36.就職活動編
寄宿舎から出てさらに東。
畑が続く道を徒歩進んで十五分ほど、畑と平原の狭間に砦のような大きな塔と建物がある。
王都の狩人組合東支部だ。
城下町の中心地から離れた東の隅っこにあるこの施設は、魔物が街へ侵入したり、畑への被害を防いだりする防壁役として建てられた。
中世ヨーロッパでよく見る城壁や外壁は、王宮の周囲以外はない。
国民や建物が年々増加増していく王都では、国が大きくなる度に外壁を作り変えていたらしい。 しかし数百年前、城壁の再建築は予算の無駄だと一斉にやめてしまったのだという。
城壁の代わりに作られたのが、この狩人組合支部だ。
北、東、西、南と、各方角にオルディナ王国を囲うように配備され、魔物が近づかないように新人や下段の狩人達が日によって代わる代わる警備に当たっている。
「フィエルさん、扉を潜りますよ、いいですか?気を付けてくださいね…!」
「サクマったら、そこまで警戒しなくていいのに」
扉を潜る時とか最も油断ポイントが発生する所ですよ!
フィエルさんとそんな会話をしつつ、俺らは狩人支部への扉を開くと――飛んでくるのは複数の視線だった。
木製の扉を開いた先には、受付案内がある場所へと繋がっている。
狩人達はこの案内所で魔物の目撃情報や出現場所、討伐依頼の魔物の情報を得て狩りの予定を立てるのだという。
それゆえに、案内所にはいつも数人の狩人がよくたむろっていた。
どの狩人達も強そうで筋肉隆々な野郎どもばかり。 歳の頃は二十代から三十代付近、無骨な防具と武器を携えている様は威圧感を感じて近寄りたくない集団だ。
時々女性狩人の姿も見かけはするが、大半は血の気の多い男が多い職業が狩人職だ。
そんな筋肉ムキムキ男臭が漂う地帯に年ごろの可憐な女の子が紛れてみろ、悪目立ちしてしまうのは確定事項である。
案の定、狩人達の雑談が一斉に止み、俺達へ視線が集まっていた。 見つめてくる狩人達の目には、こんな所に子供が何の用だといわんばかりの目だ。
慣れない雰囲気の中をフィエルさんと一緒に横切り、俺はいつ何時、固い拳が飛んできても守れるように彼女の側をぴったりと寄り添ってディフェンスムーブを実行した。
「…サクマ、大丈夫? おっきいお兄さんやおじさん達がたくさんいるけど怖くないからね?」
「は?…あ、えーと、その…だいじょうぶです…」
逆に心配されてしまった。
フィエルさんに寄り添う姿が狩人を怯えているように見えたらしい。
「…は~、かわいい姉妹だよなぁ…あんなにピッタリ引っ付いて…」
「お揃いの三つ編みして仲がいいよなぁ…オレもあんな娘がほしい…」
「風呂入って小綺麗な服と花束片手に女探せよ。 あの二人よく見かけるようになったけどさ、まさか狩人じゃねぇよな?」
「違うって、榛色の髪の子が医務室の助手見習いなんだよ、医務室で見たし。 お姉ちゃんの送り迎えに妹ちゃんも来てんだろ?」
「俺、
「え、マジで?似てねぇな! あ、医務室にかわいい子がいるって噂になってたけどあの子のことか」
「西の村にいる嫁と娘に会いたい…いっぱい稼せご…」
「お前父ちゃんになったばっかだもんなぁー!がんばろうなー!」
「オレも奥さんほしいぃ!!」
「おめぇはその髭面をどうにかしろって、女狩人から大不評だぞ」
――なんて、狩人達がぼそぼそと話している言葉は、奥へ向かう俺達には聞こえなかった。
案内フロアーの奥へ進むと長い廊下が続き、魔物の解体場所や素材保管庫に武器庫、狩人の為の宿泊施設から食事所、医務室といったガッシリとした設備が並んでいる。
狩られた魔物の各部位は狩人組合と契約している商人らが買い取り、王都の市場や各方面へと運ばれていくそうだ。
そこまで至れり尽くせりな環境を整えるということは、狩人達の働きにはそれ相応の旨味があるのだろう。
「なんだい、諦めもせずに今日も見送りかい? 熱心だねぇ、チビ小娘」
「…お、おはようございます…ケットさ、…先生様」
「おはようございます!ケット先生!」
「あーはいはい、元気で何よりだよ。 片方の小娘だけお入り。 もう片方のチビ小娘はさっさと帰れ!」
そう吐き捨てるのは片目を黒髪で隠した中年の女性だ。
身長はすらりと長く、切れ長の薄い緑色の瞳が冷ややかでちょっと怖い。 東地区の狩人組合の医務室担当の先生、ケット・バッリ先生様である。
医務室の扉を開けて早々、ケット先生様は不機嫌そうに椅子にふんぞり返っていた。
「何度も言いますが。 おれ小娘じゃないですよ」
「あーはいはい、お前は小僧だったな。 ほら、片足が入ってるぞ、誰が医務室に入っていいと許可したぁ!」
冷ややかで鋭い言葉が俺に刺さる。 初日のアレが好感度をマイナス値まで下げてしまったのだろう。
「フィエルさん、何かあればすぐに通信魔石で知らせてくださいね?」
「うん、わかってる」
「魔道具の指輪、きちんとつけてますね?危険を感じたらちゃんと使うんですよ?」
「つけてるから大丈夫よ!特訓で使い方もバッチリ!」
フィエルさんへぼそぼそと耳打ちすると、椅子に座りこんでいるケット先生様から分厚い本が飛んできた。
「ええい、まだるっこしい! ぼそぼそぼそ毎朝毎朝同じ会話するんじゃないよ小娘ども!」
「失礼しましたーー!ケット先生様、フィエルさんのことよろしくお願いしまーーす!!」
「わかっとるわ、タコスケェ!」
またあとでねー!というフィエルさんの声を最後に、医務室の扉は固く閉ざされてしまった。
「…は~…さて、オネットさんが起きるまでにお使い行きますかぁ…」
締め出された俺は廊下をとぼとぼと歩き出す。
いつ襲ってくるのかわからないドミナシオン密偵から、フィエルさん絶対守る防衛軍の一日のリズムは決められている。
深夜帯から早朝までの間にオネットさんが魔物狩りで稼ぎ、オネットさんが就寝中で不在の午前、俺がフィエルさんを狩人組合の医務室へと見送る。
医務室のケット先生様の側でフィエルさんが助手と医療のお勉強タイム。
数時間後の昼過ぎにオネットさんが起床、俺とオネットさんが合流の後にフィエルさん護衛に再開。
夕方には三人一緒に寄宿舎へ帰り、三人一緒に夕食を食べる。 お風呂やらと自由時間を三人で過ごし、三人一緒に就寝。
ここまでが平日のローテーションだ。
フィエルさんの守りを固める片手間、金を貯めるという目的もあるのだが。
オネットさんが一晩で七十万オーロを稼ぐという有能振りを発揮しているので、数か月もすればお金はしっかり溜まると思う。
ただ、オネットさんに稼がせた上に護衛もさせるのは忍びないとフィエルさんも仕事をしたがったのだ。
当初オネットさんは難色を示したのが、フィエルさんの熱意にオネットさん側が最終的に折れる形になった訳で。
そんなフィエルさんは、オネットさんが動きやすいようにと医務室のケット先生様の元でお手伝いとお勉強をすることになった。
ケット先生様はフラーウさん太鼓判の信頼出来る人物で、宮廷にも勤めていた元騎士だったとか。 第一線を若手に譲り、今では狩人組合で狩人達の怪我を拳で叩き治す白衣の先生様だ。
寄宿舎の肝っ玉お母さんのミテラさんもそうなのだが、ケット先生様も東支部の一部職員たちはこちらの事情をある程度までは知っている。
更にオルディナ王国の影の精鋭、隠密ステルス警護は継続されているという手厚い警護体制が作られた。
まあ、オネットさんも生身の人間なので、稼ぎながら二十四時間警護し続けるのは困難だ。 彼女が就寝中の早朝から昼までの間、俺はフィエルさん予備護衛任務を任されていたのだが…今ではただの送り迎え要員と化している。
(…あの時の事そろそろ許してくれてくれないかなぁ、ケット大先生様…)
それは医務室にフィエルさんが通いだした初日、新人狩人が大怪我をして運ばれてきた時に遡る。
魔物を狩り損ねた新人狩人の男が大怪我をして医務室に運ばれてきた。
新人といっても大柄な男で力も強い。 そんな大男が痛みで暴れ、フィエルさん達の処置が思うように進まなかったのだ。
それもそうだろう、医療チームはケット先生様と新人助手のフィエルさんの二人のみ。 しかも男と女だ、圧倒的な力の差がある。
ビビリながらも協力しようとした時、俺は暴れた男に蹴飛ばされてケット先生様にぶち当たり、玉突き事故のように薬品棚へと衝突してしまったのだ。
その衝撃で棚の薬品の一部は破損。 ケット先生様は無表情でお怒りになられた。
喚く男を目にもとまらぬ速さで昏倒させ、先生様は無言で俺を医務室から追放したのだ。
ちゃんと額を床に擦り付けて薬品すべて弁償しました。
お判りいただけるだろうか。 見送り後は昼まで暇になる。
護衛要員には一応入っているのに、なんという無力、なんという足手まとい。 もう出過ぎたことはしませんと誓ったのに、医務室で待機することも医務室前にいる事も禁じられたのだ。
もはや実質の戦力外通告を食らった俺は、事情を知っているケット先生様と、姿が見えないステルス隠密さんに護衛をお任せするしかないのである。
(双眼鏡なら大通りの道具屋なら大体置いてあるって言ってたけど…ここから中心街まで片道どれぐらいだろ。 徒歩でちょっとかかるかな…)
中心街へのルートを頭で思い浮かべながら廊下を進む。 いっそ術式で空飛んでった方が早いだろうか、そんなことを考えていたら壁にぶつかって転がりそうになった。
「ぅえぷっ?」
「――おっと、悪りぃな、お嬢ちゃん。 怪我はないかい?」
「あ、はい…こちらこそすみません! 前よく見てませんでした…」
ぶつかったのは大きなガタイの中年男だった。
無精ひげで白髪交じりの黒い短髪に、目じりが下がった灰色の瞳が人の好さが出てるおじさんだ。
狩人だろうか? それにしては防具も武器も所持してないし、両手には長方形の木箱を抱えているだけだった。
「んん?…ああ、医務室にいる新しい助手の妹ちゃんだっけか。 一人で何してんだ、姉ちゃんのお見送りは?」
「あ、み、見送りは終わって…その、今からお使いに行くところで…す」
ここに通いだして数日だが、俺達の情報が人伝でじんわりと広まってるんだなぁと実感。 けど、間違ってる情報も含まれていて複雑だ。
ガテン系っぽいおじさんは逞しい腕で木箱を抱えなおすと、中からがちゃりと音が聞こえた。
「お使い?…中心街の大通りにか?」
「はい、あ、大通りまでここから歩いてどれぐらいかかりますか」
「ここは東の端っこだしなぁ…お嬢ちゃんの足だったら一時間はかかるんじゃねぇかな」
「一時間…」
術式使った方が早いなと考えている横で、おじさんが人懐っこい笑顔で笑った。
「お嬢ちゃん、運いいな。 俺っちとご主人が商品を大通りの店まで運ぶんだわ。 ついでに馬車に乗っけてやるさ。 歩くよか断然早く着く」
「え、あ、…いいんですか?」
「構わん構わん、ちっちゃいお嬢ちゃんが乗る場所ぐらいあるさぁ。 ご主人も嫌とは言わんよ。 馬車はこっちだ、ついておいで」
そう言っておじさんはずんずんと狩人組合の裏側へと進んでいき、俺は短い足を動かしてその背中を追いかけた。
石畳の廊下を進んで裏手へ出るとそこには荷馬車が停まっていて、側にはひょろりっとした人物が紙束を眺めては難しい顔をしていた。
「――ああ、オゾンご苦労。 やれやれ、今月の採掘された魔石たったひと箱だけとはねぇ」
「カボ様、他に運ぶものは?」
「それとさっき運んでもらった予備品や素材で終わりだよ。 まったく、もう少し魔石採掘に力を入れても…うん?」
丸い眼鏡越しに藤色の細い目と視線が合う。 長い黒鳶色をの髪を後ろで一括りにし、服装は小綺麗にしている商人っぽい男だった。
(魔石採掘か、…色々知ってそうな人だな)
挨拶しようとした瞬間、目の前の男の細い目が驚愕の色に染まった。
「オ、オゾン、こ、こんな可憐な少女をどこで拾って…攫ってきたんだ…!? 僕をそんな犯罪に巻き込むなんてとんでもない御者だなぁっ!?」
「ち、違いますカボ様!? 狩人組合の医務室にいる新人助手の妹で…えーと?名前はなんだっけか。 このちっこいのが大通りに行きたいって言うんでさ!乗せてやったらいいんじゃないかって!」
「……なんだ、それを早く言え、兵に突き出す所だった」
なんだこの主人。 一気にテンションが上がったと思ったら、すぐに通常値に戻った。 騒がしい人だなぁと思いつつ、俺は社交辞令スマイルで頭を下げる。
「初めまして、サクマと申します。 中心街まで一緒に同乗しても構いませんか?」
「おお、礼儀正しいご令嬢だ。 僕はカボ・カオフマン、こちらは御者のオゾン。 僕はこの狩人組合の契約商人だよ。 サクマ嬢、我々も大通りの店へ戻るだけだから良ければ是非ご一緒にどうぞ、歓迎するよ」
そういうなり、カボご主人様は胸に手を当て優雅に挨拶をした。 おまけに細い瞳でパチリとウィンクを飛ばしてくるというサービス付きで。
素直にゾワっと寒気が走った。 誰得だよ。
「…助かります」
「さあさあ!カボ様、お嬢ちゃん、乗った乗った!」
ガタイのいいオゾンさんが魔石が入っているらしい木箱を荷台へ置き、手綱を握る前の席へと座った。 続いてカボさんがその真横に座り、自身の膝を手でポンポンする動作をする。 うん?
「さあ、僕の膝の上にどうぞ、サクマ嬢」
とても晴れやかな笑顔でおっしゃられた。
は??お前の眼は節穴か?? とは言わないが、お前のその幻想を打ち砕く為に主張しよう。
「おれの性別は男なので、膝の上はご遠慮します」
「「は?」」
「なので、お嬢ちゃん呼びは勘弁してください」
カボさんは瞬間冷凍したかのように固まり、オゾンさんは実に申し訳なさそうに眉毛を下げた。
何度か繰り返してきたがこの訂正が面倒すぎる。 いっそ服にデカデカと「性別:男」と書くべきだろうか。
カボさんの膝の上をスルーし、御者席の真後ろの荷物との隙間によいせと陣取った。
「いやぁ、俺っちてっきり女の子かと…すまねぇな、坊主。 間違えちまったわ~」
「……詐欺だぁ……」
「なんだかよく間違われるので慣れ……詐欺って酷くありません?」
失礼な奴だな!?
カボさんはハニートラップに引っ掛けられたような絶望した顔をしていた。 俺は悪くねぇぞ!
かっぽかっぽと軽快な蹄を響かせ、荷馬車が中心街へ続く道を進む。 馬の足だと二十分ぐらいで着くそうだ。
まあ、術式で飛んでいけばもっと早いんだろうが。 オゾンさんの手綱さばきを横目に、俺は荷台から顔を乗り出した。
「カボさん、差し支えなければ質問いいですか」
「な、なんだい、サクマ君。 何が聞きたいんだい?」
リストを眺めていたカボさんがどこか気まずそうに見つめてくる。 隣に居るオゾンさんは鼻歌交じりでご機嫌そうだ。
そんな真後ろにいる俺は、オゾンさんが運んでいた木箱へ指先を向けた。
「この魔石、どこで採掘してるんでしょうか?」
魔石の情報が聞けるのならと同乗したのだ。
近場で魔石が調達できるなら、こそこそ隠れて浮島に戻らなくてもいいし。
「……ああ、その魔石はここから東にセグレートと呼ばれる森で採掘されたものだよ。 北のカタルシルア大森林より半分もない森だけど、そこでも良質の魔石が採掘されてるんだ」
「狩人以外の…資格のない者が魔石の採掘ってしてもいいんでしょうか」
「うん?勝手に採掘しても罰せられる法律はないさ! 一番最初に見つけた人物に所有権があるからねぇ。 行けるものなら僕でも探しに行きたい所だけど…」
次の瞬間、カボさんの声が少し窘めるように固くなった。
「まさか…魔石を探しに行こうだなんて考えてないだろうねぇ? カタルシルア大森林程ではないにしろ、セグレートの森の魔物だってとても強いんだ。 上段者の狩人も森の奥へ行くにはそれ相応の強さと狩人仲間が必要になってくる」
オルディナ王都の北北西にあるカタルシルア大森林が比較対象に上がっているが。
つまりは大森林側が魔石採掘のメッカの土地なのだろう。
魔石が豊富に採れるということは、同時に魔力溜まりの影響で魔物の強さと数も上がることになる。
「去年だったかなぁ。 経験の浅い狩人らが魔石採掘で大金を稼ごうと森に入って、全員魔物に噛み殺されて手足しか返ってこなかったこともあったんだよ」
「……ひぇ……」
手足しか返ってこないって、怖っ。 どんな魔物が潜んでるんだ…。 俺が倒した黒猪より強くて怖いのだろうか?
