第93話【後ろから割り込むのは命すら捨てる諸行也】

 周りにいる参加者達は影武者とフレデシカに気付かずに、目の前に設置されたカーテンに仕切られたスペースを見ている。


 フレデシカと手を繋ぐ影武者は『あっ、皆さん、ちょっと失礼……前へ行かせてください!!』と、人波に突っ込むが強者達の肉壁は容赦なく跳ね返す。


 しかし、負けず嫌いが災いしたのか娘を置いて何度も何度も挑み続ける。


 だが――――『クッ……流石は死天王を目指すだけはあるな。我もここまでか……!!』と、茶番をする影武者に相反して、冷たい眼差しをする娘。


 冷静なフレデシカは『パパ上~。裏口から行こうよ?』と、手を差し述べる。


 影武者の手が、うら若き乙女の手を握ろうとする瞬間――――


 辺りの灯りは消え、喧騒と熱気が会場を包み込む中、現れたのは魔王軍の最高戦力――――〝三獣士〟のだ。


〝死死舞〟と〝竜蔦〟の二人が、姿を現した瞬間に巻き起こる嵐の様な声援。


 あまりの熱狂振りに倒れたまま尻込みする影武者に声を掛けたのは、フードを深く被った痩せ型の男。


 手を差し伸べると、4Mを超す影武者を軽々と引き起こす。

 握り返した感触で見た目に反して力強い印象だが、ペコリーノの


 影武者を見上げる様に頬笑む男は『やぁ初めまして、大丈夫ですか?』と笑顔で言った。


『あぁ、すまんな。この光景を一目見ようと娘と来てだな……』


『パパ上~。早く行こうよ~!!』




【母上へ 日常生活での一期一会って大事だよ!】

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