第13話 街で出会ったヒャッハー軍団 ~昭和のかほりを添えて~

「じゃあ僕らも行ってきますね?」

「はいっ、コーイチさん、お気を付けて。」

「ふん、我がついておるのじゃから心配するでないわ。」


 プリシラを見送って洗い物や洗濯をちょちょいと済ませると、僕とエシェットは王都を目指す。ギルドのキャロルさんに仕事をお願いされたからね。よこしまだけどお金のためってよりも、しっかり仕事してるとこを見せてプリシラに尊敬されていたいってのが大きい。

 因みにエシェットは外出するときはいつも僕の護衛を買って出てくれている。でも国家戦力並みの護衛とかエグイな~……。頼むから危害を加えるような人、絶対来ないでね! 何よりあなたの命のために!


「じゃあマウ、ここは頼んだよ?」

「うむっ! 任されたのじゃ主殿っ!」


 目の前をパタパタと飛びながらふんぞり返るマウをひと撫でして外に出る。

 マウに何を任せたかと言うと、それはキャンピングカーの保持。僕らが出かけ、サミュエルたちもクエストへ出かけてしまうとここにマウだけとなってしまう。単純にお留守番というだけならいいんだけど、このキャンピングカーを見られるとマズイことになりかねない。

 だから精神魔法が得意なマウに周囲に結界を張ってもらい、任意の人物以外は認知できないようにしてもらう。マウはホント、可愛いし頼りになるし可愛いし可愛いし……ついつい甘やかしちゃうのも仕方ないでしょ?


「マウにお土産買って帰らないとな~」

「まったく……コーイチは奴に甘すぎじゃ!」

「そ、そうかな?」

「わ、我だってたまには……その……」


 木漏れ日の下、隣を歩きながらモジモジするエシェット。見た目は可愛い女の子だからそうされると弱い……が! 下手な真似したら消し炭にされかねない問題もある。だから恐る恐る……


「いつもありがとうね、エシェット。」


 頭を撫でてみる。かなり年上の彼女に対して失礼かなとも思うけど、大丈夫だよね? 火とか吐かれないよね?


「お、おぉ~…! う、うむっ! 人間にこんな真似、お主以外には絶対に許さんのじゃが……た、たまになら良いぞっ! うむっ!」


 思ったよりもご満悦だった。

 実はこのふわふわな髪をいつか撫でてみたいと思ってたんだよね! たまになら良いとお許しも得たことだし、これからは機を見てしよう!

 なでりなでり……

 それにしてもこの手触り……シャンプーのおかげか? TSUBAKI半端ねえな。それとも地なのか? サラサラふわふわで癖になる。絵面はどう見ても事案なんだけど手が止まらない。

 なでりなでり……


「こ、これっ! お主いつまで撫でておるのじゃ!」


 なでりなでり……


「や、やめぬかぁ~……! じゃないと我は、もう……!」


 っと、いけね! ついやり過ぎてエシェットの息が荒くなってたことに気が付かなかった! 顔が真っ赤で口元がヨレヨレになった彼女。

 ……お、怒ってはないみたいだけど……気を付けよう! うん!


「っ~~~……!」

(あ、危うくテイムされるとこじゃった……! こ、コーイチなら構わんが我とて初めて故、心の準備が……)


 身体が微かにプルプル震えてるのは……なんでだろ。危うく火を吹きそうになったのかな?

 とまあ、そんなことをしているうちに王都へ到着~。近場の森の中からだから徒歩15分ってとこなんだよね。立地はまあまあ悪くない。

 勝手知ったる入口の衛兵さんにペコっと会釈して入ると、いつも通りの賑わいを見せる街並みが広がっていた。

 野菜を売ってる出店のおっちゃん、肉屋のおばちゃん、教会の孤児院の子たちは今日も元気だ。声をかけてくれると僕も嬉しくなって手を振り返す。こういう人の繋がりって良いな~。日本にいた時はそういうのがどこか希薄だったから尚のことそう感じる。アパートの隣の人とか話したこともなかったし。

 それに、人との出会いって大事だと僕はこの世界に来てしみじみ思った。だってプリシラと出会わなければ僕はあの車で一人ぼっちだっただろうし、孤独に苛まれてたと思う。彼女と出会ったから、調子に乗って車を飛ばし、エシェットの領域に突っ込んでしまった。そしてそれらはサミュエルたちとの出会いも生んでくれて、考えれば考えるほどプリシラに感謝だね。あとあの名も知らぬ奴隷商人さん。結局あの時はあのままにしちゃったけど、今度向こうに行った時お墓を作ってあげよう。


「あっ! マダラメさん、来てくださったんですね!」

「ええ、約束しましたから。」


 僕らは冒険者ギルドに到着するとスイングドアを抜けてすぐに受付嬢のキャロルさんに声をかけられた。首を長くして待ってたって事は余程困った案件なのかな?


