状況は一気に逆転!?

     オレゴン州 トーマスの部屋 二〇一五年八月二五日 午前二時四五分

 いささか強引な方法ではあったものの、香澄に対して行った説得の効果を少しずつ実感しているフローラ。時には型破りな説得・方法がこうそうすることもある、そんなことを教えてくれるような教訓でもあった。

『もう少しで香澄を説得出来るわね。時間はかかってしまったけれど、もう一押しすれば今度こそ……』

 心の中で手ごたえを感じているフローラが部屋の時計に視線を映すと、時刻は午前二時四五分を指している。一時間以上におよぶ心理戦の行方も、香澄ではなくフローラに軍配が上がりそうだ。


 しかしフローラがそう心の中で思いつつも、彼女が持つ銃口は依然として香澄の方へ向いたまま。しかもそんなフローラの思惑を知る由もないエリノアたちにとって、それは恐怖の光景に他ならなかった。

 このままではいつか親友の香澄が撃たれてしまうと思ったのか、

「……ふ、フローラ。もう……止めて!」

一種のかなしばりに支配されながらも必死に叫ぶ女性の姿があった。


 突然の声に驚きながらもフローラが後ろを振り向くと、そこには先ほど大声を叫んだであろうジェニファーの姿があった。このままでトーマスに続いて香澄までいなくなってしまう――いてもたってもいられなくなったジェニファーは、涙を流しながらも躊躇ちゅうちょすることなくフローラの方へ走る。


 そして今にも香澄を撃とうとするフローラを説得しようと、両手で銃を取り上げようと血眼になるジェニファー。

「な、何をするのジェニー!? 離して……離れなさい!」

「それは私のセリフですよ! フローラこそなんか取り出して、一体何を考えているんですか!? こんな強引な方法で香澄を説得したって……彼女の心がだけよ」

「なら他にどんな解決方法があるっていうの? すべて香澄の言いなりになっているだけでは、問題は何も解決しないのよ!? それともジェニー……あなたは香澄が平気で人に危害を加えるような人に変わってしまうのを、ただつもりなの!?」

「……お、お願いだからフローラ、これ以上香澄を苦しめないで。そんなものを……香澄に向けないで……」


 強気な姿勢を見せることで、あくまでも香澄を救うことを強く意識しているフローラ。その一方でこれ以上香澄を苦しめないでと、親友を命がけで守ろうと抵抗するジェニファー。その取っ組み合いの中でジェニファーがとっさに手を払ったのか、フローラが持っていた銃は勢いよく部屋の床へと転がり落ちた。

 そしてジェニファーが払った銃を拾うと思ったエリノアとケビンだったが、案の定恐怖に支配されているためか、体が思うように動かない。

『……め、目の前にある銃を取らないといけないのに、体が……動かない……』

香澄の命が危ういというこの状況下において何も出来ないことに、エリノアとケビンの二人は自分の無力さを痛感してしまう。

 

 フローラとジェニファーの言い争いはその後も収まることもなく、状況は一向に再度ふりだしに戻ってしまった。そんな状況を打ち破るかのように、

「……みんな、動かないで!」

床に転がり落ちた銃を向ける人物――の一声によって、部屋は氷が尖るような冷たい空気に包まれていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る