改札口と呼ばれた私
ムーララ
改札口と呼ばれた私
いつもの朝。
私「おはよ!」
「うん、おはよー!」
私「おはよ!」
「おはー」
私「おはよ!」
「おはようございます」
私「おはよ!」
「おはよ!」
私「・・・・・・」
私には、挨拶をすれば挨拶を返してくれる友達が沢山いる。
だけど、彼らの中のたった一人とも、挨拶以外のつながりはない。所謂よっ友——顔は知ってるがそれほど仲良くはなれていない友達——というやつだ。
けれど、私は挨拶する時は必ずハイタッチすることにしている。相手が誰であろうとだ。
その点において、私とよっ友たちの関係性は、そこら辺の大学生とそれらとのものよりは幾分かマシなんじゃないかと思う。
ハイタッチの音が半規則的なリズムを作り、よっ友の列を消化していく。
(みんな、今日も朝からご苦労さんです。)
声に出してもみんなは何語を喋っているかわかならないけれど、敢えて心の中で呟く。
私と彼らのつながりは
一度。
彼らの中の一人と、もっと距離を詰めようとしたことがあった。
別に懇意にしていたわけではないが、私の
彼はいつも、朝私の差し出す手を触れるか触れない距離で通っていた。
時には指先だけ、時には皮一枚、時にはしっかりと。
私が最大限腕を伸ばしてるのに、彼の方はだるそうに手をぶら下げるだけ。
お互いがお互い、同じ距離だけ手を差し出して挨拶を交わす。そんな、当たり障りのないハイタッチしかしてこなかった私にとって、彼とのハイタッチは新鮮だった。
けれど、日が経つにつれて私と彼とのハイタッチを目撃したよっ友が私に、彼が思い人なのかと問い詰めてくる事が増えた。
なんて不快な距離の詰め方。
貴方とのハイタッチ、私は真ん中までしか手を伸ばしてなかったはずよ?
でも、
たしかに全力で手を伸ばしてるハイタッチなんて、私が彼に想いを寄せてるみたいで恥ずかしかった。
来る日も来る日もスレスレ。
他のみんなが手と手を合わせてハイタッチしてくれる中で、彼だけ空振り。
そんな、焦らしに焦らされた私はある日、勇気を振り絞って彼の進路に回り込んだ。両手を広げて進路を塞ぐと、彼は困惑したように言った。
「ど、どうしたの?」
「あ、あなたね!私が頑張って手伸ばしてるのになんでちゃんとハイタッチしてくれないのよ!」
しまった。緊張少し声がうわずってしまった。
うぅ、しょうがないじゃん、だって初めてなんだもん。
私に詰められた彼は、顔を真っ赤にして口籠る。
「え。うぅ、だって。女の子の手触るなんて緊張しちゃって…」
今度はこっちが赤面する番だ。
「女の子…。そんな事初めて言われた…。」
「…え?」
「まままぁつまりよ!これからはしっかりハイタッチしなさいよね!」
私は歩けない。不器用で、振り返れもしない。
だから
ただ毎朝、彼らが私の横を颯爽と歩いていくのを見つめ、
ただ毎晩、疲れた後ろ姿が家へと向かっていくのを眺めている。
朝と晩。
唯一の彼らとの接点であり、隔たりを感じる刹那である。
たった一人を除いて。
「おはよ!」
——————パチン!
改札口と呼ばれた私 ムーララ @nakamu_1
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