「本当に助かります! 依頼主が依頼主ですので困ってしまって……」

「確か大貴族って言ってませんでした?」

「ええ、それもあのマルグリット家が相手ですから、害虫駆除とは言え絶対に失敗できません。その点、マダラメさんは前回の依頼者から害虫駆除の依頼としては珍しく追加報酬までいただいた方ですから、その手腕を見込んでぜひお願いしたいなと……駄目でしょうか?」


 失敗できないのはかなりプレッシャーだけど……って、ん? マルグリット家? あれ、それってどこかで聞いたような……

 僕が思い出そうと顎に手を当てて唸っているのをキャロルさんにしてみれば渋っているように見えてしまったのか、次第にしょんぼりと項垂れる。プリシラもそうだけど、エルフ族って感情が耳に出るのかな? 特徴的な耳先まで一緒にしょんぼりして見える。

 と、いけないいけない。早く答えてあげないと!


「ああいや、ごめんなさい、ちょっと考え事してただけです。僕で良ければやりますよ。」

「ほ、ホントですか?!」

「もちろん! 他ならぬキャロルさんの頼みですから!」

「ふぇ?!」


 あ、耳が真っ赤になった。でも何故このタイミングで?

 底辺ステータスの僕を安く見ることなく、いつも僕が出来る最大限の仕事を斡旋してくれてるからその恩返しのつもりだったんだけど……。

 実際のところ、依頼未消化期間の超過によって僕がギルドから除名になってしまうことは無い。何故ならサミュエルたちのパーティーメンバーである事により、彼らの成功が僕にも加算されるから。だから自分で依頼を熟す必要はないんだけど……それって何かお荷物みたいでイヤだった。底辺でも底辺なりにカッコつけたいんだよ。プリシラの前では特にね。

 それもあってなるべく自分の出来る仕事は熟しておきたかったんだけど、そこに来てキャロルさんは僕にも出来るような仕事を吟味して斡旋してくれてた。おかげでサミュエルたちの加算分も加えて底辺でも今やCランクまで上がることが出来たんだ。これでプリシラが学校で「や~い!お前の兄ちゃんFランク~!」とか言われずにすむ。

 そういう意味でもキャロルさんには感謝してもしきれないのだ。


「じゃあ依頼書は持っていきますので、帰りにまた寄りますね。」

「は、はいっ! お待ちしております~!」


 手を頬に当ててウットリって感じで見送られるとなんとも落ち着かない。この世界では男女の価値観が元の世界とは違うから何か思わせぶりなことを言ってしまったのだろうか。女心と秋の空とは言うけど、あの王様やらタバサさんのお姉さんを見てしまうと秋の空どころかゲリラ豪雨のように思えるから言葉には気を付けないとな。

 元の世界とは男女の考え方が真逆っぽいから、元の世界の男性が如何なものだったか痛感。いや僕もその一味なんだけども。


「えっと……場所は貴族地区だから教会のある東通りを抜けた先か。」

「うむ。コーイチも大分この世界の街に慣れたようじゃな。」

「あはは、流石にね。」


 街には毎日ではないけど顔を出してるし、今では知り合いも多い。インドアに徹したいと思ってたのが嘘のようだ。まあ、この世界に来た時は勝手に「怖いところだ」と思ってたからさ。だってドラゴンとかいるって言うし……いや横に居るんだけど。こんな可愛いドラゴンが。


「今日こそは耳揃えて払ってもらうぞコラァ!」

「そ、そんな、お金なんて……」

「だったらガキの一人や二人貰っていっても文句は言えねぇよな? あぁん?」

「そ、それだけは……!」


 教会の前を通った時、かなりコテコテな現場と出くわしてしまった。

 見るからにヒャッハーな女性たちに囲まれて涙ぐむシスター。彼女の事は過去に依頼で知り合ってからの付き合いだから良く知っている。

 名前はピピ。黒髪のぱっつんヘアーにちょこんと帽子を乗っけて、首から頬にかけて鱗が見える蜥蜴人リザード族の女性で、孤児院も運営しているこの小さな教会をほぼ一人で賄っている。ちょっと気弱だけど、多くの孤児たちを引き取っては面倒をみている聖職者の鏡のような人だ。


