第7話 「あむど」(@amudomdmd 様)

「その日、その時は、だれも知らない。天使たちも子も知らない。父だけがご存じである。気をつけて、目を覚ましていなさい。」

「主人が突然帰ってきて、あなたがたが眠っているのを見つけるかもしれない。あなたがたに言うことは、すべての人に言うのだ。目を覚ましていなさい。」

(マルコ13:32-37より抜粋)


 どうして、それが正しいと言えるの?そんな疑問を口にすると、多くの人が困ったように苦笑したり、話をそらしたり、酷いときには激昂したりする。幼い頃から、そうだった。納得がいくように話して欲しかっただけなのに。


 すこし成長すると、どうやら自分が疑問に思うようなことには目をつぶるほうが生きやすいらしい、と気がついた。「みんな」の側に行くためには、「みんな」と同じように目隠しをしなければならないのだと。しばらく、そんなやり方に話を合わせてみた。自分という存在が、上っ面で塗りつぶされて、死んだ魚のように腐っていくのを感じた。


 学問の道に進むと、少しずつ仲間が増えた。それでも、積み重ねの方向性が違うせいで話が通じないこともあるが、息をするのが楽になった。


 生きている、と言うために必要なのは、自覚と、責任と、本質的な問いから目を背けない勇気だ。誠実に生きることは難しい。不誠実であることが、この世のスタンダードだからだ。それでも、自分は、目をつぶらないことを選ぼう。

 

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