよ〟――〝マジカル・デモリッション〟)


 鈍色の魔法陣が現れ、電撃を完全に消滅させる。対魔法【破壊魔法】――この魔法の前ではいかなる魔法も無効化される。但し、範囲内であればだが……。


「う〜ん、普通の魔法だとなんとかされるだろうし、少し趣向を変えるよ? 〝引力を高め、万象を引きつけろ〟――〝万象引力グラビテーション〟」


 〝万象斥力アンチ・グラビテーション〟と対をなす魔法――まあ、万●天引みたいな魔法だ。ちなみに、既存にあったものなので、俺が新たに生み出した訳ではない。

 まあ、重量・引力の使い方では引き寄せる、飛ばすは王道だしね。


「〝爆裂魔法ハイパーエクスプロージョン〟!!!」


 そして、俺も射程内に入れたまま〝爆裂魔法ハイパーエクスプロージョン〟。おっ、久々にHPゲージが減った。

 なお、イオンは今の一撃でHPがゼロになり、外に転送された模様。


 ……もしかして、やり過ぎた? 後でみんなかは怒られないといいけど。

 というか、今のがイオンのトラウマにならないといいけど。……本当に今更だけど。

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