「ちょ、ちょっと! あんた達何してるんだ!」

「マ、マダラメさん?!」


 そんな人だから、この現場を見て放っておくことなんて出来なかった。


「あぁん?」


 声をかけると一斉に振り向くヒャッハー達。

 こ、これはかなりの迫力だ……。たまにテレビで取り上げられてた昔の不良、レディースだっけ? まさにあんな感じの人たちが、まさにあんなコテコテな服装でこちらを睨むものだからさて困った。

 今日から俺は! とか言ってデビューする気はさらさらないぞ僕は!


「ひゅ~!!」

「何かと思えばイイ男じゃん!」

「この地味っぽい感じ……スケバンの好みなんじゃないっスか?」


 スケバンて……誰だよそんな言葉をこの世界に持ち込んだ人は! ってうん、アレか。数十年前に居て魔族とドンパチしてたって言うあの人しか居ない。きっとその人はヤンキー最盛期の1980年代ごろにブイブイ言わせてた人なんだろう。

 隣のエシェットをチラッと見ると、僕の考えてることが分かったのかため息交じりに頷いていた。


「たまんね~! ガル姐んとこ連れてく前に味見しちまおうぜ!」

「殺されても知らないっスよ?」


 ヒャッハーな会話が続いている。でも今はそんなことよりも、


「あ、あの……その人、ピピさんは僕の友人なんです! 何かあなた達を困らせることをしてしまったのなら僕が謝りますから!」

「ハァ? 謝られても腹は膨れねぇんだよお兄さん。」

「こいつ、うち等“子悪魔連合”のシマでショバ代も払わず薬草はっぱだの回復薬ヤクだの売ってやがったんだ。今日こそは耳揃えて全部払ってもらわねぇとな。」


 またそんなコテコテな……! てか君たちの名前! わざわざ“子”って付けちゃってるから可愛くなっちゃってるよ?! ホントにそれでいいのか?!

 隣のエシェットは臨戦態勢なのか、口から黒い瘴気みたいなの出てるし。こんなとこで絶対やめてね? ここら一帯が焦土になるから。


「……分かりました。なら僕が代わりに払います。」

「オイ、コーイチ!」

「マダラメさん、そんな……!」


 うん、エシェットの気持ちはわかるよ? こんな奴らになんでって思ってるんでしょ? でもなんか、そんな悪い人たちには思えなくてさ。もちろんやってることは強請ゆすりだから悪いんだろうけど。何となく背伸びして強がってるだけって感じで……。歳も僕より若く元の世界なら女子高生くらいの年代だと思う。

 唖然としているピピさんの前に出て、僕は財布代わりの巾着袋を取り出した。


「へっ、金貨3枚なんて金持ってるのかよ?」


 金貨3枚か。確か銀貨10枚で1万円くらいだったから……銀貨100枚で金貨1枚とすると……さ、30万円?! 相場は分からないけど高ぇよ! なんか子供が適当に「ひゃくまんえん!」とか考えたみたいだよ!

 でも仕方ない。ここはピピさんだけじゃなく、懐いてくれているこの孤児院の子供たちのためだ。……かなりインチキっぽいお金だけは馬鹿みたいに持ってるからね。まあ塩とか胡椒を換金するのはなんか心が痛むしこんなことホイホイは出来ないけどさ。

 僕は巾着から金貨を3枚取り出して×マークの付いたマスクをしたヒャッハーに手渡した。

 ……手を取ってそこに乗せただけなんだけど、顔が赤くなってるのは気のせいだよね?


「なっ、ほ、ホントに持ってやがった?!」

「これで全額でしょ?」

「は、ははは、早くガル姐に持って帰るっスよ! 絶対なくしちゃダメっすよ!?」

「こんな大金初めて見たぜ……! お、オイ! リンダ! 呆けてないで早くヅラかるぞ!」


 終始ポカンとしているピピさんだったけど、ヒャッハーたちは大慌て。マスクちゃんはリンダって名前なのか。

 そうして、ヒャッハーたちが大慌てで走り去っていくのを僕たちはただ見送るのだった。

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