【破壊魔法】が分子に分解するのが限度だったり【時空魔法】に時空を捻じて世界に消えない傷を刻んだりする魔法が無かったり全く魔法主体ならもっとバリエーションを用意してもらいたいものだ。

 異世界生活十五日目 場所ラグーランナの森


「〝DIES IRÆ〟」


 呪文を呟くのと同時に光の柱が出現。それが数秒続いた後、さっきまで魔獣が居た地点を中心に円形状にそこだけ草一つ生えない土が剥き出しの場所になっていた。……砂の惑星なのだろうか?


 これが最強の魔術という奴か。ステータスを開くと「〝DIES IRÆ〟RECAST TIME:23:59:59」から順にカウントされている。

 MPは思ったほど消費されていなかった。〝DIES IRÆ〟の厄介なところはどちらかといえば再使用規制時間リキャストタイムの方なのだろう。


「試して見たけど、こりゃ\\やべぇ//な。\\やべぇ//という以外に形容できない。……って気づいたら大沖吹き出しになってる!」


『大沖吹き出しってのはよく分からないけど、確かにヤバイよね。……〝極寒世界ニヴルヘイム〟とかで天変地異とか言われてたけど、それだとコレはどうなるのかしら?』


 隣では聖がため息を吐いている。……というか、知らないの? 大沖吹き出し。結構有名だと思うけど……ってそう思っているのって俺だけ!?


 現在、俺達は自由諸侯同盟ヴルヴォタットの首都ファルオンドを目指して最短距離を移動中だ。

 今はエルフの里から十五分ほどのところにあるラグーランナの森を突破しながらリーファ達は魔獣相手に戦闘訓練を、俺は魔法の試し撃ちをしたりしている。


 何故だかよく分からないが、エルフの里を出た時から前以上に積極的に戦闘訓練を行っている。

 何か大きな心境の変化でもあったのだろうか? ……まあ、これから向こうが嫌だというまでは一緒に旅をするみたいだし、強くなってくれるのならそれに越したことはないのだけど……って、モブキャラの無職にーとが言ってもいまいち説得力無いよな。

 はい、分かってますよ。俺は勇者パーティ白崎パーティのモブキャラです。お前雑魚だからって追放される運命です。……まあ、追放するならそれはそれでかまへんでーなんだけど。


「なんかよく分からないけど、白崎達も頑張ってるみたいだし、俺も少し頑張りますか」


『白崎さん達は他ならぬ草子君に迷惑を掛けたくないから頑張っているんだけど……それで、何するの?』


「とりあえず、厨二病魔法使いの必殺技としてお馴染みの〝爆裂魔法ハイパーエクスプロージョン〟を撃ってから、【空間魔法】、【時間魔法】、【破壊魔法】、【結界魔法】の新作魔法でも編みだそうかと思って。――だって、【時空魔法】には禁技きんぎ時●崩壊ワール●クライシス的な魔法がない上に、【破壊魔法】にも雲●ミスト・ディ●霧消パージョンとかイクスティン●ション・レイ的な感じの魔法が無いんだよ! サイコロ状に分解したり分子に分解するのが限度ってナメてるの! 異世界魔法は遅れてたりするの!」


 全く魔法主体ならもっとバリエーションを用意してもらいたいものだ。宝貝パオペイの方がバリエーションがあるんじゃないのか?

 【即死魔法】も見当たらないし……って、それだと【即死】スキルの価値が低下するけど。


『……というか、それってどれもチート級の魔法とかパワーバランスブレイカーだったりする奴だよね。〝極寒世界ニヴルヘイム〟とかで天変地異なのに、これ以上増やして一体何がしたいの!?』


「全くこれだから藤四郎とうしろは。マロンというものが分かっていない」


『……素人とロマンよね。なんでひっくり返すの? どこの業界用語なの!』


「何? 浪漫派? 島崎藤村の作品なら1897年の『若菜集』から1932年の『夜明け前』まで各種取り揃えていますよ。……えっ? 国木田独歩の方がいいって? 『鎌倉夫人』はやめといた方がいいよ。あれはネチっこい振られた男の視点で描いた小説だから女性受けはまずしないだろうし、現代の男からも共感はほとんど得られない作品だから。田山花袋の『蒲団』も気持ち悪いって感想が来るのが目に見えるからやめとけ……って田山花袋は自然主義文学だった!」


『……なんで本の話に行くかな? 脱線ゲームだよ。どこまで脱線するのよ。ダイア乱れまくりで謝罪乱発だよ! 記者会見だよ!! ……それで、魔法は撃たなくていいの?』


「やるけど……そういえば、聖こそこんなところで油を売ってていいの?」


 そういえば、なんで聖だけ参戦しないんだろう。風邪でもひいて体育を欠席しているのだろうか? ……幽霊なのに?


