前向きに考える入院生活
ワシントン州 香澄の病室 二〇一五年八月二七日 午後六時三〇分
ケビンや親友たちへそれぞれ入院前の気持ちを伝えた香澄とエリノアは、彼らの中で一番お世話になった女性 フローラへ声をかける。香澄にとってフローラは、自身の病気と向かうきっかけを作ってくれた女性。そしてエリノアにとってのフローラは、いじめ問題や強く生きることを教えてくれた女性でもある。
「香澄、エリー。あなたたちがこうしてお互いのわだかまりが解けて、私たちも良かったと心から思っているわ。そして香澄とエリーが手を取り合ってくれたこと……天国にいるトムたちもきっと喜んでいると思うわ」
「ありがとうございます、フローラ。本当はアメリカへ留学したときに、トムやリース、そしてソフィーたちともう一度お話がしたかった。もう彼らはいないけれど、今の私には香澄やフローラたちが側にいてくれる――それだけで十分です」
「フローラたちが家族のように私を支えてくれたこと、本当に感謝しています。……数日前までの私は、自分のことしか考えていなかった女でした。でも私にはこんなに素敵な人たちがいるって分かったから……入院生活についても大きな不安は感じていません」
おのおのがフローラたちに感謝の気持ちを述べるとともに、香澄とエリノアにとって見える世界がぐっと広がった瞬間でもある。
しかし表向きは入院生活に不安は感じないというものの、どこか寂しそうな顔をしている香澄とエリノア。そんな二人へ差し入れをするかのように、
「約数ヶ月になる予定の入院生活に退屈しないように、これは私からあなたたちへのプレゼントよ」
と言いながらフローラは両手に持っていた紙袋の中身を取り出し、香澄とエリノアの二人へそっと手渡した。
プレゼントを受け取った香澄とエリノアの二人は、中身を気にしつつも紙で包装された箱をそっと開ける。最初に箱の中身を確認したエリノアは、
「ティーカップに紅茶とラベンダーの茶葉に……これはラベンダー化粧水や美容液などが入った化粧品セットが二人分!? ふ、フローラ、このラベンダーグッズってもしかして――」
想像以上に豪華なプレゼントの内容に驚くあまり、目を大きく見開いている。
「――そう、数日前にみんなでサークル旅行へ行ったサンファン諸島の通販で取り寄せた、特製のラベンダーグッズよ。二人は年頃の女の子なんだから、入院中とはいえお肌の手入れは欠かしてはだめよ」
まさか入院前のプレゼントに化粧品セットを受け取るとは思っていなかったのか、フローラに何度も驚きの視線を向ける香澄とエリノア。
「あ、ありがとうございます。だ、だけどフローラ……病院へ入院する私たちが、こんな豪華なプレゼントを受け取ってもいいんですか?」
どうやら香澄はこれらのプレゼントを受け取ることで、病院側へ迷惑をかけてしまうのではないかと懸念しているようだ。しかも香澄とエリノアは患者という立場なので、こんな特別待遇を受けてもよいか迷っている。
そんな不安を覚えている香澄を安心させるために、それは問題ないと説明するフローラ。
「大丈夫よ、香澄。あなたとエリーは
「……分かりました。フローラ、色々とありがとうございます」
どこか納得いかない困惑した顔をしつつも、フローラからのプレゼントを素直に受け取る香澄の後ろ姿は、どこか少女のようなあどけなさを残していた。
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