研鉱譚萃

ホイスト

お題: 石 水 空

石 水 空


この川へ来るのは何年ぶりだろうか。

18歳の時に故郷を出て、都内の大学に行った。

それから、2年たった夏休み。久しぶりに帰省したら小さい頃によく遊んだこの川を思い出した。

せせらぎ、ヒヤッとした冷たさ、光る水面。

一つ一つ思い出す度、もう一度感じたくなってきた。

窓から空を見上げると雲は一つくらいしかない快晴。

行ってみようか。


よく座っていた岩はまだ佇んでおり、腰掛けて表面を撫でてみる。

川に目を向けると、太陽に照らされ、キラキラと水面が光っていた。


こうしていると昔の思い出が蘇ってくる。

小さい頃はあまり遊ぶ場所が無く、よくここで遊んでいた。

……いや、他にも遊ぶ場所はあった。山の中や畑、牧場なんかでも遊んでいた。

でも、遊ぶ頻度が一番高かったのはここだった。

ここには他の場所に無いものがあったんだ。

ものと言うより、人がいた。

僕より少し歳上のお姉さんだ。当時はお姉ちゃんってよんでたけど。

そのお姉さんと遊ぶのが──と言うより、そのお姉さんが好きで、ずっとここに来ていた。

やる事は少なく、川原に座って喋るか、石切りだ。


思い出に浸っていると、また石切りをしたくなってきた。

周りに手頃な石が無いか探す。

ある程度、平で丸い手の平に納まる石がいい。

丁度いいサイズの石を見つけた。


どんな風に投げてたっけ……確か……。

中指と親指で平らな部分を挟み、縁に人差し指を掛ける。

水面に当たる時、平らな部分が当たる様に少し傾けて構える。

少し振りかぶって──投げた。

1…………2……3……4! 4回跳ねた!

久しぶりにしては上出来ではないかな?


「上手い、上手い!」


急に女性の声が聴こえた。

驚いて声の方へ振り向く。

そこには、あのお姉さんが立っていた。

身長が伸び、顔も大人っぽくなった。それでも、お姉さんだと分かる。


「お姉……ちゃん?」


驚きのあまり、昔の呼び方をしてしまう。

お姉さんは微笑み、久しぶり、と言う。


水面の反射に照らされて、お姉さんが輝いて見えた。

それがとても美しく、あの頃の好意を思い出し、胸が熱くなってくる。


「次は私の番だね」


お姉さんはそう言うと、手に持っていた石を構える。

既に手頃な石を見つけていたらしい。

昔の様に構え、投げた。

石に目線が釣られる。

1……2…………3……4…5…6!

6回も跳ねた! すごい!


もう一度お姉さんの方へ振り返ると、そこには誰もいなかった。


驚き、周りを見渡してもお姉さんの面影は無い。

また会えたのに、直ぐにどこかへ行ってしまった。


そして、また一つ思い出す。そういえば、僕はお姉さんの事を何も知らない。

名前も住所も、食べ物は何が好きかとかどういう人が好きかとか。

あの頃の僕はここに来たらお姉さんがいる、それだけが重要だった。不思議とそれ以外気にならなかった。

お姉さんは一体、何なのだろう。

でも、そんな事はどうでも良くて。

あの頃の様に、沢山お喋りしたかったな。


気分が落ち、それに追随する様に顔を落とすと、丸い石が見えた。

それでまた、一つ思い出す。

僕はいつも帰りたくなくて、お姉さんと一緒に居たくて、でも帰らなくちゃいけなくて。

お姉さんに対して身勝手で我儘な約束を押し付けていた。


石を拾う。

──もう帰らないといけないや。

水平より少し傾けて構える。

──僕は投げたから、次はお姉ちゃんね。

投げる。

──……5…6……7…8! 八回跳ねた!

1……2…3回、跳ねた。

──次は僕だけど、もう帰らないと行けないから

──また今度、僕が投げるまでお姉ちゃんは投げちゃダメたからね。

──絶対また来るから、忘れないでね!

「……次、お姉ちゃんだよ」

じゃないと、今度は僕が投げられないから。

絶対、また来てね。

風が水面を揺らしていた。




そろそろ帰ろうと振り返ると、お姉ちゃんが大量の石を抱えて嬉しそうに笑っていた。






───────────────────

以下プロットです。

なんか消すのも勿体無いので載せときます。


故郷の川原へ久しぶりに来た青年

キラキラ水面が光ってる

手頃な岩に座り思い出に浸る

とあるお姉さんと遊んだ記憶

その時によく遊んだ石けりをしたくなる

手頃な石を探し、昔の記憶を頼りに投げる

1…2…3…4! 4回跳ねた

そこへ、「上手い、上手い!」と声を掛けられる

右を見るとあの時遊んだお姉さんが微笑んでいた

少し保おけて、ついお姉ちゃん、とあの時の呼び方をしてしまう

「久しぶり」

水面の反射に照らされた彼女が輝いて見え、また惚けてしまう。

「次は私の番だね」

お姉ちゃんは手頃な石を既に探していたのか、手に持った石を構えて、なげた。

1…2…3…4…5……6!

すごい!

お姉ちゃんの方を振り返るとそこには誰もいなかった

色々話したいことがあったのに

俯いて見えた丸い石でまた、思い出す。

そうだ。いつもまだ遊びたくて、まだ別れたくなくて、自分勝手な約束を取り付けていた。

石を拾い、投げる。

今度は3回で落ちてしまったけど

「僕は投げたから、次はお姉さんの番。

お姉さんが投げないと僕が投げられないから、絶対にまた遊ぼうね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る