15:旅人と採取とポーション

 中は思ったより薄暗かった。これじゃあ筆談なんてできそうにない。

 ロイド王子がいてくれなかったら誰とも意思疏通できないところだったわ。ありがたやありがたや。


「そこそこ広いね。外から見た感じだともっと狭そうに見えたけど」


「階層を下るごとに広くなっていきますよ」


「その分魔物も大きく、尚且つ強くなるってオチかな?」


「ええ、仰る通りで」


 隣を歩くロイド王子に後方にいる勇者騎士が返事する。



 今回の陣形は、前衛が冒険者リーダーと騎士二人、遊撃が私とロイド王子と爽快少年、後衛が冒険者二人、殿に騎士が一人。

 指揮官である勇者騎士と迷宮や魔物についてを記す記録係が遊撃組と後衛組の間。

 迷宮に手慣れたやつを最前線に立たせるのは妥当だな。

 遊撃っつっても私ら全員近接戦闘が得意分野だから状況に応じて前衛と入れ替わり立ち替わりするけども。


 爽快少年は一応遊撃だが、最優先は私とロイド王子の護衛。

 騎士達はあくまで迷宮の調査が仕事だからな。お偉いさんの護衛なんぞやってる暇はない。私はともかく、ロイド王子に何かあったらマズイもんな。


 帝国騎士団と一般兵士じゃ例え同じランクでも実力に差が出るけど、ロイド王子いわく「豚の駒にされないよう実力を隠す人もいるんだよ」とのことなので、もしかしたら騎士より強いのかもしれない。なら護衛なのも頷ける。

 豚ってのが誰なのかはさすがに分からなかったが、少なくとも良い人間じゃないことだけは理解した。


 しばらく歩くと、前方に淡く輝く白い花の群集があることに気づく。


 あれ何の花だろ!? 見たことないやつだ!


 テンションが上がった私は前衛組を押し退けてすっ飛んでいき、夢中で白い花を採取していく。


「これ何の花?」


「ヒール草ですね。初級ポーションの材料ですよ」


「あの貴重な薬の材料ですか! こんな場所にあったんですね」


 遅れてやってきた面々。


 ロイド王子が隣にしゃがんでしげしげと白い花を眺め、勇者騎士が簡単に説明し、爽快少年が驚きの声を上げる。


 ポーションとは、一般に売られてる傷薬の上位版だ。


 傷の治りが少し早くなる程度の傷薬に比べ、ポーションは患部にぶっかけたり飲んだりするとたちまち治る優れもの。

 初級・中級・上級・特級などに分かれており、治る程度がそれぞれ違う。


 例えば初級なら軽い切り傷やかすり傷などの小さな怪我しか治せないが、中級になると火傷とかちょっと深い傷などを治せる。

 上級以上は文献にしか記されていないので分からない。

 材料が手に入らないから作れないのだ。

 初級ポーションの材料が迷宮で取れるなら他のポーションの材料も迷宮で取れるんじゃないかな?

 中級までの材料は手に入る。となると、最高記録にある階層より深い場所まで行かないと上級以上は作れないのかも。


 初級と中級だけでもかなり貴重だけどね。

 他の国はどうか知らないけど、フォルス帝国では定期的に行われる迷宮探索以外の立ち入りは禁止されてるそうだから取ってこれる数にも限りがある。ということはポーションを作れる数にも限りがある訳で。

 結果、かなりお高い値段になっちゃって貴族と王族が独占しちゃってるのだ。


 一般解放すればポーションの材料だけじゃなく色んな素材がもっといっばい手に入るのに……もったいない。まぁそこは政治か何か絡んでるんだろう。私の口出しすることじゃない。


 ポーションの材料なら売った方が金になるけど、この数日でかなり儲けたからな。あんまりお金使わないし多過ぎても困る。

 知り合いに渡そう。有効活用してくれるだろうし。


 全部採取すると生えなくなっちゃうので少しだけ残しておく。

 迷宮の魔物は無限でも、迷宮内に自然に生息してる素材はそうじゃないからな。


「チッ……早くしろよ!そんな雑草なんかより魔物だ!」


 痺れを切らした冒険者リーダーが舌打ち混じりに放った暴言に眉を寄せた。


 鞄の口を閉じ、冒険者リーダーに冷たい眼差しを送る。


「今の発言は撤回しろ。これはそこら辺に生えてる草とは訳が違うんだよ、だってさ」


 私の心の声を通訳したロイド王子に一瞬視線が集まるが、すぐに私へと移される。


「女が俺に指図すんな!雑草を雑草っつって何が悪い!どうせ庶民には手が出せねぇモンだろうがよ!」


「それでも言っていいことと悪いことがあんだろ。そっちこそ女の私に負けたくせに偉そうに言ってんじゃねぇよバーカ」


「んだとオラァ!!」


 頭に血が上った冒険者リーダーが私に殴りかかってくる。

 咄嗟、って感じで爽快少年が私を守ろうと構えたがするりと抜けて冒険者リーダーを迎え撃った。


 容赦なく飛んできた拳を片手で受け止め、そのまま後ろ手に捻る。


「いでででっ!?」


「早く行きたいなら勝手にどうぞ。ただしポーションは使わせねぇよ」


「ぐっ……お、お前にそんなこと決める権利ねぇだろうが!」


 指揮官に目配せすると深く頷いた。


「ケラー殿の言う通りだ。ポーションは特効薬。確かに平民には手を出しづらい値段だが、迷宮探索には経費で使用許可が降りている。お前達も何度も使っただろう? その原材料を雑草などと……到底許されない発言だ。そんなことを言う者にポーションを使わせる道理はない」


 勇者騎士の言葉で私が掴んでる手に力が入っていったが、言い返せずに歯を噛み締めて力を抜いた。


 全くもってその通りだ。

 フォルス帝国だけじゃなく、他国でも貴重な品として一目置かれている薬を踏みにじるなんて、下手すりゃ処罰されるぞ。それほどすごい回復薬なんだ。

 自分でも使ったことあるならその有り難みも痛感してるだろうに、なんでいちいち突っ掛かってくるかな……


 冒険者リーダーの手を放すと痛みに耐えながらも大人しく引き下がった。

 今大人しくしてもまた突っ掛かってくるかもしれん。警戒しておこう。


 険悪ムードが再発しつつも皆揃って行進する。


「俺の存在意義……ぐすん」


 何故か爽快少年が涙目で地面に『の』の字を書いていじけてた。

 勇者騎士に慰められてた。


 よく分からんけど元気出せ少年! 先は長いぞ!





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