第96話【それは大作か駄作か……でも自分的には金賞です】

 MCまかいちゃんの卓越した掛け声により、熱を帯びた猛者達の手には、徹夜で製作されたであろう代物が沢山見受けられる。


 会場前方に設置された大型モニターにより、多数の編み物が画面に映る。


 影武者が視認できる限りでも、〝クマの縫いぐるみ〟〝マフラー〟〝セーター〟etc……数え出したらキリがない。


 そこで、やはり気になるのが注目株5人の作品――――


『ほう、武力のみで名を上げた者でも、意外とちゃんとやってるんだなぁ……』



〝無極のシャゼ〟:極彩色の糸を大量に使っているのか、もはや芸術過ぎて分からない毛玉の塊。


〝麗美のレミリ〟:自身が自慢の作品だと、言いたげな表情で奇抜かつ露出度が高い、お手製の服を着ている。


〝崩星のノーメン〟:胸の真ん中に大きなハートがあしらわれたセーター。


〝赤骸のムラサメ〟:泥んことかげのミニチュアパペット×2匹。


〝豪鬼のテンザ〟:亡き妻へと捧げる100本の薔薇型のハンドタオル。


 MCまかいちゃん『それでは、出揃ったみたいなので超特別審査員スペシャルゲストをお呼びしましょう!!出でよ〝編み物の神よ〟!!』


 MCまかいちゃんがそう叫ぶと『あら、皆さんよろしくね。ウフッ……』と、ドスの効いた声がどこからともなく会場に響き渡る。


 突然の優美な音楽と共に天から降り立つのは――――どう見ても、現魔王軍最強戦力の〝覇将ペコリーノ〟その方だった。


 名称:〝編み神様ペコリン〟

 本名:ペコリーノ・チーズ

 装備品

 頭:天使の輪

 手:輪針とハートの棒

 胴:〝美〟と書かれたTシャツ

 背:手作りの白羽

 腰:豪華な装飾のスカート

 足:編みタイツ


 称号:編み物界に舞い降りた乙女(死天王最強の男)


 ――――何故か、方向性を疑う程の奇抜な女装をしている。


 鍛え抜かれた流動する腕に宿る脈と、サイズが小さいのか、はち切れんばかりの衣服が段違いの変態度を演出している。


 変わり果てたペコリーノの姿を見たフレデシカは『パパ上大変!!新しいモンスターが現れたよ!!退治しなきゃ!!』と言いいながら、風を切る様に拳を繰り出している。


 フローラ姫撲殺の件もあった娘だが、それを止める影武者は思った。


〝ペコリーノもついでに入れ換えよう〟――――と。


【母上へ 今度、じっくりと編み物教えてください。妻と娘に服をプレゼントしたいので……】

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