いつまでもベストパートナー
オレゴン州 トーマスの部屋 二〇一五年八月二五日 午前五時三〇分
とっさに状況を判断したケビンからの説明によって、この場に起きた出来事を知ったジェニファーとエリノア。そんな二人とは対照的に、マーガレットは少しも同様していなかった。
そのことを一人不審に思った香澄は皆がトーマスの部屋を出る前に、
「まさかとは思うけど、メグ。もしかしてあなた、フローラが考えた今回のプランの内容について――実はトムの部屋に来る前から知っていたんじゃない?」
フローラの考えを事前に知っていたのではと、マーガレットへ率直な疑問をぶつけてみる。
「か、香澄。何を言っているんですか!? 私が午後にマギーへ電話した時に、彼女の口からそんなこと聞いていませんよ?」
「そうだよ、香澄。私も午後はフローラの側にいたけど、ペグからそんなこと聞いていないし……」
ジェニファーとエリノアに説得されるも、香澄の瞳はマーガレットをまっすぐ見つめていた。そんな香澄の頭の鋭さに感心したのか、
「……やっぱり香澄は頭良いわね。私がみんなに事情を説明する前に、すべて見破ってしまうのだから。香澄……本当にごめんなさい」
彼女の頭の良さをフォローしつつも謝罪するマーガレットだった。
同時に軽い自責の念に駆られたのか、マーガレットはフローラから聞かされたプランの内容を分かりやすく説明してくれた。
「――というわけなのよ。私もフローラから聞かされた時は、おもわず自分の耳を疑ったわ。でもそのおかげで、マーガレット・ローズ一世一代の大舞台を演じることが出来たのよ」
楽観的な性格のマーガレットらしく、心では悪いと思いながらもどこか満足げにフローラの考えたプラン内容を話している。それを聞いた一同は呆れつつも、最終的に香澄が無事戻ってきてくれたので、これ以上マーガレットやフローラを咎めることはなかった。
「まったく、一歩間違えば私やフローラたちが亡くなっていたかもしれないというのに――そういうデリカシーのない行動や言動は、十年前から少しも変わっていないのね」
やれやれと言いたげな気持ちを抑えながらも、香澄なりにマーガレットの行った対応を冷ややかに返している。
「何を言っているのよ!? これもすべて香澄のためを思って、私も嫌々やったことなんだから。そう言うあなたこそ、子どもの時から続いているその嫌みったらしい小言癖、いい加減直したら? そんな頭でっかちでひねくれた性格だから、心の病気になんかなるのよ」
「な、何ですって!? メグ、私のどこが頭でっかちで嫌みだって言うのよ!? 私そんな女じゃないわよ!」
「何よ、全部本当のことじゃない!? 何だったら香澄、多数決で勝負する?」
やっと二人が仲直りしたとフローラたちが安堵したもつかの間、香澄とマーガレットはいつもの痴話喧嘩を始めてしまった。しかし香澄とマーガレットの痴話喧嘩が始まったということは、二人の関係が元に戻ったということでもある。
「もう、二人とも。せっかく仲直りしたばかりなのに、喧嘩しないでください」
「……ペグはともかく、香澄も意外に子どもっぽい性格なんですね。フローラのように知的で落ち着いた女性だと思っていたのに、ちょっと意外だわ」
「あらあら、本当に困った子たちね。あなた、香澄とメグを止める?」
「いや……むしろこの光景を見るのも久々だから、もうしばらく様子を見よう」
ジェニファーとエリノア、ケビンとフローラたちにとっての香澄とマーガレットの痴話喧嘩は、もはや名物となってしまったようだ。そしてこの場にトーマスがいれば、
「もぅ、香澄とメグの二人は僕以上に子どもっぽい性格だよね。でもそんな香澄たちのことが……僕は好きだよ」
と言ってくれそうな和やかな雰囲気に包まれていた。
そしてどんな緊張感に包まれた状況下においても、それを一緒に乗り越えることが出来る関係にある香澄とマーガレットの二人。一度は仲違いしても最終的にはお互いに手を取り合う――そんな二人はいつまでもベストパートナーなのかもしれない。
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