『そうだ! 打てる戦術は大体試したから新しい魔法を教えてもらえないかと思って。具体的には【影魔法】を』


 おいおい、忘れていたのかよ。ボケが始まっているのか? 若年性認知症なのか? 若年の方が進行早いらしいぞ!


 ……そういえば、聖って〝影縛之拘束シャドウ・バインド〟しか知らなかったっけ? あの特訓の時に聞かなくて良かったの!!

 〝影拳之連撃シャドウ・ラッシュ〟、〝影縫シャドウ・ソウ〟、〝影歩シャドウ・ウォーク〟、〝影槍シャドウ・ランス〟、〝影分身ドッペルゲンガー〟などをとりあえず教えた。……応用効きまくりだけど、初級魔法で本当にいいの!!


 聖を追い払い、早速魔法練習。

 えっと、まずは〝爆裂魔法ハイパーエクスプロージョン〟からか。……って詠唱ないんだけどどうしよう! ……とりあえず、厨二病な台詞を並べればいいか。


「〝黒より昏き漆黒の底より溢れる魔力マナよ。我はその力を揮い狂乱と混沌を齎すことを望む。真紅の爆裂と共に聞ゆは阿鼻叫喚。ああ、五月蠅や五月蠅や……じゃなかった。さあ、狂え狂え狂えよ、死の舞踏を踊れ踊れ踊れよ。盛者必衰、万物万象全テ灰ニナレ……ってそれはグラサンのマダオ。今こそ我が杖より出でよ天地鳴動の究極(笑)魔法〟――〝爆裂魔法ハイパーエクスプロージョン〟!」


 うん、最初のいらなかった。突っ込み混ざっちゃってるし。厨二病詠唱は無理なようだ。

 まあ、発動したけどね。赤い魔方陣がいくつも出現して、中心にバコーンと巨大な爆熱の球体が発生。

 魔獣のついでに森の木々を燃やしてちゃった。「環境破壊とか考えたことありますー?」とか言われそうだな、カエルの被り物を被った後輩クンとかに。


「草子君、何事!」


 白崎達が焦ってこっちに来た。……もう少し落ち着いたらどう? 汗ダラダラだよ。……スポーツドリンクは無いし、良秘薬ハイ・アムリタじゃダメかな? ……ダメ?


「お疲れ様。良秘薬ハイ・アムリタ、いる? 不味さは保証するけどキノコ味じゃないからマシだと思うけど」


「なんでスポーツドリンクを渡す感覚で良秘薬ハイ・アムリタ渡そうとするの! それ、どう考えてもスポーツドリンク感覚で飲むものじゃないから! もっと高尚なものだから。……ってそういうことじゃなかったわ。さっきの何だったの?」


「〝爆裂魔法ハイパーエクスプロージョン〟。エルフの里の図書館にあったから試してみた。撃ったのが厨二病魔法使いじゃない上に、撃ってもぶっ倒れるどころかMPゲージが全然減ってないのは期待を裏切ったようでごめんなさい」


「……ぶっ倒れた方が困るぞ」


 と言ったのは朝倉。……こっちもちょっと消耗しているな。良秘薬ハイ・アムリタ、いる? ちなみに音は似ているけど「ぽ●ち揚げ食う?」じゃないよ!


「ところで、そっちはどうだ?」


「この辺り一帯の魔物はどうにかできるけど、目標は程遠いって感じかな」


「まあ、そうだよな。白崎さん達の目標は勇者だからな。うん、山あり谷あり起伏激しく険しい道だと思うけど、まあガムバレ」


「勝手に目標を変えられたよ……私達の目標はもっと遠いんだけどな」


 なんですと! 勇者よりも先を目標としているんですと! 流石は意識高い女子だ。中身が伴っている系がつかない方の。きっと女子力(物理)も高いのだろう。男子力(文学)しかない俺とは雲泥の差だ。……爪の垢を煎じて飲んだ方がいいのだろうか? というか、飲んだら【異食】発動したりしないかな? ……しないよね?


「ところで、草子君は何をしているの?」


「今〝爆裂魔法ハイパーエクスプロージョン〟を撃ったから今度は新魔法の開発かな。とりあえず、任意の空間の時空を捻じることで空間ごと破壊する的な魔法と敵の体を元素レベルに分解する的な魔法を作ろうと思っているんだけど、どうかな?」


「どうかな……って言われても、そもそも言っている意味が分からないよ。それってラスボスが使う技とかだよね? なんで適当に作ろうとしてるのかな? そして、草子君だから作っちゃうんだよね。……草子君って本当ににーとなの? 実は魔王とか無いよね?」


 失敬だな。モブな俺が魔王な訳ないだろ! 大体魔王ってのはごっついおっさんか美少女が妖艶な美女だって相場が決まっているんだ(稀に違う人もいるけど)。コミュ障で魔王プレイをしている人とかね。

 そもそも、こんな目つきの悪い三白眼が魔王な訳ないだろう?


