第35話 加齢だから転倒するのか?~ストレッチ

「そうだ。最後に環境に起因する転倒リスクだ」

「城内は、絨毯が敷かれています。これは、歩く際の靴音を消すだけではなく、見栄えを考えたものですが、これも関係あるのでしょうか」

「ある。絨毯そのものが絡んでいるとそこで靴が引っかかり転倒する。また、床面の段差は、絨毯を敷くと分かりづらい。何もないから段差に気がつかずに転倒する可能性が高い。絨毯の洗浄作業中も、滑りやすくなる。床面に荷物を置くことも危険だ。荷物のことを知らないまま、足をぶつけて転倒することになる」

「なるほど。絨毯にも善し悪しがあることが分かりました。それでは、そのリスクをどうすれば、減らせるのでしょうか?」

「簡単だ。リスクを生じさせる行動を取らないこと。具体的には、別の作業をしないで、歩くことだけだ。体調を整え、適度な運動で身体を適切な状態を保ち、靴のサイズは足のサイズに合ったものを履く。絨毯の状態は、こまめに洗浄をして、絡まりを解きほぐすこと」

「しかし、仕事が多いと適度な運動は難しいのですが」

「そういう時は、身体をほぐすストレッチを考える」

「ストレッチ?」

「身体の筋肉を伸縮させて、良好な状態に直すことだが」

「ストレッチで、足の筋肉を伸ばしたり縮めたりすることですか」

「その通りだ、それがストレッチによる身体…筋肉をほぐすということになる」

「どれくらいすればいいのでしょうか」

「30秒くらいを2回。1分程度でいい。難しくはない」

「例えば?」

「椅子に座った状態から頭の上で両手を組み、その両手がそのまま上に引っ張られるように伸ばす動作をゆっくりする。じりじり上げると効果が大きいぞ」


それを聞くと、言われたとおり、腕を伸ばす、王さまと長兄王子。


「これは、いいですね。腕が伸びていくという感じがあります」

「うむ、これは良いことを聞いた。身体が伸びる感じもある」


長兄王子と王さまもやってみて、実感したようだった・


「身長が伸びるかどうかは分からないが。その次に、その両手を解いて、椅子に座ったまま頭を前の方へ倒していく。この時は、身体の力を抜けば首から背中にかけての筋肉が伸びるぞ」


やはり、先生の言ったとおりにする2人。


「なぜ、苦しい?」

「これもいいですね」

「王さま、自分のお腹を再確認したら原因が分かるぞ」


王さまは、少しお腹が邪魔になっていたことに衝撃を受けているようだ。


「最後に、足の甲を持ってゆっくり後ろに持ち上げる。ゆっくりやらないと、大変な事になるぞ。本来なら立ってやるが、座ってしても問題ない」


椅子に座ったまま、長兄王子がやってみる。


「伸びているのが実感できますね」

「こういうストレッチを2~3回繰り返す。ストレッチ中は、呼吸を止めないでゆっくり自然にする。あと注意事項だ。動作に勢いを付けたり無理矢理な動作は、逆効果。自分なりの気持ちが良いところまでがいい」


お腹が邪魔になっても、その途中でもいいと聞かされた王さまは、安堵の表情になっていたが、それを見ていた長兄王子も先生も何も言わなかった。


『結構、気にしていたのか』と思いながら。


先生として招かれた召喚者は、過去に仕事場のドアの段差で転倒して、骨を折ってしまい、重傷と言われたときから、転倒によることを勉強して、自分なりの答えを参考にしたと言っていた。

運動と言っても、過酷な運動ではなく、毎週約150分、毎日に直せば約20分程度歩くだけでもいい。意識して歩くことで、運動としての効果はある。


「分からんとは思うが、通勤で歩くのはカウントしないぞ。あくまでも意識して運動として歩いた場合に限るんだ」


理由は、そういう文献とそういうシンポジウムに出た際の情報だと言う。


今までの召喚先生の中で最も有意義な先生だったと思いながら、送還。元の世界へと帰って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る