醜い果実_種
楠ノ葉みどろ
種
僕は種。 僕を包む果肉は、誰かに食べてもらえることなく、ただ腐って朽ちた。それは僕の養分になることはなく、僕の口を塞いで、呼吸の邪魔をした。 息ができない。苦しい。
僕の中身まで腐っていく。芯まで朽ちていく。
助けて、助けてお母さん。 大きな木、僕のお母さんは、僕を見下ろすだけで助けてはくれない。ねえお母さん、僕はお母さんのすぐ下で今にも死にそうになってるんだよ。気づいて、気づいて。僕は鳥にも栗鼠にももぎ取ってもらえなかったんだ。
芽を出すことが夢だった。葉を開かせて、お父さんやお母さんのように大きくなる未来を信じて疑わなかった。 僕にはもう将来がない。誰も助けてくれなかったから。
「他人のせいにしたいだけじゃないの」
誰かが僕に囁いた。 やめて、やめて。僕は、自分の力でこの果肉を破れるほど強くないんだよ。
僕の色は、他の果実とは違っていた。だから、誰にもおいしそうって言ってもらえなかった。でも、違うのはほんの少しだった。全然色が違う子はがんばらなくても良かったのに、僕は他の果実と同じくらいがんばらなきゃいけないんだっていつも言われていた。
生まれつき色が違うのは、僕のせいじゃない。
助けてくれないのなら、せめて教えてよ。僕は一体どうすれば良かったんだ。どうすれば良かったんだよ。
どうしようもないのなら、もう、このまま朽ち果てるしかないじゃないか。
ただ、幸せに生きたかった。
醜い果実_種 楠ノ葉みどろ @kusunohacherry
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます