29.検査と修理と短期観光編
プエンテからメルカートル、スルス、デウチ、ヘラフィへと東へ東へと大陸横断の末、多草月十五焔の日の夕方にオルディナ王国へ到着した。
筋金入りのインドア人生を歩んでいたゆえに旅の道中は何から何まで新鮮初体験づくし。
そんな短期間旅行のゴール地点、オルディナ王都は今まで見てきたどの街より大きな国だった。
「沢山の人がいますね…王都にはどれぐらいの人が暮らしてるんですか? フラーウさん」
「ええっとねぇ…たしか百万人は優に超えてるわ」
俺が住んでいた地元の人口よか多い。
夕暮れ色に染まったオルディナ王都の大通りはとても広く、人々が歩く歩道も整備されている。 その石畳でできた道を行き交うのは大きな馬車や荷馬車、歩道を歩く人々の数はとても多く賑やかだ。
大通りから見える建物は石造りの家が多いが、メルカートルのようなアジア圏の雰囲気を感じる建築が多い。
「帝都も人は多かったけど…ここまで活気はなかったわね」
「…北のドミナシオンは法律が厳しいところがあるからな。女達が笑顔なのはいい国の証拠だっていうしな」
オネットさんとフィエルさんが大通りを眺めて神妙に呟いた。
大通りを行き交う人々の中には武装した男衆や身なりのいい商人、夕方の買い出しに来た主婦達と様々だ。 行き交う人々の表情は笑顔が多いように感じる。
ドミナシオン帝都は見たことがないが、彼女達が言うのならオルディナ王国は明るくいい国なのだろう。
日々仕事に明け暮れ、人々も疲れた表情をしては苛立ち果ては自殺者も多い俺の母国よりは断然いい。
そんな通り過ぎる人々は俺達が乗ってる馬車に視線を奪われたかと思うと、先頭を進むイロアス隊長や女騎士達へと目が固定されていった。 群衆の合間からは黄色い声援も上がっているようだ。
「イロアス隊長の部隊って…人気なんですか?」
「もちろん!剣の腕は一、二を争うイロアス隊長を筆頭に、女の身でありながら盾と剣を持った優秀な子達が集まってるからね。 術式も扱える特殊精鋭部隊だもの!モテるわよぉ」
フラーウさんが楽しそうにざわめく群衆を眺める。
ノリがいいアルアクル隊員が片手を群衆へとあげると、さらに黄色い声援が飛んで来た。 さらには大通りに並ぶ建物の窓から花束や花びらが舞い始め、雰囲気はさながら凱旋だ。
若い娘さんが懸命に飛ばした花束をイロアス隊長は涼やかな目で流している。 笑顔ぐらい向けてやれよ、サービス精神がねぇな。
「…凄いですねぇ…」
「そのツラなんだよ、顔と言ってることがあってないぞ」
醜い嫉妬の炎が燃えあがって表情が抜け落ちていたのかもしれない。オネットさんが訝しげに俺の頬っぺたを突いてきた。それやめい。
「気にしないでください。ただの僻みです」
「はあ? 何を僻んでんだよ」
「キャーキャー言われたことがないモテない男の僻みです」
「「きゃーきゃー」」
完璧な棒読みで二人が声をあげた。違う、そうじゃない。
「心配しなくてもサクマは後五年ぐらいしたらぎゃあぎゃあ言われるだろ。身長も伸びるだろうし?もちろん、剣を上手く扱えるぐらいに身体鍛えたらな」
「…デスヨネー」
キレイ~カワイイ~というよりは、腕っぷしが強くて細マッチョぐらいが女子的には好感度が高いだろう。
イロアス隊長は王子様フェイスで身長もデカイし細マッチョだし。 むしろ脱いだらムッキムキで胸毛も生えてるだろ多分。 それはそれはおモテになられるだろうよ、ぺっ。
「サクマはとっても綺麗なお姫様……美青年になってそうね」
「お姫様ってなんですか、お姫様って」
「例えよ、例え」
フィエルさんがキリリと答える。フィエルさんの中で俺は可愛い妹ポジなのか、なんでや。オネットさんもそこで声を殺して笑うなよ。
「サクマくんは森人族の血が濃いのかしら? 森人族は筋肉がつきにくいって聞くけど…寿命の長さも私達人族とは違ってくるでしょうねぇ」
「ええっと…血が混ざりすぎて…その、おれにもよくわからなくて」
フラーウさんが興味深げに聞いてくるが、俺は曖昧に答えるしかない。 俺の体は鍛えてもムキムキにならないし、物理改造しなければ十歳前後の姿のままだろう。
メンテやら改造やらをし続ければ長生きは出来るかもしれないが。
(…だからって、長生きしたい訳でもないしな)
その問題についても追い追い考えねばなるまい。
いつまでたっても成長もしなかったら気味悪がられるだろうし。
「…むきむきになりたいです…」
「頑張って鍛えろ」
「ムキムキ…かわいくない…」
「なんでフィエルさんが深刻そうな顔をするんです」
フィエルさん、俺にどんな夢もってんすか。
そんなこんなで馬車に揺られてオルディナ国王がいる王城へと向かった。
広大な街中を進み続けた先には大きな湖があり、その側にそびえたつのがオルディナ王城だ。
見目は中華と和風にタイとかを混ぜたような硬派なお城で、棚田のような段差がある作りで高い城壁が三区画にわかれて城を囲っていた。
緩やかな坂道を登って大きな門をくぐると掲げられたオルディナ国旗が目に留まる。 国旗にはコスモスに似た赤い花と黒の紋様が描かれてあった。
一番最初の門の先には使用人の住む宿舎や倉庫が並び、その上の区画には兵や騎士の訓練場や宿舎が並んでいる。
三区画の一番上の段がオルディナ国王の王座がある中枢たる部分。 高官、文官、貴族たちが集まる宮廷で、更に奥へいくと王族が住まう王宮があるらしい。
宮廷の近場に馬車が止まると、アジア風な服装のメイドさん数十名がずらりと出迎えてくれた。 気づけばイロアス隊長率いる女騎士達も一列に並んでいる。
「…プエンテからオルディナまでの旅、共に歩めて光栄だった。 ここでお別れ…ではなくとも、護衛でまた顔を合わせるだろうが。 …その時はデウチ村の時のような失態はしないと誓おう」
いつもは言葉数少ないイロアス隊長が、フィエルさん、オネットさん、そして俺に向けて意外な言葉を向けてきた。
「こちらこそ。ご一緒に旅ができてとても心強かったです、イロアス隊長」
「楽な旅だったよ、隊長さん」
フィエルさんとオネットさんも笑顔で礼を言う。 旅の間である程度信頼関係は築かれたのだろう。 反して、王子様フェイスを下から仰ぎ見ながら俺は半眼で笑った。
「いつも無愛想なのに改まって言われると気持ち悪いですね」
「…私に向かって生意気な口をたたく子供は初めてだ」
「あだっ!ガンレット!ガンレットが頭皮にささる!あだだっ」
無遠慮にデカイ手で頭をぐりぐりされた。虐待!虐待だぞ!
「サクマ殿にはデウチの村で助けられたな。また機会があれば茶でも飲みながら話でもしよう」
「…じゃあね、サクマ君」
「暇だったら宿舎に遊びにきてねぇ~」
「せいぜい国内では大人しくしてなさいよねっ!」
「サクマ!やる気があるならアルルが剣の稽古つけてあげるよ!」
「じ、じゃあね…サクマ君…」
「何か派手なことしたら、わたしが捕まえに飛んでいくから」
レフィナド副隊長を筆頭にキエトさん、テネル、ネーヴェ、アルアクル、セルペンス、ミーティ隊員達がそれぞれ言葉をかけてきた。 相変わらず君らが一斉に話し出すと情報量が増えるな。
キエトさんの物言いたげな視線と、ミーティ隊員のトゲトゲな雰囲気が少し柔らかくなった差に少し苦笑する。
女だらけの団体行動は貴重な体験だったが、賑やかな彼女達と一旦お別れとなると感慨深いものがあった。
「旅の間はお世話になりました。機会があればまた、…ぐぇっ」
素直に頭を下げたら数名のアルアクル隊員に頭をわしゃわしゃされた。腕力が土台違うから首への負荷がすごい。
キエトさんの目線の冷たさの理由はわからずじまいだったが、ミーティ隊員には少し許されたっぽいし、問題も無く旅は終わったのだから良しとしよう。
イロアス隊長と彼女達の去り際、御者のお兄さんにも礼を言って一旦のお別れとなり、フラーウさんとメイドさんの案内でゲストハウスの一角へと案内されたのだった。
「改めて、ようこそオルディナ王国へ! 明日にはわたしの上司と顔合わせしてもらうことになるから、そのつもりでいてね」
落ち着いた色合いで統一された室内は居心地のいい部屋だった。
メルカトールでも思ったが、金ぴかキラキラでないあたりが好感度が高い。 しかし、家具や品はとても質が良い物が置かれているのだろう、細やかな装飾がとてもオシャンである。
そして、俺はまたフィエルさん達の一緒の部屋へと通されていた。 旅の間は亡命組はべったりだったし、どうせ一緒に寝るんだろうとか思われているのかもしれない。心外である。
「食事もここの部屋に運ばせるよう手配してるから、旅の疲れをゆっくり癒してね。何かあったら隣の部屋で待機してる女中に声をかけて頂戴」
また明日と、フラーウさんは軽やかな足取りでどこかへと去って行った。 上司とやらに報告しにいったのかもしれない。
そして部屋の前には甲冑を着こんだ騎士が二人。やはり護衛体制はそのままという感じか。 お疲れ様ですとばかりに微笑んだら、無表情ながらも敬礼をしてくれた。 騎士業も大変そうですね。
そそくさと扉を閉めて、俺達は大きなソファーへ腰を落とし顔を突き合わせた。
「明日には交渉第二弾です。フィエルさん、オネットさん、無茶難題押し付けられたら断るんですよ」
「勿論、腹は決まってる。…それよりもサクマが心配だな」
「そうよね、メルカートルでの事もあるし…私も心配」
「うぐぐ」
ごもっとも。ある意味一番の不安要素は俺である。 だが、俺の事は一旦横に置いてほしい、まずは君らだよ。
「おれの事は大丈夫ですってば。…特にフィエルさん。怪我の治療ともなれば次から次に声が上がるかもしれません。 デウチ村のように切りがなくなってフィエルさん自身が危険になります」
「…ええ、勿論、気をつけるわ」
この治癒の力は私が使いたいと思った時に使うと彼女は言ったが、やはり心配ではある。 第二王子の治療をする事も決まっている事だし。
「…王子様の治療におれも付き添いに行きますから」
「フィーはふわふわしてる所あるからなぁ…フィーを頼むよ、サクマ」
「わかりました、その件については任せてください」
「もう!二人とも心配性ね!」
フィエルさんは絶対守るマン同盟として俺はオネットさんと硬い握手を交わす。 その横でフィエルさんが仲間外れ禁止!とばかりに間に入ってきた。そういう所ほんとかわいいですね。
「ともあれ、やっとここまできたな」
「…ええ、そうね」
長かったと二人は小さく呟く。城からの脱出は年単位の計画だとも聞いたし、命がけの亡命だったのは確実だ。
「物思いにふけるのもいいですが、ほら、外套脱いで。明日のためにもしっかり休みましょう」
俺は二人の外套を脱がせて折り畳んだ。
たしかこの部屋にはお風呂場が設備されていると聞いた。 彼女達は風呂好きだし、夕食の前には旅の埃を落としたいだろう。
風呂場を覗きに行くとゲストハウス宜しく立派な湯殿があった。 貯水用の魔石も設備されているからすぐにでも入れそうだ。
魔石の術式を発動させればドバドバと暖かい湯が湯船を満たしていく。文化的で最高。
「湯船が大きくて足も伸ばせそうですよ、は、うわっ!?」
突如、背を押されて俺は服のまま湯船にどぼんとダイブしてしまった。
びしょ濡れで振り向くと、オネットさんがしてやったりとばかりにニヤついていた。
「隙ありだぞ~、サクマ」
「何するんですか…あーもー、全身びしょ濡れですよ」
「あ、二人して楽しそうなことしてるー!私も!私も!」
そこからはフィエルさんも参戦しての大騒ぎ。 年甲斐もなく修学旅行の勢いとばかりにお風呂場ではしゃいだ。
いつもはしっかりとした面構えのオネットさんにフィエルさん。そのはしゃぐ姿は年相応に見える。
本来あるべき姿はこの笑顔だ。 彼女達の笑顔がもっと増えるといいな。
「わーっ、オルディナの石鹸とってもいい香りね!」
「あ、こっちの髪用の液体石鹸は蜂蜜の匂いするな。…そうだ、サクマが持ってたのもいい匂いしてたよな。あれの匂いも好き」
「わかる!私も好き。 薬草のいい匂いだし、髪の毛もサラサラになるし。 サクマの髪の毛が綺麗な秘訣は石鹸かしら」
はしゃいだついでにそのままお風呂タイムとなった訳で。
「…たしかまだ鞄の中にあると思いますよ。とって来ましょうか?」
さも当然とばかりに俺も一緒にお風呂場にいた。
「うーん、今回は王宮御用達っぽい石鹸と香油使ってみましょう!」
「贅沢品だもんなー」
「おれが持ってる固形石鹸と液体石鹸、作ろうと思えば作れますよ」
「ほんと?!」
まるで女子の仲間入りのような雰囲気である。何故だろうと首をかしげるばかりだが、二人にとっては俺はチン毛も生えていないボーイ。 いくら俺が異性として認識しろと言っても効果はなかった。
困った、心底困った。何が困ったかというと、
(…生の女体に慣れてしまった…童貞男としてどうなんだ…)
旅の道中でも一緒にお風呂やらベッドで添い寝やらとして来たのだが。 その弊害か、俺はすっかり彼女達と共に入るお風呂に免疫がついて慣れてしまったのだ。
(俺の息子さんはこれっぽっちも反応しないし…)
年若い女の子らの全裸がすぐ側にいたとしてもぴくりともしない股座の息子さんには以前から疑問を感じていたが。 如何せん今は人外ボディ。
下半身事情は生命の根源、いっそもう神の領域に通じる所もある。 そういうものだと思い下半身事情は深く考えないようにしていた。 真実を知ったらショックで立ち直れそうにない。
「お湯かけるわよー」
「っぶはっ、…ありがとうございます」
フィエルさんに頭や体を洗われる俺。もはや恒例となってしまった。
見慣れたとはいえ、彼女達の体を直視しないよう虚空を見つめる俺を褒めて欲しい。
「今度はフィーな、あたしがやってあげる」
「ふふっ、お願いしまーす」
オネットさんがフィエルさんの長い髪を大切そうに洗う姿は今回が初めてではないが。
(…ほんと、オネットさんはフィエルさんが大事なんだな…)
彼女達の出会いからドミナシオンでどう暮らしていたかは詳しくは知らない。 だが、彼女達はこんな風に寄り添って耐えていたのだろうと思うと目元にじわりときてしまう。
湯船に浸かりながら洗いっこしている二人の楽しげな声をBGMに俺は虚空を見つめた。
「サクマ、暇ならあたしの頭洗って」
「へっ?」
「ほら、はやく」
「は、はあ…」
イケメン女子が悪戯っぽい顔で急かしてくる。 しぶしぶ俺は腰にタオルを巻きつけながらオネットさんの背後へと立った。
「…あんまりしたことないんで下手かもしれませんよ」
桶にお湯を入れ、そっとオネットさんの頭へとかける。 両目にお湯が入らないように気を付けながら。
ふわふわの赤毛がお湯に濡れて白いうなじへ張り付くのを何とも言えない心境で眺めた。
「あ、ずるい! 今度は私にもやってね」
「…今度ですよ、今度」
オネットさんに背を洗われているフィエルさんからも要望が飛んできた。 君ら、少年を洗うのも洗わせるのも楽しいタイプか?
髪用の液体石鹸を両手で泡立たせ、そろりそろりと鮮やかな赤毛へと指を滑らせる。 予想よりオネットさんの髪の毛は柔らかな感触がした。
「ん~、ふはっ、くすぐったい。もっと強めでいいよ」
「はいはい…」
俺の細い指でちょっと強めに頭皮の根本から擦ると、気持ちよさそうな声が上がってドキリとする。
(視覚的に慣れたとはいえ、こういう接触には免疫はまだない…平常心平常心…ん?)
ふと、指先に堅い何かが当たる。 よく見るとオネットさんの片耳にある耳飾りの感触だった。
俺が貸した隠ぺい魔術式モリモリなイヤーカフの他、もう一つ小さな耳飾りがキラリと光っている。
その耳飾りを良く見れば宝石が使われているようだった。オネットさんの髪はふわふわで耳元が隠れているから今まで気付かなかったのだろう。
「…オネットさん、耳飾りしてたんですね」
「ん?…ああ、これな。ガキの頃から持ってたんだ」
丁寧に髪先まで洗ってお湯で洗い流した後、ふと気になってオネットさんの耳元を見つめる。 なんだか彼女が好んで付けそうなアクセサリーではなさそうなデザインだ。
「…なんか高そうな宝石ついてますね」
「見てみるか? ほら」
オネットさんが耳からひょいと取り外し、俺の手へと乗せた。その耳飾りは全体的に使い古されているのか、傷がついたり擦れて模様が薄れている箇所もあった。
古ぼけた金の装飾の中心に無色透明な鉱石がはめ込まれ、いや、これは宝石じゃなくて、
「…これ、魔石ですね。 これ事態にはもう魔力は無いようですが…」
「そーなのか?…ずっと持ってたけど、魔石って気づかなかったな」
天然の純魔石は見目は無色透明なゆえにガラスやダイヤ、天然水晶と並べてしまうと見分けるのが難しい場合がある。 見分ける方法は魔力に反応するかしないかで違いを図るしかないのだが。
「サイズは小さいですが、純魔石です」
黄金色の装飾の中心に収まっているのは希少価値の高い天然純魔石だった。
出来心で耳飾りの魔石に魔力を帯びた指で触れると、一センチに満たない鉱石の中心にぼんやりとした模様が浮き上がる。
「…何か、刻まれてますよ。この魔石…」
透明な純魔石の中心には盾と剣、炎のような模様が見える。
「…あ、ほんとだ。…初めて見た」
「魔力に反応して浮き上がるみたいです。…んー、魔術式とは違うみたいですが…」
魔石にわざわざ短縮術式で刻んだであろう模様は魔術文字ではない。 ただの装飾用の模様なのだろうか、何の効力も発揮しないようだった。
暫くすると、耳飾りから魔力が霧散して模様が消える。 その耳飾りをオネットさんへ返すと彼女も神妙な表情で小さな耳飾りを見つめていた。
「…多分、あたしの母さんが身に着けてた物だと思うんだ」
「多分、ですか?」
「はっきり覚えてなくてな。小さい頃…三、四歳頃…かな」
「あ、私、オネの小さい頃の話聞いたことないわ」
フィエルさんが湯船から上半身を乗り上げ、聞きたげにオネットさんへと視線を向けている。
「…楽しい話じゃないから、また今度な」
「え~~~」
フィエルさんからブーイングが飛ぶが、オネットさんはこの話はここまでとばかりに背を向けた。
「サークマ、背中も頼む」
「は、はーい…」
そう言って、傷と術式が刻まれた背を丁寧にタオルで洗う。
一瞬だけ見えた緑色の瞳は、踏み込んで聞けない色合いをしていた気がした。
(盾と剣と炎か、…まるでどこかの家紋とか国旗みたいだな)
貴重で高価な筈の純魔石が使われている以上、身分が高い人間が手にできる素材だ。 オルディナの国旗はコスモスっぽい花だし、メルカトールは別の花の模様だった筈だ。
ドミナシオンの国旗ってどんな模様なんだろう。 まさか、オネットさんの出自はドミナシオンのお貴族様、とかだったりするのか?
(…なんて、深読みするのはオタクの悪い癖だな)
ロイヤルのゲストお風呂を堪能した後、備え付けの香油やらクリームやらを塗られ塗ったりの大騒ぎの大はしゃぎ。
メイドさん達が運んできた料理をがっつり食べた後は、三人でじゃれ合うように大きなベッドで寝転がって川の字で眠った。
女子高生かよ!見目美少年だがオッサンまざってんぞ!これでいいのかよ!
とは、突っ込んでくれる人は誰一人いないのであった。
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