「なんだ坊主、そんな危ないこと考えてるのか? カボ様の言う通り、セグレートの森はあぶねぇ場所なんだ、姉ちゃん悲しませちゃあいけねぇぞ!」
「ぅへっ? あ、いや…そんな物騒なことは考えてませんよ…!」
正直に言うと、考えてはいる。
鼻歌を歌っていたオゾンさんがこちらを振り返って、めっ!モードに入っている。デッカイおっさんにやられると迫力満点だから勘弁してほしい。
俺が慌てて否定する横でカボさんがくすりと笑う気配がした。
「…サクマ君は随分遠い所から来たんだねぇ」
俺のビビりな心臓が、またビクリと跳ね上がった。
「――、……わかりますか?」
「ああ、さっきの質問は特に顕著かなぁ~。 今話した内容は大体のオルディナ国民が知っている内容だからさ」
「…そう、なんですね…はは…」
たしかに、考えれば他所者丸出しな質問だよな。
「じゃあ、坊主はどっから来たんだ?」
「あー…そのー…北のドミナシオンの…北の端っこにある小さい村です」
なんとなしの質問だったのだろう、オゾンさんが鼻歌交じりで聞いてきた。
事情を知っている関係者以外には、俺達三人はドミナシオンからの
移民と言ってしまえば、大体の人が訳あり出稼ぎなのだと察してくれるそうだ。 下手に隠したとしても、特にフィエルさんやオネットさんの口調や仕草で気づかれる可能性があるらしい。
「へぇ、ずいぶん遠くから来たもんだなぁ。 その髪と瞳の色なら…北で暮らすのは大変そうだもんなぁ」
しみじみとオゾンさんが言う隣で、カボさんも神妙そうな顔で頷いた。
「そうだねぇ、最近は随分ときな臭い噂も聞くし…北は今どんな状態なんだい?」
「……えーと、…なんといえばいいか…」
それは俺も聞きたいぐらいなんだがな。
差し支えのない事を適当に言おうかと考えていたら、カボさんははっとしたように申し訳なさそうな顔で笑う。
「…いや、これは無粋な質問か、すまないね。 ともかく、西の森には近づいてはいけないよ?」
「は、はい…わかりました…」
「オルディナ領は暮らしやすいかい? 暖かくて過ごしやすい気候だろう」
「食べ物だってうまい! そろそろヘラフィで収穫された玉蜀黍も市場に流れてくる頃ですよね? カボ様」
「そうだねぇ! 南瓜や枝豆に茄子もだ。 夏野菜を使った料理は美味いぞぉ~!」
御者と主人の食べ物トークが交わされているのを横目に、俺はそっと安堵のため息をついた。
(カボさんとオゾンさん、悪い人そうには見えないけど…。 余計な事を言わないように気をつけよう)
それにしても、魔石が採れるというセグレートの森を一度見に行きたいのが本音だ。
ガチ魔石採掘をするのなら事前準備をしなければ。 魔物に食われてデッドエンドは回避したいし。
ああ、それと。
「質問ついでにもう一ついいですか?」
「うん? なんだいサクマ君」
「狩人が使うような…丈夫で便利な双眼鏡って、どこへ行けば買えますか?」
オネットさんのお使い任務を遂行しなければな。
「…双眼鏡か、うーん、安価な物から高価な物まで幅広いけど…予算はいかほどだい?」
「そうですね…長持ちで便利なら、言い値で買うぐらいには」
安くて丈夫で便利なら素晴らしいが、大体は安かろう悪かろうですぐに壊れて買い替えなければならない羽目になる。
それなら最初からケチらず、長く使えて丈夫で良質な方を買った方が断然いい。
パソコンとか外付けHDで痛い目にあったこともあるからな! あれは物理で凹む。
「なら、おすすめのお店を知っているよ!」
カボさんが細い目を更に細くし、満面の笑みで笑った。
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