お見舞いに来てくれた家族

      ワシントン州 香澄の病室 二〇一五年八月二七日 午後六時〇〇分

 精神科医のダニエルによる香澄のカウンセリングも無事終了し、これで入院前の手続きも一通り完了した。カウンセリングでは性格面において異常は認められなかったことを踏まえ、香澄は予定通り三月二七日の午後六時〇〇分から、ワシントン大学メディカルセンターへ入院することになった。

 またダニエルは香澄以外にもう一人、拒食症で悩むエリノアの担当医でもある。カウンセリングでエリノアの症状も確認したダニエルは、彼女も入院に関して大きな問題はないと判断する。エリノアもまた香澄と同じ日時で、ここワシントン大学メディカルセンターへ入院することになった。


 なお香澄とエリノアの病気の種類が異なっていたことを踏まえ、病院側は当初二人の病室を離れた場所へする予定だった。しかし香澄とエリノアの双方、およびフローラによる強い要望があったので、ダニエルや病院側は特別配慮として二人の病室を隣にしてくれた。


 事前に受ける治療内容を知っているとはいえ、不安の顔色を隠せない香澄とエリノアの二人。そんな二人を元気づけようと、香澄たちの親友のマーガレットとジェニファー、そして父親と母親代わりでもあるケビンとフローラもお見舞いに来てくれた。そして香澄の隣には、今日から一緒に入院する予定のエリノアも側にいる。

「……しばらくフローラたちに会えなくなるのは寂しいけれど、みんなのためにも私と香澄は必ず元気になって、またお家に帰ってきます」

「先生の話では、当分の間は病院の外へは出られないみたいだよ。……だけどエリー。君や香澄ならきっとこの病気を克服出来る……僕らはそう信じているよ」

「ありがとうございます、ケビン。でも今の私にはこんなに多くのお友達や家族がいるので、病気の一つや二つ――すぐに克服してみせますよ」


 二人の親友でもあるジェニファーは、香澄とエリノア双方にそれぞれ励ましの言葉をかける。普段は何かと励まされることが多いジェニファーだが、この時ばかりは逆に香澄とエリノアを激励している。

「エリー、入院生活中に寂しくなったらいつでも電話やメールしてね。エリーと香澄のいる病室は電話を使用しても大丈夫――って先生も言っていたよ」

「ありがとう、ジェニー。でも私がジェニーへ電話したら、おそらく入院中の愚痴ばかり聞いてもらうことになるけど――それでもいいの?」

「全然構わないよ、エリー。むしろ今までエリーとお話しする機会がなかったから、愚痴も含めて私は色んなこと聞きたいな」

「うん、わかった。毎日は電話しないと思うけど、時々でいいからお話に付き合ってね」

どこか照れくさそうに話すエリノアを見たジェニファーは、満面の笑みで答えてくれた。


 続いてジェニファーは香澄へ励ましの声をかけようと思っていたが、逆に彼女の方から話しかけてきた。その表情はどこか陰りが見え隠れしていることから、香澄はジェニファーに何か後ろめたいことでもあるのだろうか?

「ジェニー、本当にごめんなさい。私のせいで、あなたまで大学院への入学をさせてしまうなんて――今からでも遅くはないわ、ジェニー。大学側へ事情を話して、九月から大学院で学べるように手配しないと」

 どうやらジェニファーは秋学期(九月)から進む予定だった大学院への道を、延期するということを選んだようだ。入院直前になってジェニファーから聞かされたためか、彼女の選択を香澄は猛反対した。


 むしろ香澄が“これもすべて私のせいね”と深い自責の念を感じないように、ジェニファーは力強く香澄に声をかける。

「何を言っているんですか!? これは香澄だけの問題ではないんですよ!? それに香澄の病気の原因があの時のことだというのなら、私にもその罪を背負わせてください。そして私はで、心理学のお勉強がしたいんです」


 香澄と出会ってから物事に対する見方が変わったのか、数年前までは内気だったジェニファーとは思えないほど、彼女の心身は成長していた。同時に香澄を強く慕っていることもあってか、ジェニファーにとって大学院を一時休学することは、それほど大きな問題ではなかった。

 そんなジェニファーの気持ちを改めて知った香澄は、嬉しさのあまり思わず涙ぐんでしまう。そして香澄はとっさに右手の人差指で右目の涙を拭いながらも、

「……ジェニー、本当にありがとう」

その感謝の気持ちをジェニファーへ伝える。

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