 えっ、魔王よりヤバいって? というか、最早チートキャラだって? 嫌だなぁ、絶対支配者オーバーロードとか自称商人の元ゲームクリエーターとかと戦ったら即死亡ですよ。……クビハネ女王は基本脳死プレイだしなんとかなる、のか? 悪魔の壁はなんとかいけるか。


「そいじゃまあ、時空を捻じる魔法から。〝時空を歪め癒えることなき傷を世界に刻め〟――〝スペースタイム・コラプシス〟……的な」


 ……できちゃったよ。時空間が歪曲させて周囲のものを呑み込んで消しとばした。

 試しに枝を拾って投げてみる。そしたら、吹っ飛んだ。永続だ、一生消えない傷だ。……まあ、詠唱でもそう言ったんだけど。


「〝世界を構成する有象無象よ、元素となって、新たな世界を作る糧となれ〟――〝エレメント・スキャター〟」


 エルダーワンドを適当な木一本に向けて適当な呪文を唱える。

 鈍色の魔法陣(〝マジカル・デモリッション〟とは違う魔法文字が書かれているけどさっぱり読めない)が一瞬現れ、消えるのと同時に木が青白い輝きを放って四散した。


「こんな感じかな? まあ、こんだけあれば問題ないだろう。というか、【即死無効】持っている奴に〝スペースタイム・コラプシス〟って通用するのかな? 空間ごと吹っ飛ばされるし、寧ろ死ななかったら怖いんだけど」


「……少なくとも【即死無効】持ちを相手に作戦を立てている時点でモブキャラじゃないよね! そろそろ、認めた方がいいですよ、草子さん」


 リーファよ。俺のどこに主人公の風格がある? だって無職ニートだぞ! 無職ニート。そんな奴を主人公にしたライノベなんて……あったわ。

 もしかして、俺が主人公でも問題ないのか? ……いや、こんな変態が主人公なんてあり得ないっしょ。


「後は【魔法剣】を試してみたいけど、それはまた今度にしよう。そろそろ暗くなりそうだし、森を抜ける? それともエルフの里かアルルの町に帰る?」


『「「「「折角来たのに帰っちゃダメでしょ!」」」」』


 あれ? ダメなの? だってみんな野営の用意持ってないでしょ? 俺、絶対貸さないよ。テントは人数に合わせて勝手に広くなるらしいから広さ的には問題ないけど、女子と一緒に寝ると何言われるか分からないし、色々面倒そうだから却下だし、ダッチオーブンは俺が美味しく野性味溢れる食材を味わうためのものだから貸せと言われても貸さないよ。


「いや、ドラゴ●クエストのルー●的な魔法を手に入れたから戻れるよ。しかも上位互換みたいな感じだから、【マップ】を開いてピン差ししておけばこの地点から冒険を再開することもできるし。……みんな、野営の用意とか持ってないでしょ? お金あげるからアルルの町のソロキャン亭っていうアウトドアショップで買って来たら? 明日の朝に迎えに行くから」


『ということは、草子君は来ないんだね。……そのまま置いて行ったりしない?』


「これでもなんだかんだで約束は守る方だと思うけど……そんなに信用ない?」


『実際に何度も置いていこうとしたじゃない』


 ……まあ、そうなんですけどね。聖とリーファは変態だから置いて行きたかったんだけど、白崎達は「よかれと思って」だからね。……本当になんでついて来たんだろう? 俺に付いてくるメリットなんて全くないのに、本当に意味不明でワケワカメだよ。

 まあ、約束しちゃった訳だし、向こうから脱退宣言されるかパーティを追放されるまでは一緒に旅をするけど。


 〝移動門ゲート〟を発動して、白崎達を送り届け、一人でソロキャン……ってあれー?


『えへへ、戻って来ちゃった』


 なんで聖だけ残っているの? さっきちゃんと〝移動門ゲート〟を潜ったよね?


『よく考えたらあたし、キャンプ用品要らないじゃん』


 そういえば、そだねー。幽霊ってキャンプしないよね。


「……白崎さん達と女子会して来てもいいんだよ」


『久しぶりに草子君と二人きりで居たいなって思って……ダメ?』


 なにそれ、愛の告白的な何か? いや勘違いですよね。まさかねー。

 いや、別にいいっすけど。今から兎でも捕まえてダッチオーブンに放り込もうかなって感じですけど……絶対にあっちについて行った方が美味しいもの食べられるよ。


「そいじゃ、まあ。なんか食べられるものを探しにレッツゴー。見つからなかったら俺もどっかに食いに行こっかな」


『……異世界で「腹減ったからコンビニ行こう」のノリで〝移動門ゲート〟を使うのは多分草子君くらいしかいないと思うよ』


 ……失敬だな。似たような魔法で(ただし無属性)で他国に行ったりする超フットワークの軽い王様には流石に負けるぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る