賭け

「お前のこと、いろいろ調べさせてもらったからな。行動範囲はわかってる」

「それは……、どうも」


 何と答えたらいいかわからない。というか、冷静に考えたら結構怖いな。知らない人が自分の個人情報知ってるって。


「それで、その一博さんが僕に何の御用でしょうか」

「さっきの話も聞いてたからな。お前が合いたいならその仲介をしてやってもいいって話だ」


 ……ありがたい話ではある。だけど、この人がとなると何か企んでいるような気がしてしまう。


「大木、いきなり言われても拓海には何が何だかわからないんじゃないかい?」


 そんなことを考えていると、横にいたエリさんが声をかけてくれた。重苦しい空気を察してくれたのかもしれない。


「えっと、知り合いなんですか?」

「去年のクラスメイトだよ。だからそれなりには知ってるかな。それに自己紹介もなしじゃ混乱するだけじゃない?」

「あ、ああそうだな」


 エリさんの言葉に恥ずかしくなったのか、一博はコホンと一つ咳払いをする。


「俺の名前は大木一博という」

「えっと、宮野拓海です」

「ああ、知ってる」


 調べたなんてことも言ってたもんね。


「それでその、俺は文乃の、お前と同じ立ち位置にいたんだが、何といったらいいのか……」

「文乃先輩にからかわれてた人、ですか?」

「そう、それだ!」


 まあ、わかるよ。先輩もそんなこと言ってたし。


「それで、僕に何の用ですか?」

「さっきの話は聞かせてもらった。文乃に会いたいが連絡がつかないんだってな」

「まあ、そうですが……」


 そう言うと、一博は体を乗り出してきた。


「だから、俺がそれを仲介してやる」

「先輩の家知ってるんですか?」

「いや知らん」


 なんだよそれ! 知らないんじゃどうしようもないじゃん!


「だが、俺が呼び出せば文乃は来る。ほぼ確実に」

「そんなことわかるんですか?」

「俺の勘だ」


 勘かよ!?


「文乃は一人で解決しようとする。だから、きっとくる。俺と決着をつけにな」

「なるほど……」


 まあわからなくはない。それに、先輩曰く一博とは小中と同じ学校だったらしいし。


「だからそれについてこい。そうすれば、文乃と話せるだろ」


 しばし考える。なるほど、確かに勝算はありそうだ。先輩が一人で抱え込んで一博の呼び出しを受けるのもありえなくはない。というか考えれば考えるほどそんなことをしそうな気がしてきた。

 それに、僕がこの申し出を受けなかったとしても一博は先輩を呼び出すだろう。となれば、その後はチャンスが回ってくるだろうか。


 ……まず確実に来ない気がする。これは蜘蛛の糸だ。僕にとっては先輩との気まずい空気をする最後のチャンスだ。これを逃してしまえば先輩とは会えなくなるのではないだろうか。


 でも、だからこそわからない。これは僕にとってメリットのある話だ。だけど一博にとっては? 仮に、もし仮に僕と先輩がくっついたら、それこそ先輩に恋い焦がれている一博には間に割り込むすきが無くなる。メリットなんて見えない。だからこそ、怪しい。これは僕を騙すつもりなんじゃないのかって。


「あなたは、何を考えてるんですか?」


 分からない。だからこそ、直接問い詰めることにした。

 顔を近づけて圧迫感を出そうにも不敵に笑われるだけだったけど。


「そうだな。その代わりと言っちゃあなんだが、俺の提案に乗るなら一つ言うことを聞いてもらおうか」


 ふうと息を一つ吐く。


「俺と、一つ賭けをしてもらいたい」


 そう言って一博が話した内容は、驚きに値するものだった。

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