窮地を救う希望の光

     オレゴン州 トーマスの部屋 二〇一五年八月二五日 午前三時〇〇分

 銃で撃たれそうになった香澄を助けようと、とっさにフローラの手から銃口を払ったジェニファー。しかしその銃が結果的に香澄に渡ってしまったことによって、ジェニファーは勇み足を踏んでしまったようだ。

 しかもあろうことに銃を手にした香澄は、何を思ったのかその銃口をフローラへ向けているのだ。

「……これで形勢は逆転しましたね、フローラ。そしてさっきの言葉、そっくりそのまま返しますね。……フローラはこの危機的状況、一体どう切り抜けるのかしら?」


 もはや銃を手にしないとフローラに勝ち目はないと焦ったのか、冷めたまなざしとともに黒い銃口を彼女へ向ける香澄。側にいたジェニファーが“香澄、やめて”と叫び続けるが、香澄はその言葉に返すことはなかった。

 香澄は今度こそ勝利を確信していたようだったが、ここでもまた彼女の意に反した行動を見せるフローラ。てっきりジェニファーのように説得するかと思いきや、フローラは香澄と同じような冷たいまなざしを見せている。

 そんなフローラの態度がかんさわったのか、

「フローラ、あなたはジェニーのように私を説得しないんですか? それともこの銃を奪われたことで、もうと諦めてしまいましたか?」

フローラへジェニファーのような仕草を見せるよう伝える香澄。どうやら自分の思い通りにことが進まないので、少なからず香澄は苛立ちを見せ始めているようだ。


 そんな香澄の心理を逆手に取るかのように、ここでもまたフローラは彼女の提案を断固拒否した。

「……一つだけ言っておくわ。香澄、あなたは私の命を奪うことは出来ないわ。……ではね」

あくまでも強気な姿勢を崩すことのないフローラ――“命をかけて香澄を守る”という言葉の意味を貫き通す、一つの決意とも呼べる行動だった。

「そう……ですか。だったらその人を見下した態度もこうすれば……少しは変わるのかしら!?」


 一向に信念を曲げないフローラに対して、香澄は手にしていた銃口を彼女の方へ向けるという大胆な行動に出てしまう。その行動を非難するかのように、

「香澄、一体何をしているの? もうこれ以上馬鹿なことは止めて」

ジェニファーは香澄を必死に、かつ何度も説得する。

 しかし恐怖に支配されつつあることによって、今の香澄は「香澄B」の人格が表に強く出てきている状態だ。そのためジェニファーが何を言おうと、今の香澄にその声が届くことはなかった。


 今度こそもう終わり――そう思われていたこの緊迫した状況を覆したのは、突如現れたの一言だった。

「……香澄、もういい加減に馬鹿なことは止めなさい!」

謎の人物の声を聞くや否や、一瞬だがこれまで張り詰めていた部屋の空気に一点の光が灯される。

 

 同時に香澄によって人質にされつつあるフローラたちも、突如現れた謎の人物へ視線を映しつつもその光景に自分たちの目を疑った。それは銃を手にしている香澄自身も同じようで、両目の瞳孔を大きく見開きながら謎の人物をしっかりと凝視している。むしろ銃を握っている右手が再び震えはじめたことから、謎の人物の登場に一番驚かされたのは香澄自身であろう。

「……あ、あなたは……まさか!? な、何であなたがここにいるのよ!?」

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