second episode(4):霧の森にて/エンカウンター・ロード

 さて、無事『叡知の剣』を貰った私たちはエルメンリットに……すんなり行けたら苦労しないよね。

 だって霧の森だよ。絶対フィールドタイプのダンジョンだ。

 そしてまさしく私たちは交戦中なのだった。

「お姉様、射線開けて!光の擲弾ルミナス・グレネード!」

 確認を待たずに光の力を帯びたグレネードを投げつける。お姉様の能力なら見てから回避余裕なはずなので問題ない。

 背後で聖剣による切断特有の妙に綺麗な切断音。

「やっぱり、こういうときは範囲攻撃のありがたみが強いね!こっちは24体!そっちは?」

 とはお姉様の談だ。お姉様は戦士タイプであるからして、攻撃範囲は広くない。それを人外的な機動力で補っている。

「40から先は数えてません!そんな余裕ないです!」

 相手は低級の魔物。私になる前のティアでも量を別にすれば勝てないことはない相手だ。

 だが量が問題だった。森に入るなり、増援が途切れることがない。さっきから吹き飛ばすなりなんなりしてるが、一向に減る気配がない。

 さっきから光の擲弾ルミナス・グレネードやら神聖なる投擲セイグリッド・グレネードやら適当な魔法で焼き捨てているが、もう限界だ。

「あー、もう!お姉様、しのいでください!全域凍結フル・フリーズ!」

 しびれを切らして空間上の全てを凍結させる魔法を放つ。いわゆる全体攻撃だ。

 視界内のほとんどすべての物体は凍りついている。

 例外はレジストしたお姉様くらいだ。

「……はじめからこうすれば良かったのに」

 霜を払いながらお姉様が言う。

 まあ、霧の中で空間を凍らせれば霜はでるよね。

「こんなに多いとは思わなかったんですよ。威力が高い分魔力の食いかたも多いですし、地面も凍っちゃいますし」

 そんな風に談笑してると、ピキピキと音をたてて奥地の方から何かが現れた。

「うそ、まだ来るんですか……」

 飲んでいたポーションの蓋を雑に閉めて、見据える。

 お姉様はすでに戦闘態勢だ。

 はたして、奥から現れたのは四本の腕と竜の下半身と鷲の羽を持つやたら大きいケンタウロス……ケンタウロスかこれ?

 そのケンタウロス(仮)は意外にも友好的に口を開いた。

「いやあ、狩りをしていたら獲物がそちらに逃げてしまっていたようですね。申し訳ない」

 なるほど、お前のせいか。

「何故、このようなところに?」

 とはお姉様。そしてその答えが「妖精についてきたら帰り道がわからなくなって」だった。

「なるほど。どちらから?」

 と私がいえばエルメンリット。なるほど、目的地は同じだ。

 二人旅には未練があるが、道連れに出来るなら頼もしい。なんといっても強そうだ。

「私たちも今はエルメンリットに向かっていまして。良ければご一緒にいかがです?私はティア、こちらはリリーシアお姉様です」

 安全を手放すのは愚策だ。この世界においては。

「喜んで。私の名はアニュメヌス。よろしく、ティア、リリーシア」

 なるほど。

 その名前で強さやら外見やら出自やらの謎が解けた。

「五大獣神の一人にしてエルメンリットの祭神たる御身の助けになれるなら光栄です」

 ……ただなあ、序盤に強い味方が出るとろくなことが起きないんだよなあ。裏切ったり、やたら強いのに因縁かけられたり。


 アニュメヌスは頼もしかった。

 なんだかまだボスっぽいものを一人も倒してないのにどんどんマルバス序盤の強敵の格が落ちていってる気がする。

 このままだとはじめての勝てるボス戦がマルバスになりそうだ。

 戦斧なり咆哮なりでさくっとアニュメヌスが雑魚を散らす間、私たちは彼女――アニュメヌスは女性よりの両性だ――の背中に乗りくつろいでいた。

 今はお弁当の食べさせあいっこの最中だ。

「はい、お姉様。あーん」

 サンドイッチをあーんはどうなんだとも思うが、背に腹は代えられない。アニュメヌスの背中であまり妙な話するわけにもいかないし、ならイチャつく。

「なんだか恥ずかしいです……、アニュメヌスさんもいますし」

 と言いつつ、食べてくれる。

 素直じゃないですね。でもそこがいです。うりうり。

「ダメですよ、もっと甘々でゆりゆりした空気を楽しまないと」

 そういう空気をつくれば、A.N.I.M.A.も空気を読んでくれるはずだ。そういった打算と実益を兼ねた推測の部分は話さずに言う。

「あ、あーん……」

 はじらいながら仕掛けてくるお姉様もかわいい。

 平和な旅だ。


 ……まあ、そろそろ流れは読める。

 こうやってすこし安らかなパートのあとはだいたいあれな目に遭うって。

 果たしてそれは、霧の湖でのことだった。


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